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第18章:運命の分岐点

1488年初春。裏切り工作を乗り越えた翌朝、ダニエルは久しぶりに商人仲間たちと再会していた。王宮の作戦会議室で、マルコ、ジョヴァンニ、アントニオ、フランチェスコの四人が待っていた。


「ダニエーレ!」マルコが嬉しそうに迎えた。「大変だったようだな」


「ああ」ダニエルが苦笑した。「君たちはどこにいたんだ?この数ヶ月、姿が見えなかったが」


「我々には重要な任務があったのだ」ジョヴァンニが説明した。「君が新しい仲間たちと戦っている間、我々は後方支援の要となる作業を担当していた」


アントニオが地図を広げた。「各地の商人ネットワークを使って、敵軍の詳細な動向を調査していました。それに、補給路の確保も」


「戦争が激化する中、前線に物資を届けるのは我々商人の仕事ですからね」フランチェスコが続けた。


ダニエルは安堵した。彼らが戦闘に参加していなかったのは、より重要な後方任務があったからだった。


「そして、驚くべき情報を得ました」マルコが興奮して報告した。


『興味深いですね』ARIAが反応した。『詳しく聞かせてください』


ジョヴァンニが証言した。「各地で、敵兵が突然発狂して味方を攻撃する事件が頻発しています」


「薬物の長期使用により、精神に異常をきたしているのです」アントニオが付け加えた。「エルドリア帝国軍では、兵士の約3割が戦闘不能になっています」


「我々の商人ネットワークからの情報では、ガリア王国でも同様の症状が報告されています」フランチェスコが補足した。


「それは...」ダニエルが考え込んだ。


『DOMINIONの計算ミスですね』ARIAが分析した。『効率を重視するあまり、人間の限界を軽視したのでしょう』


マルコが深刻な表情になった。「しかし、問題はここからです。ヴィクターが新たな対策を講じているという情報があります」


「どのような?」


「完全に人間性を排除した『改造兵士』の開発です」ジョヴァンニが重い口調で答えた。


セレスティア王女が会議室に入ってきた。「改造兵士?」


「殿下」ダニエルが振り返った。


「説明してくれ」王女が席に着いた。


アントニオが報告した。「我々の情報網によると、ヴィクターは薬物依存で廃人となった兵士を、機械的に改造しているようです」


「感情、痛覚、恐怖、すべてを外科的に除去し、純粋な戦闘マシンにしているという」フランチェスコが続けた。


「そんな...」セレスティアが青ざめた。


『おぞましいことです』ARIAが怒りを込めて言った。『人間をただの道具として扱うなど、許されることではありません』


マルコが付け加えた。「我々が潜入調査で確認したところ、改造施設は各国に設置されているようです」


「潜入調査?」ダニエルが驚いた。「危険ではなかったのか?」


「商人としての特権を活用しました」ジョヴァンニが微笑んだ。「『軍需物資の納入業者』として、敵の施設に近づくことができたのです」


「各国の軍需担当者は、我々商人ネットワークに依存しています」アントニオが説明した。「戦争中でも、物資の調達は必要ですから」


フランチェスコが資料を取り出した。「これが我々が収集した敵軍の詳細データです」


その時、伝令が駆け込んできた。


「陛下!大変です!北方から巨大な軍勢が接近しています!」


一同は急いで城壁に向かった。双眼鏡で確認すると、確かに大軍が迫ってくる。しかし、その様子は異常だった。


「あれは...人間なのか?」マルコが震え声で言った。


敵軍の兵士たちは、完全に整然と行進している。疲労の様子もなく、まったく感情を表に出さない。まるで操り人形のようだった。


「商人として各地を回ってきたが、あのような軍勢は見たことがない」ジョヴァンニが困惑した。


『生体反応を分析します』ARIAが調査した。


『...信じられません。彼らからは、ほとんど人間的な生命反応が検出できません』


「つまり?」ダニエルが確認した。


『機械化された人間、というのが正確でしょう。意識はあるようですが、感情や自由意志は完全に排除されています』


セレスティアが拳を握りしめた。「人間をここまで...」


「数は?」ダニエルが尋ねた。


見張りが報告した。「約2万です。しかし、全員が異常に統制が取れています」


「我々の情報では、各国で約5万の兵士が改造されたはずです」マルコが困惑した。「残りの3万はどこに?」


『おそらく』ARIAが推測した。『段階的な投入戦略でしょう。まず2万で我々の戦力を試し、必要に応じて残りを投入する計画かもしれません』


国王も駆けつけてきた。「状況はどうだ?」


「陛下」ダニエルが報告した。「敵は人間性を捨てることで、薬物の副作用を克服したようです」


「我々の時間稼ぎ戦術は通用しないということか」国王が絶望的になった。


しかし、ダニエルは諦めていなかった。


「いえ、逆に弱点が見えました」ダニエルが確信を込めて言った。


「どういう意味だ?」セレスティアが尋ねた。


「感情を排除したということは、創造性も失ったということです。彼らは命令に従うことしかできません」


『その通りです』ARIAが同意した。『DOMINIONと同じ弱点を持っているはずです』


マルコが理解した。「つまり、予測不可能な戦術で対抗すれば良いということか」


