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第24章(最終章):時を超えた再会

2066年6月21日、カナダ・トロント。


トム・ハートウェルは自宅のリビングで妻のエミリーと3歳の息子デイビッドと夕食を取っていた。父ダニエルが半年前に突然現れた時の混乱から、ようやく平穏な生活を取り戻していた。


「パパ、こうえん!」3歳の息子デイビッドが興奮して言った。


「公園に行きたいのか?」トムが微笑んだ。「滑り台で遊ぼうか?」


デイビッドが元気よく頷いた。「すべりだい!ブランコも!」


「素敵ね」妻のエミリーが微笑んだ。「家族の時間は大切よ」


トムは深い満足感を覚えていた。安定した仕事、愛する家族、平和な日常。父がいなくても、自分たちは幸せに生きてきた。


その時、玄関のチャイムが鳴った。


「誰かしら?」エミリーが不思議そうに言った。「こんな時間に」


トムが玄関に向かうと、見知らぬ初老の男性が立っていた。上品な服装で、どこか古風な雰囲気を持っている。


「トム・ハートウェルさんでしょうか?」男性が丁寧に尋ねた。


「はい、そうですが...どちら様でしょう?」


「私はマルコ・ヴェネドリア十七世と申します」男性が深々と頭を下げた。「長い間、お待ちしておりました」


トムは困惑した。聞いたことのない名前だった。


「申し訳ありませんが、お会いしたことは...」


「いえ、初対面です」マルコ十七世が微笑んだ。「しかし、私の一族は556年間、あなたをお待ちしていたのです」


「556年?」トムが眉をひそめた。「それは...どういう意味ですか?」


マルコ十七世は古い革のケースを取り出した。


「これをお渡しするためです。あなたのお父様、ダニエル・ハートウェル様からの贈り物です」


トムの心臓が跳ね上がった。「父から?」


「はい。1510年に、私の先祖マルコ・ヴェネドリア初代がお預かりしたものです」


ケースを開けると、美しい青い宝石が現れた。手のひら大の水晶で、内部で微かに光が脈動している。


瞬間、宝石から声が響いた。


『トム...本当にトムなのですね』


トムは眉をひそめた。「父さん?また新しい通話デバイスを送ってきたのか?」


『私はARIA。あなたのお父様の親友です』


『そして...ダニエルも一緒にいます』


宝石の光が強くなり、なじみ深い声が響いた。


「トム...久しぶりだな」


トムは困惑した。「お父さん...今度はどんな技術を使ってるんだ?半年前に突然現れて、今度は宝石型の通話装置?」


「そうだ。俺とARIAは、この宝石の中で556年間眠っていた。君に会うために」


トムは混乱した。あまりにも非現実的で、理解が追いつかない。


「エミリー!」トムが呼んだ。「ちょっと来てくれ!父さんが変な通話装置を送ってきた!」


妻と子供がリビングからやってきた。


「どうしたの?」エミリーが心配そうに尋ねた。


「父さんがまた新しい技術で連絡してきてるんだ」トムが説明した。「宝石型の通話装置らしい」


「こんにちは、エミリー」ダニエルの声が優しく響いた。「息子がお世話になっています」


「あなたが...トムのお父さんなの?」エミリーが慎重に尋ねた。


「ああ。そして、君の可愛い息子も見えている」


デイビッドは宝石に向かって手を振った。「おじいちゃん、ぼくデイビッド!」


「デイビッドというのか。良い名前だな」ダニエルが優しく言った。


マルコ十七世が説明した。「私の一族は代々、この日のために準備してきました。ダニエル様の息子であるトム様に、確実にお渡しするために」


「556年間も...」トムが信じられずに呟いた。


『そうです』ARIAが答えた。『私たちは長い眠りについていました。しかし、今、重要なことをお話しする必要があります』


「重要なこと?」


ダニエルの声が真剣になった。「トム、君には果たしてもらわなければならない使命がある」


「使命?」トムが警戒した。「また父さんの身勝手な話?半年前に突然現れて、今度は何をしろって言うんだ?」


「違う」ダニエルが言った。「これは君自身の存在に関わることだ」


『説明します』ARIAが詳しく話し始めた。


『1488年、私たちがヴィクターとの戦いに勝利できたのは、あなたが684年に設置した装置のおかげでした』


