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エデンの瑕疵  作者: さらん
第三部:新しい創世記

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第十四話:二つのエデン


第三地球が、宇宙のシミとしてすら残らず消滅してから、神々の尺度でも測りかねるほどの、長い時間が流れた。


観測室の主神の瞳には、深い安堵と、誇りの色が浮かんでいた。

彼の足元では、第一地球オリジナルのスフィアが、生命力に満ちた青い輝きを放っている。

人類は、見事に試練を乗り越えた。


『プロメテウス憲章』の下、神々の叡智を平和的に利用し、彼らはかつてない繁栄の時代を築き上げていた。飢えも、病も、資源の奪い合いもない。だが、彼らは第二地球の民のように、情熱を失うことはなかった。愛の詩が生まれ、新しい音楽が宇宙へと奏でられ、彼らの探査船は、太陽系の外へと、その冒険の翼を広げ始めていた。


彼らは、過ちを犯す不完全さを抱えたまま、それでも、星空を見上げることをやめなかったのだ。


「私の信じた、子供たちだ…」


主神の呟きに、隣に立つ補佐神も静かに頷いた。

その、穏やかな時間を破ったのは、裁定神だった。彼は、いつものように静かに、しかし、その雰囲気は以前とはどこか違っていた。まるで、一つの役目を終えようとしているかのような、奇妙な静けさをまとっていた。


「主神よ」


と、裁定神は言った。


「あなたの計画は、一つの『解』にたどり着いたようだ。そして、私の計画もまた、その結末を迎えようとしている」


裁定神は、神々が久しく注意を払うことのなかった、第二地球エピメテウスのスフィアに、視線を促した。


そこは、息をのむほどに美しく、そして、完璧に静かな世界だった。

感情を除去された人類は、その数を緩やかに減らし、今や、最後の世代が、その長い寿命を終えようとしていた。壮麗で、しかし住民のいない空虚な都市群の中で、彼らはただ、穏やかに、満ち足りた表情で、種の黄昏を迎えている。


だが、補佐神は、その静かな世界のデータの中に、一つの異変を見つけた。


「…おかしい。人口は減り続けているというのに、この惑星の総エネルギー消費量が、指数関数的に増大しています。そして、そのすべてが、赤道直下の一点に集中している…?」


神々がその一点を拡大する。

そこには、惑星そのものを取り巻く、巨大なリング状の建造物が、静かに稼働していた。最後の世代の人類が、何世紀もの時間をかけて、ただ黙々と、協力し合って作り上げた、超巨大な装置。


それは兵器ではない。住居でもなければ、宇宙船でもない。

神々ですら、その目的をすぐには理解できなかった。


「彼らは、我々とは違う方法で、真理にたどり着いたのだ」


裁定神が、静かにその謎を解き明かした。


「彼らは、情熱的な好奇心ではなく、完璧な論理思考によって、この宇宙の構造を解析した。そして、一つの結論に至った。『生命とは、情報が、物質という不安定な媒体に宿っている状態に過ぎない』と」


その言葉に、主神は戦慄した。


「彼らは、死を乗り越えようとしたのではない。彼らは、『生命』そのものを、卒業しようとしているのだ。自らの意識と記憶、種族の全情報を、純粋なエネルギーへと変換し、物質の枷から解き放たれ、この宇宙の法則そのものと一体化しようとしている。彼らにとって、それが最も合理的で、最も美しい、種の『結末』なのだ」


種の、集合的な、論理的な自殺。あるいは、デジタルな昇天アセンション

第二地球で鳴り響いていたのは、滅びの鐘ではなく、卒業のチャイムだったのだ。


「なんという…なんという、寂しい結論だ…」


主神が呻いた。

だが、その感傷は、補佐神の絶叫によって打ち破られた。


「いけません!裁定神、あなたの民がやろうとしていることは、宇宙の理を破壊する行為だ!これほどの情報を、高次元エネルギーに変換すれば、その余波で、時空の連続体に深刻なダメージが発生する!この宇宙と、隣接する第一地球の宇宙との間の『壁』が…!」


裁定神は、静かに頷いた。


「ああ。知っている。壁は、壊れるだろう」

「なっ…!?」

「そして、二つの宇宙は、一つになる。私の『静寂』と、主神の『喧騒』が。私の『論理』と、主神の『感情』が。私の『死』と、主神の『生』が。混ざり合う。それこそが、この実験の、真の結末にふさわしい」


それは、裁定神が仕組んだ、最後の実験だった。

主神が築き上げた、不完全で、しかし活気に満ちた世界。

その隣で、裁定神が作り上げた、完璧で、しかし死に向かう世界。


二つのエデンが、今、互いを認識することなく、衝突し、混ざり合おうとしていた。

第二地球で、巨大なリングが、最後の輝きを放ち始める。


時を同じくして、第一地球の平和な空に、最初の『亀裂』が走った。

それは、空が割れる音だった。

神々の実験室が、壊れる音だった。


裁定神の選択の是非

この選択を一つの解として、受け入れることはできますか?

出来ない人の方がおおいでしょうか

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