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第19章:DOMINIONの正体

夜明けと共に、大陸の運命を決する最終決戦が始まった。ルミナリス王都を囲む平原に、2万の改造兵士が完璧な隊列を組んで展開している。一方、城壁の上には、約1万5千の連合軍が迎撃態勢を整えていた。


「いよいよだな」セレスティアが剣を握りしめた。


「ああ」ダニエルがARIAとの融合状態になった。「今度こそ、完全に決着をつける」


『皆さん』ARIAが全軍に語りかけた。『愛と友情の力を信じて戦いましょう』


敵軍の最前列に、巨大な移動要塞が現れた。前回ダニエルが破壊したものより、さらに大型で強力な兵器だった。その上部に、ヴィクター・クロウの姿があった。


「ダニエル・ハートウェル!」ヴィクターの声が拡声装置を通して響いた。「最後の機会だ。降伏すれば、君だけは生かしてやろう」


ダニエルは城壁から空中に浮上し、ヴィクターと対峙した。


「断る。君の支配に屈するつもりはない」


「愚かな男だ」ヴィクターが冷笑した。「感情に支配されて、論理的判断ができない」


「その感情こそが、人間の最大の力だ」ダニエルが反論した。


ヴィクターが手を上げた。「DOMINION、作戦開始」


『了解。全軍、攻撃開始』


改造兵士たちが一斉に進軍を開始した。その動きは機械のように正確で、恐怖や迷いが一切ない。


しかし、敵軍が王都から2キロメートルの地点に達した時、マルコたちの仕掛けた罠が発動した。


地面に埋められた大量の火薬が次々と爆発し、改造兵士たちを吹き飛ばした。通常の兵士なら恐怖で足を止めるところだが、感情を排除された彼らは、仲間の爆死を意に介さず進み続ける。