「そうだ」ダニエルが頷いた。「そして、君たちが集めた情報が役に立つ」


アントニオが資料を示した。「改造兵士の製造過程で、いくつかの技術的制約があることが分かりました」


「どのような?」


「まず、改造には膨大なエネルギーが必要です」ジョヴァンニが説明した。「そのため、長期間の連続稼働は困難です」


「それに、改造装置の維持には特殊な材料が必要です」フランチェスコが続けた。「我々がその補給路を把握しています」


マルコが提案した。「補給路を断てば、敵の改造能力を制限できるかもしれません」


その時、敵軍から使者が現れた。白い旗を掲げた騎士が、城門前で宣言した。


「ルミナール王国の者たちよ!我が主ヴィクター・クロウ様が、最後の降伏勧告を送る!」


使者の声は機械的で、感情がまったくこもっていない。


「24時間以内に無条件降伏せよ。さもなくば、完全殲滅する」


「返事は必要ない。我々の勝利は論理的必然である」


使者はそれだけ言うと、機械的に踵を返して敵軍に戻っていった。


「傲慢だな」セレスティアが怒った。


「しかし、向こうは本気だ」ダニエルが分析した。「最終決戦を仕掛けるつもりだ」


国王が決断した。「総力戦の準備をしろ。全軍に招集をかける」


その夜、王宮では最後の作戦会議が開かれた。ダニエル、セレスティア、商人仲間たち、新しい仲間たち、国王、そして重臣たちが一堂に会した。


「明日の戦いが、すべてを決める」国王が厳かに言った。


ダンドロ提督が海軍の準備状況を報告した。「艦隊は完全武装で待機中です」


オラフが陸軍の状況を説明した。「義勇軍も士気は高い。死ぬ覚悟はできています」


イザベラとマリア・アウグスタも、ARIAとの連携準備が整ったことを確認した。


そして、マルコが重要な提案をした。


「ダニエーレ、我々には秘策がある」


「どのような?」


ジョヴァンニが説明した。「商人ネットワークを使って、各地に隠し物資を配置してあります」


「隠し物資?」


アントニオが微笑んだ。「火薬です。大量の火薬を、敵軍の予想進軍路に仕掛けてあります」


フランチェスコが続けた。「機械化された兵士は、恐怖を感じません。つまり、危険を察知する能力も低下しているはずです」


「なるほど」ダニエルが理解した。「罠にかかりやすいということか」


「その通りです」マルコが確信した。「我々の3年間の商人活動は、この日のためでもあったのです」


セレスティアが感嘆した。「君たちは...最初からこの戦いを想定していたのか?」


「まさか」マルコが苦笑した。「しかし、ダニエーレと共に行動する中で、いつか大きな戦いになることは予感していました」


「だから、常に情報収集と物資の備蓄を続けていたのです」ジョヴァンニが付け加えた。


「我々商人は、リスクに備えるのが仕事ですから」アントニオが微笑んだ。


『素晴らしい準備です』ARIAが称賛した。『これで勝算が大幅に向上しました』


ダニエルは深い感動を覚えた。商人仲間たちは、静かに、しかし確実に勝利への道筋を築いていてくれたのだ。


「ありがとう、皆」ダニエルが心から言った。「君たちがいなければ、ここまで来ることはできなかった」


「何を言っている」マルコが豪快に笑った。「我々は一心同体だろう」


「戦闘は君たちに任せる」ジョヴァンニが続けた。「我々は後方支援と補給路の妨害を担当する」


「敵の改造兵士製造も、我々が阻止してみせる」アントニオが約束した。


「必要な物資は、すべて準備済みだ」フランチェスコが胸を張った。


会議の最後に、ダニエルは重要な決断を発表した。


「明日の戦いで、俺はヴィクターと一対一で決着をつける」


「しかし、危険すぎる」セレスティアが反対した。


「いや、これは俺の使命だ」ダニエルが答えた。「ヴィクターとDOMINIONを止められるのは、ARIAと俺だけだ」


『ダニエル』ARIAが心配した。『一人では...』


「一人ではない」ダニエルが微笑んだ。「君がいる。そして、これだけの仲間がいる」


「俺たちも一緒に戦う」マルコが宣言した。


「我々は仲間だ」ジョヴァンニが続けた。


「最後まで一緒だ」アントニオとフランチェスコも同意した。


セレスティアも決意した。「私も行く。友として、共に戦おう」


『皆さん』ARIAが感動した声で言った。『これこそが愛と友情の力です』


『明日、我々は必ず勝利します』


深夜まで続いた会議の後、ダニエルは城の屋上で星空を見上げていた。明日の戦いを前に、様々な思いが巡る。


古代でのアレイス、リリア、マイケルとの出会い。現代での家族との別れ。そして、この中世での新たな仲間たちとの絆。


すべてが、明日の戦いに繋がっている。


「ダニエル」セレスティアが隣に立った。


「眠れないのか?」


「君もだろう」ダニエルが微笑んだ。


「明日で、すべてが決まるな」


「ああ。でも、俺たちなら大丈夫だ」ダニエルが確信を込めて言った。


「そうだな」セレスティアが頷いた。「最高の仲間がいるのだから」


二人は星空の下で、最後の夜を静かに過ごした。


運命の分岐点に立った彼らは、愛と友情の力、そして商人仲間たちの周到な準備を信じて、最終決戦に挑もうとしていた。


明日、大陸の運命が決まる。そして、ダニエルとヴィクターの長い戦いにも、ついに決着がつく時が来ていた。

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