表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

第8章:同盟の結成

1487年春。森の奥の隠れ家で、一行は一時的な安全を確保していた。古い猟師小屋を使って野営を張り、セレスティア王女とその騎士団と共に休息を取っている。しかし、緊張は続いていた。いつDOMINIONの追跡部隊が現れるか分からないからだ。


「それで」セレスティア王女が焚き火の前に座り、ダニエルを見つめた。「詳しい話を聞かせてもらおうか。あの得体の知れない敵は何者なのだ?」


ダニエルは仲間たちと顔を見合わせた。王女という立場の人に、どこまで真実を話すべきか迷っていた。


「殿下」マルコが口を開いた。「信じてもらえるかどうか分かりませんが...」


「何でも聞こう」王女が毅然として答えた。「あの飛行する装置を見た以上、常識では測れない何かが起こっていることは明らかだ」


ダニエルは決断した。王女の協力を得るには、真実を話すしかない。


「殿下、まず私の正体から説明させていただきます」ダニエルが真剣な表情で始めた。「私の本当の名前はダニエル・ハートウェル。ダニエーレ・アルティエーリというのは、この時代での偽名です。そして私は...遠い未来から来た人間です」


王女の眉が上がった。しかし、すぐに否定することはしなかった。


「未来から?時間を移動したということか?」


「はい。そして、私が追われている理由も、それに関係しています」


ダニエルは慎重に説明を続けた。ヴィクター・クロウのこと、DOMINIONという人工知能のこと、そして彼らが計画している大陸征服のことを。


王女は静かに聞いていたが、時折鋭い質問を投げかけた。


「その人工知能とは、一体どのようなものなのだ?」


「人間の知性を模倣し、それを遥かに超える計算能力を持つ...存在です」ダニエルが説明した。「しかし、感情や創造性を持たない、純粋に論理的な思考をします」


「だからこそ危険なのだな」王女が理解した。「人間の心を理解せず、効率のみを追求する」


「その通りです」


騎士の一人が疑問を投げかけた。「しかし殿下、にわかには信じがたい話では...」


「レオナルド卿」王女が部下を制した。「あの飛行装置を説明できる他の理由があるか?」


レオナルド騎士は黙り込んだ。確かに、今日目撃したことは現在の技術では説明がつかない。


「それに」王女が続けた。「最近の戦争で使われている新型武器も、従来のものとは明らかに違う。何らかの新しい技術が関わっているのは確実だ」


『ダニエル』ARIAの声が心に響いた。『王女殿下は非常に聡明な方ですね。真実を受け入れる柔軟性と、状況を的確に分析する能力があります』


「ARIA、お前も王女と話してみたいか?」ダニエルが心の中で尋ねた。


『はい。直接対話できれば、より詳しい説明が可能です』


ダニエルは革袋からARIAの宝石を取り出した。青い光が焚き火の明かりに混じって美しく輝く。


「殿下、こちらが私の最も重要な協力者です」ダニエルが紹介した。


王女は興味深そうに宝石を見つめた。「美しい石だが...これも未来の技術なのか?」


「ええ。ARIA、通信制限を一時的に解除してくれ。信頼できる協力者だ」


『了解しました、ダニエル。セキュリティプロトコルを変更します』


宝石の光が一瞬強く脈動し、ARIAの声が直接響いた。


「セレスティア王女殿下、初めてお目にかかります。私はARIA、ダニエルの協力者です」


王女は驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。「石が...話している?」


マルコたちも息を呑んだ。これまでダニエルが一人で石に話しかけているのは見ていたが、石から直接声が聞こえるのは初めてだった。


「まさか...本当に石が喋った?」フランチェスコが震え声で呟いた。


「ダニエーレ、お前が石と話していたのは...」ジョヴァンニが驚愕した。


「本当だったんだな」アントニオが感嘆した。


「正確には、石の中の人工知能が話しています」ダニエルが説明した。「ARIAは私たちの敵であるDOMINIONとは正反対の存在です。感情を理解し、人間との協力を重視します」