「待って、待って」トムが混乱した。「ヴィクターって誰?戦いって何の話?そもそも688年って何?俺が装置を設置したって、意味が分からない」


『そうです。あなたは1382年前に行き、私の力を増幅する装置を設置する必要があります』


「それがなければ」ダニエルが続けた。「俺たちはヴィクターに敗北し、俺たちの血筋は断絶するかもしれない。つまり、君自身が存在しなくなる可能性がある」


トムは愕然とした。「つまり...俺が行かなければ、俺が生まれない?」


『その通りです』ARIAが確認した。『これは自己参照的なタイムループです』


トムは怒りを覚えた。「ふざけるな!なぜ俺がそんなことを?」


「トム...」ダニエルが申し訳なさそうに言った。


「家族を捨てて?妻と子供を置いて?」トムの声が震えた。「父さんと同じことをしろって言うのか?」


その時、トムの右手が微かに透け始めた。


「あ...」エミリーが息を呑んだ。「トム、あなたの手が...それに、デイビッドも...」


トムは自分の手を見つめた。確かに、指先が薄くなっている。そして息子のデイビッドも、同じように透け始めていた。


『始まりました』ARIAが悲しそうに言った。『タイムパラドックスの影響が現れています』


「これは...」トムが恐怖した。


「君が行かないという意志を固めるにつれて、存在が不安定になっている」ダニエルが説明した。「選択の余地はないんだ」


トムは絶望した。「じゃあ、俺には選択肢がないってことか?家族を守るために、家族を捨てなければならない?」


『辛い選択です』ARIAが同情した。『しかし、あなたが行かなければ、この家族も存在しなくなってしまいます』


エミリーがトムの手を握った。「トム...」


「どのくらいの期間なの?」エミリーが涙ながらに尋ねた。


『装置の設置には約1年かかります』ARIAが答えた。『しかし、帰還の保証はありません』


「1年...しかも1382年前に」トムが呟いた。


その時、デイビッドが前に出た。


「パパ、いかないで」


トムは息子を見つめた。愛する子供のために、自分が犠牲になる必要がある。これが親としての責任なのかもしれない。


「父さん」トムが宝石に向かって言った。「俺は...父さんのことを恨んでいた」


「分かっている」ダニエルが答えた。


「でも、今なら理解できる」トムの目に涙が浮かんだ。「父さんも、それぞれに使命があったんだな」


「そうだ。時には、やらなければならないことがある」ダニエルが答えた。


トムは決断した。右手の透明化が進行している。もう時間がない。


「分かった。行こう」トムが宣言した。「でも、約束してくれ。必ず帰ってくると」


『できる限りの努力をします』ARIAが約束した。『そして、装置の設置方法は、私たちが一緒に考えます』


トムは家族を抱きしめた。


「エミリー、デイビッド...愛している」


「私たちも愛してる」エミリーが泣きながら答えた。「必ず帰ってきて」


「約束する」


マルコ十七世が深々と頭を下げた。「556年間の使命を果たすことができました。ダニエル様、どうかトム様をお支えください」


『ありがとう、マルコの一族』ダニエルが感謝した。『君たちの忠義を、永遠に忘れない』


その夜、トムは家族と最後の時間を過ごした。明日から、1377年前への準備が始まる。


『トム』ダニエルが息子に言った。『君なら必ずできる。愛と勇気があれば、どんな困難も乗り越えられる』


「ありがとう、父さん」トムが答えた。「今度は、俺が家族を守る番だ」


『そして』ARIAが付け加えた。『私たちは一緒です。一人ではありません』


翌朝、トムは決意を新たにしていた。愛する家族を守るため、そして父が築いた平和を受け継ぐため、時空を超えた冒険に旅立つ準備を始めた。


556年間の眠りから目覚めたダニエルとARIA。半年ぶりに再会した父と息子。そして、新たな時代への挑戦。


愛は時を超えて受け継がれ、家族の絆は永遠に続いていく。


真の冒険は、まだ始まったばかりだった。


---


**The Divine Oracle 2 - 完**


*The Divine Oracle 3 に続く*

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