事のゆがみ
話の展開が途中から早くなってしまった。
っていうか、こののりだと後もう弐章必要だな。
私は転入生がきたら必ずやる事がある。その人にやたらと話しかける? その人の情報を集める? 否、そんな事じゃないんだなぁ。そ・れ・が! 一週間その人に一回も話しかけないように気をつけながら観察をする。それが私の決めている事。で、観察の結果によってその人と深くかかわるか、かかわらないように気をつけるかを決める。ついでに、にまも実は転校生なんだけど彼女については一週間観察しないうちに友達となってしまった。否、しまったじゃなんかその事が間違えだったとでも言うように聞こえるが、決してそういうわけではない。でも、観察が一週間続かなかったのは事実。向こうから先に私にアプローチしてきたのだから。
ま、そういうことで私は過去七人着た転入生に対してと同じように観察をする。観察日記もしっかりと読める字でつける。もちろん、先生に提出とかそういうわけではないんだけど(むしろ見せられない)。
一日目
今日は転入生が来た。名前は野騎已 乃之美。自称のみ。テンションが異様に高い女の子。学年は一つ下。茶髪の髪を二つの三つ編みにしている。目がぱっちりしていてかわいい。
席はにまが大好きなネオ君の隣。つまり私の真後ろ。しかも転入初日から頻繁に話しかけて会話をしているので、にまはいら立ってしょうがないらしい。休み時間にはよく会話の邪魔をしにきた。
二日目
転入生を歓迎する会が開かれた。学校中の人間(といっても十八人しかいない)を集めて、「野騎已乃之美さんいらっしゃい」なんて垂れ幕作って、いつもの教室でパーティーをやった。ちょっとだけ給食が豪華になったので(ぽんかんがついてきた)私は実はちょっと喜んでいた。
野騎已乃之美の席はネオ君の隣だったから、にまがものすごくいらついていた。野騎已乃之美もこっちをにらんできた。デレデレとした態度をしていた。
三日目
算数の授業でこのクラスでも一番頭がいいと思われるネオ君でも解けなかった問題を、野騎已乃之美が解いた。ネオ君が「すごいね」と言ったので、にまはすごく悔しがっていた。
四日目
彼女には最初ちょっと敬遠して誰も話しかけなかったが、今日になって話しかける人がやっと何人か出てきた(にまは普通に初日から絡んでたけど)。近くの学年の女子に囲まれ(といってもわたしたちふたりをのぞくと、二人しかいない)楽しそうだった。
にまはその間ネオ君を一人占めし、それはそれで楽しそうだった。
五日目
今日で学校登校日の観察日記は最後だ。
体育の授業があった。五十メートル走の測定をやったが、やっぱり転入生の野騎已乃之美はものすごく遅かった。にまが、「ばぁ~か。そんな走り方じゃパワー無駄に消費するだけじゃない」と言って何気アドバイスをしていた。
六日目
やっと土曜日。休みだ! と思っていたら、キャベツの収穫を手伝う事になってしまった。キャベツ重いって思ってたら、フラッと現れた野騎已乃之美が手伝ってくれた。意外といい奴。
七日目
今日で観察日記は最後。今日こそ本当に休みだと思ってぐうたらしてたら、にまから電話が来た。丘へ行って遊ぼうってね。という事で私は丘に行ってみたらそこにはなんと野騎已乃之美とネオが二人っきりで話し込んでいた。
ふと背後に気配を感じ、ふりむいてみるとにまがいて驚いた刹那、にまは二人の邪魔をしに走りだした。私は茫然とそれを見ていた。最後は何時もの様な口げんかになって「もうやめようよ」と笑いながらネオが言ったら、みごとに二人ともやめた。ネオすご!
