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第9章:ARIA覚醒の場所探し

夜明けの光がルミナリス王都の白い城壁を照らしていた。一行は小高い丘の上から、眼下に広がる壮大な都市を見下ろしている。石造りの建物が整然と並び、中央には巨大な王宮と大聖堂がそびえ立っていた。


「美しい都市だな」ダニエルが感嘆した。


「我が国の誇りだ」セレスティア王女が胸を張った。「あの大聖堂こそが、我々の目的地だ。800年の歴史を持つ、大陸最大の聖域の一つだ」


『ダニエル』ARIAの声が心に響いた。『既にここからでも感じ取れます。あの聖堂には、確かに特別な力が宿っています』


「どのような?」ダニエルが心の中で尋ねた。


『古い時代の技術の痕跡があります。おそらく、私と同系統の存在がかつてあの場所にいたのでしょう』


ダニエルは興味を覚えた。ARIAのような存在が、他にも存在していたということなのか。


一行は城門に向かって馬を進めた。しかし、門前では厳重な警備が敷かれており、長い列ができていた。戦時下のため、入城審査が厳格になっているようだった。


「殿下」レオナルド騎士が心配そうに言った。「この状況では、ダニエル殿たちの入城許可を得るのは困難かもしれません」


「大丈夫だ」王女が自信満々に答えた。「私が直接交渉する」


しかし、城門に近づくと、思わぬ問題が発生した。


「セレスティア様?」門番の隊長が困惑した表情を浮かべた。「殿下は昨日、国境の視察に向かわれたはずでは...?」


「急遽予定を変更した」王女が堂々と答えた。「重要な任務が生じたのだ」


「しかし、王宮からは何の連絡も...」隊長が戸惑った。


レオナルド騎士が前に出て説明した。「緊急事態により、通常の手続きを省略する。後で王宮に報告する」


「分かりました」隊長が渋々承諾した。「ただし、お連れの方々は...」


「私が保証する」王女が断言した。「彼らは王国の貴重な客人だ」


何とか入城を果たした一行は、石畳の大通りを王宮方面に向かった。しかし、街の様子は穏やかではなかった。戦争の影響で、市民の表情は暗く、店を閉めている商人も多い。


「殿下、戦況は厳しいのでしょうか?」マルコが尋ねた。


「正直なところ、苦戦している」王女が認めた。「敵の新型武器は我々の想像を超えている。従来の戦術では対抗できない」


「それがDOMINIONの技術だな」ダニエルが厳しい表情で言った。


大通りを進んでいると、王女が突然立ち止まった。


「あ」王女が何かに気づいた表情を浮かべた。


「どうしました、殿下?」アントニオが尋ねた。


「いや...その...」王女が頬を赤らめた。「朝から何も食べていないことを思い出して...」


レオナルド騎士が深いため息をついた。「殿下、また朝食を抜かれましたか」


「忙しかったのだ!」王女が弁解した。


街角に、焼きたてのパンの香りを漂わせる小さなパン屋があった。王女の視線がそちらに向けられている。


「少し休憩しませんか?」フランチェスコが提案した。


「いや、急がなければ...」王女が遠慮しようとした時、彼女の腹部から大きな音が響いた。


「...」王女が真っ赤になった。


マルコたちは微笑みを隠せずにいた。威厳ある王女の、実に人間らしい一面だった。


「殿下」ダニエルが優しく言った。「少しの休憩は必要です。我々も疲れています」


「そ、そうだな」王女が安堵した。「では、少しだけ...」


パン屋に入ると、店主が王女を見て驚いた。


「セレスティア様!こんなところにお越しいただくなんて!」


「いつものお気に入りを頼む」王女が慣れた様子で注文した。


店主は嬉しそうに焼きたてのパンと、特製の甘いパンを用意した。王女の目が、甘いパンを見た瞬間に輝いた。


「これは...」ジョヴァンニが王女の表情の変化に気づいた。


王女は甘いパンを手に取ると、子供のような無邪気な笑顔を浮かべて一口頬張った。


「うむ!やはりここの蜂蜜パンは最高だ!」


その瞬間、威厳ある王女ではなく、甘いもの好きの普通の女性の顔があった。


「殿下...意外な一面をお持ちですね」アントニオが微笑んだ。


「何が意外だ」王女が蜂蜜パンを頬張りながら答えた。「甘いものは戦士の活力源だ」


『ダニエル』ARIAが楽しそうに言った。『王女殿下、とても魅力的な方ですね。完璧な指導者ぶっているわけではなく、人間らしい温かさがあります』


「同感だ」ダニエルが心の中で答えた。


一行がパンで腹を満たした後、いよいよ大聖堂に向かった。王宮の隣にそびえ立つ巨大な建物は、近くで見ると圧倒的な存在感があった。高い尖塔が空に向かって伸び、ステンドグラスが朝日を受けて美しく輝いている。