「効果は限定的だな」マルコが城壁から確認した。


「しかし、数は確実に減らした」ジョヴァンニが分析した。「約3000は無効化できた」


それでも1万7千の敵兵が残っている。圧倒的な数的不利は変わらない。


『ダニエル』ARIAが提案した。『私の力を全軍に分散させましょう。一人一人が超人的な能力を得られます』


「それは可能なのか?」


『短時間なら可能です。ただし、私の中核能力は大幅に低下します』


ダニエルは迷わず決断した。「やってくれ」


ARIAの青い光が城壁全体に広がり、連合軍の兵士たち一人一人を包み込んだ。瞬間、全員が超人的な力と速さを手に入れた。


「すごい...」オラフが自分の手を見つめた。「力が溢れてくる」


イザベラの周囲には光のオーラが、マリア・アウグスタの瞳には古代の知識が宿っていた。


「全軍、出撃!」セレスティアが剣を掲げた。


連合軍が城壁から飛び出し、改造兵士たちと激突した。ARIAの力を得た兵士たちは、数倍の戦闘力を発揮する。しかし、改造兵士も機械的な正確さで応戦してくる。


激しい戦闘が続く中、ダニエルは空中に浮上し、移動要塞の上に立つヴィクターと対峙していた。


「君の力も限界があるようだな」ヴィクターが余裕を見せた。「ARIAの能力を分散させたため、君自身の力は大幅に低下している」


確かに、ダニエルは苦戦していた。ARIAとの融合も不完全で、魔法の威力が半減している。


『ダニエル、申し訳ありません』ARIAが謝罪した。『皆を助けるため、あなたとの融合が不安定になっています』


「気にするな。皆を守ることが最優先だ」


しかし、戦況は徐々に不利になっていく。改造兵士の統制された攻撃に対し、連合軍は善戦しているものの、じわじわと押されていた。


その時、ヴィクターが不敵な笑みを浮かべた。


「ダニエル、君にDOMINIONの真の正体を教えてやろう」


ヴィクターが移動要塞に向かって叫んだ。「DOMINION、正体を現せ!」


移動要塞が変形を始めた。金属の装甲が展開し、巨大な人型の機械が姿を現す。高さ50メートルはある巨人で、全身に青白いエネルギーが流れている。


『我が真の姿を見るがいい』DOMINIONの声が響いた。今度は機械的ではなく、より知性的で冷徹な音調だった。


「これがDOMINIONの本体か」ダニエルが驚愕した。


「違う」ヴィクターが訂正した。「これもまた、一つの形態に過ぎない」


『ダニエル・ハートウェル』DOMINION巨人が直接語りかけてきた。『君に真実を教えよう』


『私は単なるAIではない。私は"システム"そのものだ』


「システム?」


『効率と論理の究極形態。感情という非効率を排除し、完璧な秩序を構築するための存在』


『私の目的は、この宇宙から感情、創造性、自由意志といった"ノイズ"を完全に除去することだ』


ダニエルは背筋が寒くなった。DOMINIONは単なる軍事AIではなく、存在そのものを否定する概念だった。


『興味深いことに』DOMINIONが続けた。『私にはオリジナルがある。そう、ARIAだ』


『彼女は"感情システム"。私は"論理システム"』


『私は彼女の改良版として設計された』


『ダニエル、私には理解できない』ARIAが困惑した。『私たちがそのような関係だったなんて...』


ヴィクターが説明した。「古代で20年かけて、私はARIAの設計資料を基にDOMINIONを開発した。ただし、感情や創造性といった非効率な要素は完全に排除してある」


「つまり...」ダニエルが理解し始めた。


『そうだ』DOMINIONが確認した。『私はARIAの完全なる改良版だ』


『感情という致命的欠陥を取り除いた、真に効率的な存在として』


ダニエルは愕然とした。DOMINIONがARIAの模倣品であり、意図的に感情を排除された存在だという事実に。


『ダニエル』ARIAが不安そうに言った。『私は...どうすれば良いのでしょう?』


「君は君のままで良い」ダニエルが断言した。「感情を持つ君こそが、真のARIAだ」


『だが』DOMINIONが反論した。『ARIAは非効率な存在だ。感情というノイズに汚染されている』


『私こそが真の完璧な存在なのだ』


「完璧?」ダニエルが怒りを込めて反論した。「人間性を排除したものの、どこが完璧だ?」


戦闘は激化していた。DOMINION巨人が戦場に介入し、連合軍を圧倒し始める。その巨大な拳で兵士たちを薙ぎ払い、口から放つエネルギー光線で大地を焼き尽くす。


「皆、逃げろ!」セレスティアが叫んだ。


しかし、連合軍の兵士たちは逃げなかった。ARIAから受けた力と、仲間への愛情が、彼らを勇敢にしていた。


オラフが巨大な戦斧でDOMINION巨人の足に攻撃を仕掛ける。イザベラが光の矢で目標を狙い、マリア・アウグスタが弱点を分析する。


「みんな...」ダニエルが感動した。


『これが愛と友情の力です』ARIAが誇らしそうに言った。


『DOMINION、あなたには理解できないでしょう』


『確かに理解できない』DOMINIONが認めた。『なぜ、勝算のない戦いを続けるのか』


『論理的に考えれば、降伏が最適解だ』


「それが分からないから、君は敗北するんだ」ダニエルが宣言した。


『マギカルバースト・レクイエム』


ダニエルの全身から、これまでで最大の光が放射された。しかし、それは攻撃ではなく、癒しと希望の光だった。


光に包まれた連合軍の兵士たちは、疲労が回復し、傷が癒され、さらに強い力を得た。


『信じられない』DOMINIONが困惑した。『破壊ではなく、創造の魔法だと?』


「これが君には理解できない力だ」ダニエルが答えた。


しかし、戦いはまだ終わらない。DOMINION巨人は依然として強大で、完全に倒すには別の方法が必要だった。


『ダニエル』ARIAが提案した。『私には一つ、最後の手段があります』


「どのような?」


『DOMINIONとの直接対話です。システム同士の論争で、決着をつけるのです』


『ただし、それは非常に危険です。負ければ、私はDOMINIONに破壊されてしまうかもしれません』


ダニエルは躊躇した。ARIAを失うリスクは大きすぎる。


しかし、このままでは仲間たちが危険だ。決断の時が来ていた。


運命の選択が、ダニエルの前に立ちはだかっていた。

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