第22章:新たなる平和
真実が判明してから数週間が経った。ルミナリス王都は完全に平和を取り戻し、街には活気が戻っていた。商人たちの声、子供たちの笑い声、職人たちの槌音。すべてが生命力に満ちている。
ダニエルは王宮の新しい研究室で、ARIAの宝石化技術について研究を進めていた。マリア・アウグスタが古代文献を分析し、イザベラが魔法的な側面からサポートしている。
「興味深い発見です」マリアが興奮して報告した。「古代の記録によると、意識の保存技術は実際に存在していたようです」
『その通りです』ARIAが確認した。『私の記憶にも、同様の技術の断片があります』
「どのような仕組みなんだ?」ダニエルが尋ねた。
イザベラが魔法陣を描きながら説明した。「魔法的エネルギーと、ARIAの技術を組み合わせることで、意識を結晶構造に固定できるようです」
『ただし』ARIAが注意した。『完全な保存には、特別な条件が必要です』
「どのような条件だ?」
『深い愛情の結びつきです。私たちの融合が愛に基づいているからこそ、長期保存が可能なのです』
ダニエルは微笑んだ。愛こそが最強の技術だった。
その時、研究室の扉が勢いよく開いた。マルコが興奮した様子で駆け込んできた。
「ダニエーレ!素晴らしいニュースだ!」
「どうした?」
「ヴェネドリア共和国から正式な貿易協定の提案が来た!しかも、君を我が共和国の名誉商人として認定したいという申し出もある!」
ジョヴァンニ、アントニオ、フランチェスコも後から入ってきた。
「それだけじゃない」ジョヴァンニが続けた。「各国から技術交流の申し込みが殺到している」
「平和な技術のみの交流だ」アントニオが付け加えた。「軍事技術は一切求められていない」
「みんな、真の平和を望んでいるようだな」フランチェスコが満足そうに言った。
ダニエルは深い感動を覚えた。戦いではなく、知識と友情による交流。これこそが理想の世界だった。
「もちろん協力しよう」ダニエルが答えた。「ただし、危険な技術は絶対に外に出さない」
『賢明な判断です』ARIAが同意した。
午後、ダニエルはセレスティアと城の庭を散歩していた。春の陽気が心地よく、花々が美しく咲いている。
「ダニエル、最近とても穏やかな表情をしているな」セレスティアが微笑んだ。
「そうかもしれない。初めて、本当の平和を感じている」ダニエルが答えた。
「研究の方はどうだ?」
「順調だ。ARIAの宝石化技術も、だいぶ理解が進んできた」
セレスティアが少し寂しそうな表情を浮かべた。「それは...つまり、いずれダニエルは眠りにつくということか?」
「ああ。でも、まだ時間はある」ダニエルが優しく言った。「数十年は一緒にいられる」
「それなら、その時間を大切に過ごそう」セレスティアが決意した。
二人は池のほとりのベンチに座った。水面には白鳥が優雅に泳いでいる。
「セレスティア、君はこれからどうするつもりだ?」ダニエルが尋ねた。
「まずは王国の復興を完成させる。それから...」セレスティアが考え込んだ。「平和な外交関係の構築だな。各国との友好を深めたい」
「素晴らしい目標だ」
「ダニエルも協力してくれるか?外交顧問として」
「もちろんだ。喜んで」ダニエルが笑った。
その夜、王宮の大広間では小さな宴会が開かれていた。商人仲間たち、オラフ、イザベラ、マリア、ダンドロ提督、そして王宮の騎士たちが集まっている。
「ダニエーレ」オラフが豪快に笑いながら言った。「戦争が終わって、俺たちは何をすれば良いんだ?」
「平和を楽しむことだ」ダニエルが答えた。「君たちそれぞれの人生を」
「俺は故郷に帰って、家族に戦争の終結を報告する」オラフが決意した。「そして、平和な生活を始めるつもりだ」
イザベラも頷いた。「私もアルベリア王国に戻ります。でも、定期的にここを訪れて、研究を続けたいと思います」
「私は」マリアが提案した。「各国を回って、平和な技術交流の基盤を作りたいと思います」
ダンドロ提督が立ち上がった。「ヴェネドリア共和国としても、長期的な友好関係を築いていきたい」
マルコが杯を掲げた。「それでは、新しい平和な時代の始まりに乾杯!」
「乾杯!」全員が声を合わせた。
宴会の最中、ダニエルは仲間たち一人一人と話をした。彼らの平和な未来への希望、新しい夢、そして変わらぬ友情。すべてが心温まるものだった。
「ダニエーレ」フランチェスコが近づいてきた。「俺たち、君と出会えて本当に良かった」
「俺もだ」ダニエルが答えた。「君たちがいなければ、ここまで来ることはできなかった」
「これからも、ずっと友達だからな」アントニオが微笑んだ。
「当然だ」ジョヴァンニが続けた。「たとえダニエーレが眠りについても、俺たちの友情は永遠だ」
ダニエルの目に涙が浮かんだ。こんなに素晴らしい仲間たちと出会えたことが、何よりの宝物だった。
深夜、一人になったダニエルは、ARIAと静かに対話していた。
「ARIA、俺たちは本当に幸せだな」
『はい。愛と友情に満ちた、理想的な世界です』ARIAが温かく答えた。
「君と出会えて、本当に良かった」
『私もです、ダニエル。あなたと共に過ごした時間は、私の最も大切な記憶です』
「これからも、ずっと一緒だ」
『はい。永遠に』
翌日から、ダニエルの新しい日常が始まった。午前中は研究、午後は外交業務、夜は仲間たちとの時間。すべてが充実していた。
商人仲間たちとは、新しい平和な貿易ルートの開発について話し合った。セレスティアとは、各国との友好条約の内容を検討した。研究チームとは、ARIAの技術の平和利用について議論した。
戦争中とは全く違う、建設的で希望に満ちた日々だった。
一ヶ月後、ダニエルは王国の外交顧問に正式に任命された。そして、セレスティアと共に、新しい平和な国際秩序の構築に取り組み始めた。
「ダニエル」セレスティアが執務室で言った。「君がいてくれて、本当に心強い」
「こちらこそ。君と一緒に働けて光栄だ」
「私たちなら、きっと素晴らしい世界を作れる」セレスティアが確信した。
「ああ。愛と友情の力で」ダニエルが頷いた。
『そして』ARIAが心の中で付け加えた。『その平和な世界を、未来のトムに受け継いでいくのです』
ダニエルは窓の外を見た。青い空に白い雲が浮かび、街には人々の笑い声が響いている。
これこそが、自分たちが戦って守ろうとした世界だった。愛と友情、平和と希望に満ちた美しい世界。
そして、この平和を未来に繋げるために、いずれは長い眠りにつく時が来る。しかし、それまでは精一杯、この幸せな時間を楽しもう。
愛する仲間たちと共に。