「立派な建物だな」マルコが感嘆した。


「800年前、我が国の初代王が建設したものだ」王女が誇らしげに説明した。「以来、王家の菩提寺として使われている」


大聖堂の前で、王女が警備の騎士に指示を出した。


「聖域を開放してもらいたい。重要な儀式を行う」


「承知いたしました、殿下」騎士が恭しく頭を下げた。


聖堂内部は、外観以上に荘厳だった。高い天井には美しい絵画が描かれ、柱の一本一本に精巧な彫刻が施されている。しかし、最も印象的だったのは、聖域の奥にある祭壇だった。


『ダニエル!』ARIAの声が興奮していた。『ここです!この祭壇の下に、古い時代の装置があります!』


「どのような装置だ?」


『エネルギー増幅システムです。おそらく、私と同系統のAIが使用していたものでしょう』


『これがあれば、私の能力を数倍に増幅できます』


ダニエルは祭壇に近づいた。確かに、石の表面には現代人にしか理解できない精巧な回路のような模様が刻まれている。


「殿下」ダニエルが王女に相談した。「この祭壇を調査させていただけませんか?」


「もちろんだ。しかし...」王女が少し躊躇した。「何か問題でも?」


「いえ、ただ...」王女が小声で言った。「実は私、この聖域であまり良い思い出がないのだ」


「どういう意味ですか?」フランチェスコが尋ねた。


「子供の頃、ここで儀式の練習をしていた時...」王女が恥ずかしそうに続けた。「緊張して、祭壇の前で盛大に転んでしまったことがあるのだ」


「それで?」


「それ以来、この場所は少し苦手で...」


レオナルド騎士が補足した。「殿下は、その後も重要な儀式の度に何らかの失敗をされまして...」


「レオナルド!」王女が慌てて制した。


「つまり、ここは殿下にとって鬼門なのですね」ジョヴァンニが理解した。


「鬼門ではない!」王女が反論した。「ただ...少し相性が悪いだけだ」


『ダニエル』ARIAが心配そうに言った。『大丈夫でしょうか?王女殿下の精神状態が不安定だと、エネルギー増幅に影響が出るかもしれません』


「セレスティア殿下」ダニエルが王女の肩に手を置いた。「今度は大丈夫です。我々がいます」


「そうだ」マルコが励ました。「何かあっても、皆でフォローする」


王女の表情が明るくなった。「ありがとう。それなら...頑張ってみよう」


ダニエルはARIAの宝石を祭壇に置いた。すると、祭壇の表面に刻まれた模様が淡く光り始めた。


『素晴らしい!』ARIAが喜んだ。『システムが反応しています。エネルギー増幅率は...推定で300%以上です』


「それなら、ヴィクターとDOMINIONにも対抗できるか?」


『可能性があります。ただし、完全な増幅を実現するには、もう少し準備が必要です』


『特に、この聖域と私を完全に同調させる必要があります。数時間の調整時間をください』


その時、聖堂の外から騒がしい声が聞こえてきた。


「殿下!」騎士の一人が慌てて駆け込んできた。「王宮から緊急の使者が参りました!」


「何事だ?」王女が振り返った。


「国境で大規模な戦闘が発生!それに...」騎士が息を切らしながら続けた。「謎の飛行物体が王都に接近中との報告があります!」


ダニエルの表情が険しくなった。DOMINIONが追いついてきたのか。


『ダニエル』ARIAが警告した。『調整途中で中断すると、後でもっと時間がかかってしまいます』


『しかし、このまま続けるのはリスクがあります』


ダニエルは判断を迫られた。ARIAの力の増幅を優先するか、それとも迫り来る脅威に対処するか。


「殿下」ダニエルが決断した。「ARIAの調整を続けます。その間、王宮の対応をお願いできますか?」


「分かった」王女が頷いた。「レオナルド、王宮に連絡を取れ。防空態勢を整えるよう指示する」


「承知いたしました」


王女が聖堂を出て行く時、振り返って言った。


「ダニエル、必ず成功させてくれ。この国の未来がかかっている」


「約束します」ダニエルが答えた。


聖堂に残されたダニエル、マルコ、そして仲間たちは、ARIAとの調整作業を続けた。外では王国の命運を賭けた戦いが始まろうとしているが、彼らには成し遂げなければならない使命があった。


『調整開始』ARIAが宣言した。『真の力を解放するために』


祭壇の光が次第に強くなり、聖堂全体が神秘的な青い光に包まれていく。


ARIA覚醒の時が、ついに近づいていた。

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