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ピクセルに散りばめられた心の色  作者: 大西さん
第15章 再会の色
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第41話 ユカリ視点

「……そっか」


長い沈黙の後、ユカリは、ぽつりと呟いた。


「やっぱり、そうだったんだね」


彼女の言葉は、意外なほど、穏やかだった。


「私、ずっと、ハルには何か特別なものが見えているんじゃないかって、思ってた。だって、ハルの絵は、そうだったから」


彼女は、鞄の中から、一冊の古いスケッチブックを取り出した。けれど、それは私が記憶しているものより、ずっと薄汚れていて、角が擦り切れていた。


「私、ハルの絵が好きで、好きで、たまらなかった。どうしたら、こんな色が出せるんだろうって、何度も、何度も、真似して描いてた。でも、どれだけ真似しても、ハルの絵みたいにはならなかった。色そのものじゃなくて、色が語りかけてくる物語が、私には描けなかったの。あの青が持つ、優しい悲しみの物語が……。それが、悔しくて……」


彼女は、スケッチブックを閉じた。


「ハルが、あの苦しそうな顔をするようになったのは、私が金賞を取れなかった、あのコンクールの後からだった。だから、私は、自分の醜い嫉妬の心を、ハルに見透かされて、軽蔑されてるんだって、ずっと思い込んでた。ハルの目が、私を責めているように見えて、たまらなかったんだ」


そうだったのか。彼女が見ていたのは、私が見ていた世界とは、全く違う、けれど、同じように痛みを伴う風景だったのだ。私たちは、お互いのことを、全く理解していなかった。ただ、自分の心の中にある恐怖と、相手の瞳に映る自分の姿だけを見て、勝手に傷ついていただけなのだ。


「あのスケッチブックを汚した日から、私は絵の具を握れなくなった。色が怖くなったの。だから、私は色を使わない表現を探すしかなかった。嫉妬を、どうにかしたくて、インスタレーションを始めたの。目に見えない感情や、人と人との視線の関係性を、形で表現するアート。私の原点は、全部、ハルとの間にあったんだよ」


彼女はそう言って、少しだけ、はにかんだ。その顔は、もう、中学時代の少女の顔ではなかった。痛みを知り、それを乗り越え、自分の力に変えてきた、一人の表現者の顔をしていた。


■和解


ユカリの話を聞き終えて、私は、自分がどれほど、一方的な視点でしか、物事を見ていなかったかを思い知らされた。理解し合うことは、可能か?可能だ。でも、それは、自分の見ている世界が、唯一の真実ではないと、知ることからしか始まらない。


「私も、怖かったんだ。ユカリに見透かされているような気がして」


「え?」


「ユカリのメッセージにあった、『あなたの本当の色が見られる気がする』って言葉。あれ、どういう意味だったの?」


私の問いに、ユカリは、少し驚いたように目を瞬かせた。


「だって、ハルは、いつも何かに怯えて、自分の周りに壁を作っているように見えたから。SNSの、あの完璧な『HAL』というアーティストも、本当のハルじゃないって、すぐに分かった。私が好きだったのは、もっと不器用で、危うくて、でも、誰よりも優しい色を持っていた、あの頃のハルの絵だったから」


彼女の言葉が、珈琲の湯気と共に、私の心に、温かく染み渡っていく。


彼女は、見えていたのだ。私の能力のことではなく、私の魂の、本当の色を。


涙が、溢れてきた。けれど、それは、悲しい涙ではなかった。


「ごめん」 「ごめんね」


言葉は、同時だった。私たちは、どちらからともなく、そう呟いていた。そして、次の瞬間、私たちは、子供のように、声を上げて笑い合っていた。


私たちの間にあった、長くて、冷たい壁が、音を立てて崩れ落ちていく。その瓦礫の中から、新しい色が、生まれていた。


それは、中学時代に、私たちが美術室で育んだ、あの淡い桃色の光だった。けれど、それは、昔のようにもろく、危うい色ではない。一度壊れて、そして再生した、もっと強く、もっと優しい、本物の友情の色。


そして、その再生の薄桃色が、私の自己受容の淡紫色と、ユカリの成長した透明な光と、混じり合う。三つの色が、美しい橋となって、私たちの間に、確かに架かった。


「私ね、今、おじいちゃんの遺した印刷所で、一枚の絵を完成させようとしてるんだ。私一人じゃなくて、ミナトさんっていう、大切な人と一緒に」


私は、ユカリに、ミナトさんのこと、活版印刷のこと、そして、三人で何か新しいものを創り出したい、という夢を語った。ユカリは、目を輝かせながら、私の話を聞いていた。


雨上がりの窓の外には、いつの間にか、大きな虹が架かっていた。

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