という感じ。
「ぬーみんなに読んでるの?」
気づいた時には背後ににまが昨日の様に立っていた。もう気配消すのやめてよ。驚くじゃない。だけど、それよりこのノートの中身が除かれないように注意するのが先決。やっぱ本人には見せたくないよね。本当の本人は野騎已乃之美だけど。そして、パタッとノートを閉じ「なんでもないよ」と笑って見せた。
「気になるじゃない! もしかして……見せられない代物なの?」
「そう! そう! そう! きっとそうなの! 実は下手だったりする自分の絵とかかいちゃってるのよ!」
「あぁ、なるほど。納得!」
「違うから!」
っていうか何気二人結託しちゃった。人間(とくに女)って結託すると強くなるんだよねぇ。私のお母さんも、おばあさんと気が合う時は本当に強いし。もっとも、気が合わないとおばあちゃんに普通に負けてるけど。
「何だ違うのかぁ~」
「えぇ! 違っちゃったりしちゃうの!?」
「お願い! その七面倒くさい言い方やめて!」
「七面倒くさいとか古いよ~ぬーみん」
「そうだよっ! ぬーみん」
「っていうかなんで野騎已乃之美までぬーみんって呼んでるの!?」
「のみってよんでよぉ」
なんかいつも以上に騒がしいような感じがするなぁ。否、いつも騒がしいけど~。だけど、なんかたりないようなぁ……あっ! ネオ君のあの一言がたりないんだ。っていうかもしかしてこの四人組って定着し始めてる!?
「わかったよ。蚤ののみ~」
「なんか今すごい馬鹿にされたちゃった気がしちゃったような気がしちゃうのは気のせい!? っていうか、そのキャッチフレーズよかったりするかも。選挙の時『どうも~。蚤ののみで~す』っていって覚えやすかったりするゴロで、一躍人気者になっちゃうみたいなっ!?」
「なんの選挙だよ! それ!」
にまさん、ただ今突っ込みに回りましたぁ~。以上で脳内報道を終わりますってめっちゃどうでもいー。
「もうそろそろやめなよ。先生そろそろ来るぞ~」
ネオ君きました! やっと四人集合! 今日もまたネオ君遅刻だったのか!?
「おっさすが! ネオ君~。んじゃ席帰るねって私の席じゃんここ!」
という一人突っ込みをした反応が私。
「もぅにまのせいでネオに怒られちゃったじゃん! ひどいよにま~。ネオに謝っちゃったりしなよ。怒らせちゃってごめんねって」
これは、野騎已乃之美じゃなくてのみの長すぎる一言。あっ! 「か」とか「ちゃって」とかいっぱい使ってるからこんなに七面倒くさいんじゃなくて、うざったく聞こえるのか。一つ発見。めっちゃどうでもいい発見だけど。
「否、怒ったつもりはないよ。ただその方がいいかなって。とくににまちゃんは」
「なんでネオって呼び捨てにしてるのよ!?」
先に行ったのがネオ君で、後に言ったのがにま。ネオ君、そのにまちゃんはってところで叩かれる可能性大だから気をつけて!
キーンコーンカーンコーン
あぁあ。ネオ君の忠告もむなしくチャイムなっちゃった。にま、太く強く生きろよ~。
◆ ◆ ◆
「ハッピーバースディ。ディアヌーミン」
「は?」
私が教室に入った瞬間クラッカーが発砲し、教室は大惨事になっている中、片言の英語でのみは確かにそう言った。この状況をどう考えれば誕生日に結びつけられるか。それは考えるだけ無駄に思われる。
「ええっとその……今日はぬーみんの誕生日だったりするよ……ね?」
すごい不安で心配そうな目つきで見てくるのみ、超カワイイ! なんてことは置いといて、私今日誕生日だっけ? 私の誕生日は冬のど真ん中ってあぁ! 逆だ! この子私の誕生日逆から読んだ日にお祝いしてる。マジで笑えるよ。笑い話にしかならないよ!
