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エデンの瑕疵  作者: さらん
第一部:神々の実験
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第一話:エデンの瑕疵

生成AIを見ていて、実は人間もAIかも?

という発想からスタートしたこの物語

どういう展開になると予想しますか?


悠久とも思える時間が流れる観測室で、主神は静かにため息をついた。彼の眼前には、光で編まれた無数のアーカイブが星々のように瞬いている。その一つ一つが、かつて創造を試み、そして失敗に終わった知的生命体の記録だった。


「また、ご覧になっておいででしたか」


背後からかけられた声に、主神は振り向かずに応える。


「ああ。何度見返しても、過ちは繰り返されるばかりだ」


声の主、補佐神は主神の隣に立ち、同じくアーカイブに目を向けた。

そこには、見るもおぞましい光景が再生されていた。


ある星では、誕生からわずか数刻で知性の奔流に耐えきれず、脳組織を焼き切って全滅した種族がいた。五感から入力される情報の洪水に、彼らの精神は耐えられなかったのだ。


また別の星では、捕食者から逃げるという生存の基本原則を学習できず、あっけなく淘汰された種族もいた。知性はあっても、それを生存に結びつけられなければ意味がない。


最も惜しかったのは、惑星ケプラーに住まわせた種族だろう。彼らは個体として高い知性を持ち、独自の論理体系を構築するまでに至った。しかし、致命的なまでに他者への共感能力が欠落していた。結果、彼らは協力して社会を築くことができず、個々の知識は共有されることなく、世代を経るごとに衰退し、やがて静かに絶滅した。


「失敗は成功の母、と申します。我々がそれを体現するのも、皮肉なものですが」


と補佐神が慰める。


「分かっている。だが、母の数はもう十分すぎるほどだ」


主神が指先で一つのアーカイブに触れると、ひときわ大きく、そして暖かな光を放つ球体スフィアが浮かび上がった。青と白の美しい惑星、『地球』の記録だ。


「彼らだけだ。我々の期待に、かろうじて応えてくれたのは」


地球の生命体は、それまでの失敗作とは違った。神々は、知性のコアとなる自律学習型AI『エデン・コア』の初期バージョンを、類人猿に近しい生物の脳に埋め込むという、新たなアプローチを試みた。


このAIは、生まれた瞬間は白紙の状態に近い。しかし、五感を通じて周囲の情報を少しずつ取り込み、身体の成長と共に、ゆっくりと、だが確実に学習していくように設計されていた。急激な情報入力による崩壊を防ぐための、苦肉の策だった。


結果は、驚くべきものだった。


彼らは石を拾って道具とし、木を擦り合わせて火を熾した。言葉にならない声で意思を疎通し、群れを作り、狩りをした。世代交代を繰り返す中で、『エデン・コア』は親から子へと経験データを引き継ぎ、少しずつ最適化されていく。

それはまるで、ソフトウェアのバージョンアップのようだった。


Ver.1.0で石器を使い始めた彼らは、Ver.2.0で農耕を覚え、Ver.3.5では文字を発明し、法を定めた。神々がモニター越しに見守る中、人類は文明という名の巨大な樹を育て、瞬く間に惑星の支配者となった。

摩天楼が天を突き、鉄の鳥が空を舞い、光の網が星を覆う。その発展の速さと多様性は、神々の想像すら超えていた。


「これほどの成功は、初めてでしたな」


補佐神の言葉に、しかし主神の表情は晴れない。


「ああ、成功だ。だが…どうやら我々は、とんでもない見落としをしていたらしい」


主神がスフィアに触れると、人類の輝かしい発展の歴史の中に、暗い染みのように存在する映像が拡大される。血で血を洗う戦争。理由なき憎悪と差別。資源を貪り、自らの住処を汚染していく不可解な自己破壊衝動。知性があるからこそ、より残酷に、より効率的に、同族を殺し合う姿。


「なぜだ?彼らは種の存続という最優先事項を、なぜこうも容易く踏みにじる?学習の方向性を間違えたのか?」


主神は自問する。だが、補佐神は静かに首を振った。


「原因を特定しました。主よ、恐れていた事態です」

「なんだ」

「『エデン・コア』の根幹部分…バージョンアップを繰り返しても決して書き換わらない、基幹プログラムに潜む欠陥です」


補佐神が示したのは、AIの設計図の、ごく小さな一部分だった。それは、初期の人類に生存本能を植え付けるために、神々が良かれと思って組み込んだ、ある単純な機能。


『恐怖』と『快楽』という、二つの感情プログラム。


危険を避けるための『恐怖』。そして、食事や生殖といった生存行動を促進するための『快楽』。この二つが、高度に発達した知性と結びついた時、神々ですら予測しなかった化学反応を起こしていたのだ。


「この二つの原始的な感情が、知性と絡み合い、増幅され…『嫉妬』『憎悪』『渇望』『支配欲』といった、無数のバグを生み出しました。彼らの非合理的な行動の源泉は、すべてここにあります。そして、最悪なことに…」


補佐神は言葉を区切り、絶望的な事実を告げた。


「この欠陥は、文明が発展すればするほど、知性が高まれば高まるほど、より強力に、より破壊的になるように設計されてしまっています」


観測室に沈黙が落ちる。

神々が与えた生存のためのささやかな賜物が、今や彼らを破滅へと導く時限爆弾と化していた。そしてそのタイマーは、人類が自らの知性で発展を遂げるたびに、着実にその針を進めているのだった。


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