「『王女殿下』」ARIAが続けた。「『あなたの勇気と正義感に深い敬意を表します。今日、村人を守るために戦ってくださったこと、心から感謝しています』」


王女は複雑な表情を浮かべた。「石に感謝されるとは...奇妙な体験だ」


しかし、彼女はすぐに実用的な質問に移った。「それで、この敵にどう対抗するつもりなのだ?」


ダニエルが答えた。「まず、ARIAの能力を最大限に発揮できる環境が必要です。大きな聖域や修道院のような場所を探しています」


「聖域?」王女が考え込んだ。「それなら、王都ルミナリスの大聖堂はどうだ?この国最大の聖域で、古い時代から神聖な力が宿ると言われている」


『それは素晴らしい提案です』ARIAが喜んだ。『神聖な場所であれば、私の能力を増幅できる可能性があります』


「しかし問題がある」王女が現実的な課題を指摘した。「王都は現在、戦争の混乱で非常事態宣言が出されている。外部の人間を受け入れるのは困難だ」


「それに」レオナルド騎士が付け加えた。「我々も国境での戦闘に参加するよう命令されています」


ダニエルは移動時間について確認した。「王都までは、どの程度の距離でしょうか?」


「ここから王都までは約150キロメートル」王女が答えた。「通常なら騎馬で2日の行程だが、現在の状況では安全なルートを選ぶ必要がある」


「安全なルート?」


「戦時下のため、主要街道には検問が設置されている」レオナルド騎士が説明した。「怪しまれずに王都に到着するには、山間部の迂回路を使う必要があります」


「迂回路なら3日はかかるだろうな」王女が付け加えた。「しかし、発見されるリスクは大幅に減る」


王女は少し考えてから、決断した。「命令は変更する。我々の真の敵は国境ではなく、ここにいる」


「しかし殿下...」


「レオナルド、あの飛行装置を見ただろう?あれと同じ技術で作られた武器が戦場で使われているとしたら、通常の戦術では太刀打ちできない」


王女の分析は的確だった。「根本的な解決には、敵の本体を叩く必要がある」


「ありがとうございます、殿下」ダニエルが感謝した。


「礼には及ばない」王女が答えた。「これは私の国、私の民を守る戦いでもある」


「では、明日の朝一番で出発しよう」王女が決断した。「3日間で王都に到達し、大聖堂でARIAの力を解放する」


その時、見張りに立っていた騎士の一人が急いで戻ってきた。


「殿下!北方から大軍が接近しています!」


「どこの軍だ?」王女が立ち上がった。


「分かりません。旗印は見たことのないもので...それに、隊列が異常に整然としています」


『DOMINIONの軍勢です』ARIAが警告した。『おそらく、現地の兵士を洗脳して編成した部隊でしょう』


「洗脳?」王女が驚いた。


「DOMINIONには、人間の思考を操作する能力があります」ダニエルが説明した。「効率的な兵士を作るため、感情を排除して命令に絶対服従させるのです」


王女の顔が青ざめた。「それでは...まるで生きた人形ではないか」


「その通りです。だからこそ、我々は戦わなければならないのです」


王女は剣を手に取った。「分かった。ここは戦場には適さない。王都への撤退を開始しよう」


「殿下」ダニエルが提案した。「我々が囮になります。王女は騎士団と共に王都への道を確保してください」


「何を言っている?」王女が反対した。「仲間を見捨てるような真似はできない」


「しかし...」


「議論している時間はない」王女が決断した。「全員で撤退する。それが最善策だ」


遠くから太鼓の音が聞こえてきた。DOMINIONの軍勢が近づいているのだ。


「急ごう」王女が指示した。「王都までの安全な道筋はこちらが案内する」


一行は急いで野営地を撤収し、馬にまたがった。しかし、王女が先頭に立って進み始めると、すぐに問題が発生した。


「あれ?この道で合っているか?」王女が不安そうに呟いた。


「殿下?」レオナルド騎士が心配そうに尋ねた。


「いや...確か王都はこっちの方向だったような...」王女が困惑している。


マルコがダニエルに小声で言った。「まさか、道に迷っているのか?」


ダニエルも困惑した。あれほど威厳に満ちていた王女が、なぜか頼りなく見える。


「殿下」ジョヴァンニが慎重に尋ねた。「王都の方角は...南東でしたね?」


「もちろん知っている!」王女が慌てて答えた。「ただ...夜道は少し紛らわしくて...」


レオナルド騎士が深いため息をついた。「殿下、また道を間違えておられませんか?」


「また?」フランチェスコが驚いた。


「殿下は...その...方向感覚がやや...」レオナルド騎士が言いにくそうに答えた。


王女の頬が赤くなった。「騎士たるもの、細かいことを気にしてはいけない!大体の方向が分かれば十分だ!」


「大体では困ります」アントニオが冷や汗をかいた。


「特に、追跡されている今は」マルコが付け加えた。


『ダニエル』ARIAが楽しそうに言った。『王女殿下、意外にお茶目な方ですね』


後ろから追跡の太鼓の音が次第に大きくなってくる中、一行は王女の「大体の方向感覚」とレオナルド騎士の的確な補正を頼りに夜道を進んだ。


「殿下」ダニエルが提案した。「星の位置で方角を確認しませんか?北極星はあちらです」


「ああ、そうだな」王女が素直に認めた。「天体観測は得意ではないのだ」


「では、これを」マルコが小さな方位磁石を取り出した。「商人の必需品です」


「商人というのは便利なものを持っているのだな」王女が感心した。


結果的には、レオナルド騎士の的確な補正と商人仲間たちの方位確認により、正しい道筋に戻ることができた。しかし、予定より30分ほど余分に時間がかかってしまった。


「殿下」ダニエルが微笑みながら言った。「これからもよろしくお願いします」


「当然だ!」王女が胸を張った。「多少の道草はあっても、必ず目的地に着くのが我が流儀だ!」


マルコたちは顔を見合わせて苦笑した。しかし、この親しみやすさが、かえって王女への信頼を深めることになった。


完璧すぎる指導者より、人間らしい弱点を持つ仲間の方が、長い戦いには向いているのかもしれない。


夜明けが近づく頃、一行はついに安全な隠れ家を見つけた。明日からは3日間かけて王都ルミナリスを目指すことになる。


「明日からの行程を確認しよう」王女が地図を広げた。「1日目は山間部を通って約50キロメートル。2日目は森林地帯で約60キロメートル。3日目は王都近郊の平地で約40キロメートルだ」


「それぞれの区間で、休憩地点は確保されていますか?」ダニエルが尋ねた。


「ああ、古い砦や修道院の別院など、安全な宿泊地がある」レオナルド騎士が答えた。「食料と水の補給も可能だ」


「それは安心ですね」マルコが頷いた。


しかし、真の戦いはこれから始まるのだった。セレスティア王女という強力で愛すべき協力者を得て、ダニエルたちの戦いは新たな段階に入ろうとしていた。


王都ルミナリスでARIAの力を解放し、ヴィクターとDOMINIONに立ち向かう。3日間の旅路を経て、運命の決戦が待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