「その情報、誰からきいた? もしかして……にま?」
「あっ、うん」
「…………」
にま……君とは大体半年の付き合いになるけど、まさか誕生日の日を間違えるとは思っていなかったよ。君がどんなに記憶力が悪くてもさすがに私に関することぐらいは覚えていてくれると信じていたよ。君はひどいよ。
何て格好のいい言葉を並べてもなんも意味無いか。つまり、私は裏切られたような気分なわけだね。裏切られたわけでは決してないんだけど。
「あれ。もしかして本当に違っちゃったりした? どうしよう……にま。にま、もしかしちゃって故意に偽の情報をくれちゃったの? それは意地悪? いたずら?」
のみが無駄に真剣に悩んでいるのはほうっておいて、どう反応しようか。嘘を真実に摩り替えるか。それとも真実を言うか。どっちでもいいか。
「法被ばすでえ! あれ? どうしたの二人とも」
空気ヨメよ!
しかも英語がなんか日本語に聞こえるぞ!
「えっと、なんか二人とも黙り込んじゃったけど、はいどうぞ! 二人からのプレゼントだよ」
ニコニコと笑いながら私に差し向けられた手の上には、小さな小包が載っていた。特に包装とかも無い普通の小包。
きっと二人とも悪気はないんだよね……?
「にま、本当に今日だったりするの? ぬーみんの誕生日」
のみが不安そうににまに確認する。にまの方が背が高いので、のみが見上げる形になる。
「え、違う?」
にまはまだこの雰囲気の意味に気づいていないようだ。にま、君はただの鈍感なのか? 私は転入してきた当初のことを思うとそうとは思えないぞ!
「だよね。今日であっちゃってるよね」
あ、納得されちゃった。私がちがうと言う機会、なくなっちゃった。
まぁいいさ。私はこうしてプレゼントをもらえるわけだし、何て思いながら二人からのプレゼントを受け取った。あんまり軽いわけでもない、心地のいい軽さ。そういえば、私は誕生日の日に(否、まちがってるけど)プレゼントをもらうのは初めてだ。みんな祝ってくれたりはしたけど、形に見えるようなものはあんまりくれなかったし。
これは都会の習慣なのか!?
「ねぇ、空けていい?」
私は無理やり笑みを浮かべようとしながら二人に聞く。もらったらすぐにお年玉の袋を開けるなとは言われてきたけど、プレゼントの袋については何にも言われていない。ならOK、でしょ?
「あっ、うん。空けて空けて。あんまりすごいものではないから期待しないでね」
にまが丁寧にそう言った。ちょっと控えめな感じと、少し照れている感じが可愛い。
私は小包をといていく。「なにかな、なにかな」と呟きながら空けて行くのはただの演出。
「うわぁぁ! 可愛い! ありがとう」
とかれた小包の中に入っていたものは、きれいな浅葱色のハンカチにピンク色の糸で私の名前と花を刺繍したものだった。
「ほらこうやって、リボンのようにも使えるし」
にまはそうしゃべりながら私の手の上にあるハンカチを優しく取り、自分の黒い長い髪を持ち上げてひとつにまとめ、ハンカチで結ぶ。その姿はその姿でまた綺麗であったけど、にまはすぐに髪を解いてしまった。残念。
「三角巾のようにも使えちゃったりするんだよ!」
またまたニコニコ笑いながら、のみはそのハンカチを折って三角巾のように結ぶ。
「ね! 使えるでしょ」
そして、ちょっと自慢げに笑った。
「うん」
私は純粋に思ったよ。 嬉しいって。
もっとも、このあとクラッカーによっておこってしまった大惨事の片づけを手伝わされたんだけどね(笑)
◆ ◆ ◆
「いやぁっぁぁぁぁ」
「どうしたの!?」
「私のかわいいかわいいキャベツちゃんがあぁぁっぁぁぁ。全滅」
「はぁ?」
嫌な予感がしていつもより早く家に帰ってみたら、案の定お母さんがこんな状態だった。何時もの農作業用の服をきて、キャベツ畑の前にたおれていたのだ。
とりあえずキャベツ畑の方に視線をやってみる。するとお母さんの言うとおり。確かにキャベツは茶色くなっていて全滅だ。昨日何玉かとっておいてよかった。
「でも、朝は大丈夫だったよね?」
「昼ご飯を食べている間にこうなっちゃったのよ……。少し目を離したすきに……」
「災難だったね」
「そんなレベルじゃないわ! これが駄目になったら……どうやって食べていくのよ……」
ついにお母さんはおいおいと泣き出してしまった。
◆ ◆ ◆
「それ、俺の家もだよ」
「やっぱり?」
「そうそう。茶色くなって全滅ってところもみんな同じ。しかも俺の家収穫明日からだったから、どうするのかな……。これから」
「本当に大丈夫?」
「うん……多分。おやじが何とかするって言ってたけど」
ネオ君の家も全滅してしまったのか。こりゃ久しぶりの一大事かも。今度こそ村の存在自体消えたっておかしくない。はぁー。これから本当にどうなるんだろ。大人たちは何とかするって言ってるけど現実問題なんとかなるか子供にとってはとても不安なんだよね。
「どうしたの? 名に辛気臭い顔して」
にまがふと近づいてきた。っていうかそんなに辛気臭い顔してたかな……。
「キャベツ全滅……、にまのところは大丈夫だった?」
「…………」
にまはなんか落ち込んでいる。さっきまで明るかった顔が一瞬色を失って肩がどっと落ちたのがよくわかった。
「大丈夫、にまのせいじゃないから」
「でも、私馬鹿みたいに笑ってたから……」
「いいっていいって」
どうやらにまの家は大丈夫だったみたいだ。よかったよかった。そういえば、のみの家って何やってるんだろう?
「のみの家って何やってるか誰か知ってる?」
二人は同時に首を左右にゆっくり振って見せた。そっか、知らないのか。
「私がどうかしちゃった!?」
「う、えっとその……なんでもない!」
隠す必要はないけど、なんとなく隠してしまった。本人のいないところでこういう話をしていたのがわかったら、私だったら何となく嫌だしね。
「そっか~。で、何の話今までしてたの? なんか暗かったけど」
「キャベツが全滅しちゃって……」
一瞬、ほんの一瞬。一秒の何万分の一かの時間、彼女の顔が蒼くなった気がした。時が止まったような気がした。気のせいに決まっているけど、気のせいに感じられない。なにこの不思議な感覚……。
「そっか、災難だったね」
さっきのは気のせいに決まってる。そんな顔をするわけがない。そうだよ。するわけないんだよ。
◆ ◆ ◆
「キャアっァァァァァ!!」
「何っ!」
この事が起こったのは、体験学習とか何とか言って学校の畑を耕すのの手伝いをさせられている時だった。っていうか学校に畑ってなんかすごいな。
いきなりにまの悲鳴が聞こえてきたのだ。ヒステリックな悲鳴だなッと呑気な事を思えたのは一瞬、私は走りだした。何かあってからじゃ遅い。私はすぐに走り出した。確かにまの担当区域は東館側。私の担当区域からは一番遠かったはず。もう何でこんな配置しやがるんだよ! 雪女!
でも雪女を恨んでもしょうがない。どちらかというと足が遅い自分を恨むべきだと気付いた。気づいてしまった。山の子なのにな。何でこんな足遅いんだろう。さすがにのみやにまよりは速いけど。
「大丈夫!?」
私はにまに向かって叫ぶ。
「私は大丈夫。でも……いや! こっちこないで!」
にまは手をぶんぶんと振りまわす。
「どうしたの?」
「豚が……多分葱の家のピーたちゃんが――いや! こっちこないで!」
「ピーたちゃんが?」
って云うかあいつ豚にも名前付けてたんだ。変人。
「死んで……る! それでハエがたかっていや! だからこっちこないでよ!」
「なるほど」
だったら手を振っても無駄なんじゃないかな。って言うべきだったか。さっさと逃げよ。と言うべきだったか。まぁ、所詮相手は蠅だけど。
「ハエだからってなめないで! 相手してるこっちの身にもなってよ」
にまは叫びながら逃げ惑う。その様子は見ていてとても滑稽で、でもまた面白い。今度にまの観察もう一回やりなおそうかな?
「どうしちゃったの? うわぁぁ、ハエ。こんなに大量発生しちゃったりするようなものだったりしたんだ! ちょっと感動!」
「だからその言い方すごくうざったい!」
「どうしたのかい? あぁ、なんだハエか」
「なんだって! よくそんなこと言えるね」
私つっこみばっかりいれてない? まぁこの中では突っ込み担当が私しかいないからしようがないんだけど。
「とりあえず、先生に言おうよ」
「それ賛成だったりしちゃったりする!」
「なに私のまねしちゃったりしちゃってるのよ!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「「落ち着けない!」」
あぁあ。せっかくネオ君がいい提案をしたのになんとなく薄れちゃったよ。ってか本当にこの人たち騒がしいな。
◆ ◆ ◆
ふと思った。どうしてそこに思考回路がたどり着いてしまったかは分からないけど、ふと思ってしまった。思っては本当はいけなかった。そこまでたどり着くのは本当は私じゃなかったし、ここまで速いはずがなかった。でも、実際に思いついたのは私だったし今だった。
だけど、きっと私が最初って訳ないよな。私はこの村でもこの考えに至ったのは最後の方だ。そう思う。嘘じゃなくて本当に。無論謙遜なんかではない。
根拠も理由も欠片もない。あくまでもこれは直感。私のあんまり強いとも思えない第六感が強くその事を告げていた。
「ありえない……わけではないよね」
つい思っていた事をつぶやいってしまった。
でも、それほどの事ってこと。だけど、いつもはここまでの事に気づけない私が――いつも事件の外側にいて、知らないうちにそれが終わってしまった事に特に何も感情を抱かない私が――今回は気づいた。それは果たして何かの暗示なのだろうか? 私は事件の外側にいるのではない。事件の真っただ中にいるのだという。
今までの事件はすべてつながっている。すべて同じ理由。
キャベツ全滅騒動と、ピーた君とその仲間たち死亡(あとからピーた君以外の豚も死んでいた事を知った)騒動、きっとつながってるんだ。
でも、それだけじゃない。
それだけでは終わらない。断言する。絶対にそれだけでは終わらない。
最初は植物。次は動物。そしたら次は決まってるじゃないか。
人間に……
なんてね。さすがに妄想が過ぎるよね。ありえるわけないよね。次が人間なんて。動物までは犯罪じゃなけど(いや、犯罪だったかも)人間になったら。
まるで、魂を吸い取られたようだったんだって。
あのあと豚の事を知った時、お母さんが言った一言。また昼を食べている間にやられたんだって。でもそれぐらいの時間だとおかしいほど豚は腐っていた。だから、魂を吸い取られたよう。
わらっちゃうよね。いい年して魂を吸い取られたようなんて考えちゃうなんて。ふざけているよね。
そんなとき、ネオ君が青ざめた顔で目の前を通り過ぎて行った。赤い手袋をしたまま。
葱の家からネオ君は出てきて、あの顔。何かおかしい。何かすごく嫌な予感がする。葵の家の中を私は確かめなければいけない気がする。なぜなら私の役目だから。そう思うとふとすべてが納得できた。きっと私はとんでもない事に巻き込まれるんだろうな。
ちょっと不安でもあった。でも、好奇心と使命感が勝った。
本当は私でなくてもよかった。今日の今でなくてもよかった。でも私だったし今だった。ならそれは変えることの出来ない現実だ。
私は葱の住む大きな家の門を開けてしまった。もう、もどれない。今逃げたら怪しまれるだけ。? 何に怪しまれるの?
なんとなく、これから起こる事はわかっていた。
大きな重い扉を開けると、鼻につくようなにおいがした。この前のピーた君の様な。やっぱり、そう思ってしまった。もうわかった。これから起こる事も、これから起こる事に私がどう対処するかも。もう確信した。
やっぱり、葱君の死体がリビングには転がっていた。
土足で家に上がりこむのは悪いかなと思いながらも、結局靴を脱ぐのが面倒くさいのでそのままあがりこんでしまった。
わかってる。今考えている事が現実逃避だってこと。全く意味のない現実逃避だという事。
「きゃっぁぁぁぁぁぁ」




