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第17章:裏切りと再結集

勝利から三日後、ルミナリス王宮は束の間の平穏に包まれていた。敵軍は一時撤退し、次の攻撃までには数日の猶予があると思われていた。しかし、真の危機は内部から静かに忍び寄っていた。


「おかしいな」マリア・アウグスタが古代遺物研究室で首をかしげていた。「昨夜、誰かがこの部屋に侵入した形跡があります」


ダニエルとセレスティアが駆けつけた。確かに、書類や装置の配置が微妙に変わっている。


「何が狙いだったのか分かるか?」セレスティアが尋ねた。


マリアが慎重に調べた結果、ARIAの能力に関する研究資料の一部が盗まれていることが判明した。


『ダニエル』ARIAが警告した。『この情報があれば、私の能力を無効化する装置を作ることも可能です』


「内部に敵のスパイがいるということか」ダニエルが険しい表情になった。


その時、執事のエドモンドが慌てて駆け込んできた。


「大変です!ヴェネドリア義勇軍の一部が、王宮を出て行ってしまいました!」


「何だって?」セレスティアが驚いた。


「約300名が、『故郷の危機』を理由に突然撤退しました。ダンドロ提督も困惑しておられます」


ダニエルとセレスティアは急いで港に向かった。そこには確かに、空になった輸送船と、困惑するダンドロ提督の姿があった。


「提督、何が起こったのですか?」ダニエルが尋ねた。


「分からないのです」提督が頭を振った。「昨夜、急に故郷から緊急召集の命令が届いたと言って...」


「その命令書を見せてもらえますか?」


提督が取り出した羊皮紙は、確かにヴェネドリア共和国の公式印章が押されている。しかし、マリアが詳しく調べると、微妙な偽造の痕跡が見つかった。


「これは巧妙な偽物です」マリアが断言した。「印章の彫りが浅く、インクの成分も異なります」


「つまり、騙されたということか」セレスティアが歯ぎしりした。


さらに悪いことに、その日の午後、各国義勇軍の間で不穏な噂が広まり始めた。


「ルミナール王国は我々を盾にするつもりだ」


「ダニエーレという男は、実は敵と内通しているのではないか」


「あの不可思議な力は、悪魔との契約の結果だ」


これらの噂は組織的に広められており、明らかに何者かの工作だった。


義勇軍の宿営地では、疑心暗鬼が広がっていた。オラフが仲裁に入ろうとしたが、状況は悪化する一方だった。


「おい、本当にダニエーレは信用できるのか?」一人の義勇兵が不安そうに言った。


「あの青い石の力も怪しいものだ」別の兵士が続けた。


イザベラが義勇軍を説得しようとしたが、疑念は簡単には晴れなかった。


その夜、王宮の会議室で緊急会議が開かれた。


「状況は深刻だ」国王が重い口調で言った。「このままでは内部から崩壊してしまう」


「敵の巧妙な策略です」ダニエルが分析した。「直接攻撃では勝てないと分かって、分裂工作に出てきました」


『ダニエル』ARIAが報告した。『王宮周辺で、DOMINIONの小型偵察装置を複数検出しています。我々の行動は全て監視されていたようです』


「それで適切なタイミングで工作を仕掛けてきたのか」セレスティアが理解した。


「問題は、どうやって信頼を回復するかだ」国王が悩んだ。


その時、会議室の扉が勢いよく開かれた。レオナルド騎士が血相を変えて飛び込んできた。


「陛下!大変なことが!イザベラ殿が何者かに襲撃されました!」


一同は急いで現場に向かった。宿営地の一角で、イザベラが意識を失って倒れている。幸い命に別状はないが、頭部に打撲傷があった。


「誰がこんなことを...」オラフが怒りに震えた。


近くにいた義勇兵が証言した。「黒いフードの男が突然現れて、イザベラ殿を襲撃しました。我々が駆けつけた時には、もう逃げた後でした」


『ダニエル』ARIAが分析した。『襲撃者の残留エネルギーパターンから、DOMINION製の装置を使用していたことが分かります』


「やはり敵の仕業か」ダニエルが確信した。


しかし、義勇兵たちの疑念はさらに深まった。


「なぜイザベラ殿だけが狙われたのだ?」


「ダニエーレと親しい者が襲われるのは偶然か?」


「もしかして、口封じではないのか?」


ダニエルは絶望的な気持ちになった。どんなに説明しても、疑念は晴れない。むしろ弁解すればするほど、疑いが深まっていく。


その時、セレスティアが前に出た。


「皆、よく聞いてくれ」王女が堂々と宣言した。「私はダニエーレを完全に信頼している」


「しかし殿下...」一人の義勇兵が口を開きかけた。


「いや、聞いてくれ」セレスティアが続けた。「ダニエーレの行動を見てきた。彼は常に我々のために戦い、危険を顧みず仲間を守ってきた」


「三日前の戦いでも、彼は私やレオナルドを救ってくれた。もし彼が敵なら、なぜそんなことをする必要がある?」


王女の言葉は説得力があった。しかし、まだ完全に疑念は晴れていない。


ダニエルは決断した。ARIAとの融合を一時的に解除し、宝石を皆の前に置いた。


「皆さん、私を信じられないなら、ARIAに直接聞いてください」ダニエルが提案した。


『皆さん』ARIAが全員に語りかけた。『私はダニエーレと共に、愛と正義のために戦っています』


『彼に疑念を抱く気持ちは理解できますが、それこそが敵の思うつぼです』


『真の敵は、我々を分裂させることで勝利を得ようとしているのです』


オラフが立ち上がった。「俺はダニエーレを信じる。これまでの行動が何よりの証拠だ」


マリア・アウグスタも頷いた。「学術的に見ても、ダニエーレの能力は明らかに建設的です。破壊ではなく、保護と治癒に特化している」


徐々に義勇兵たちの表情が変わり始めた。しかし、完全に疑念が晴れるまでには時間がかかりそうだった。


その時、宿営地の外から大きな爆発音が聞こえた。


「何事だ?」セレスティアが振り返った。


見張りが報告した。「王宮方面で火の手が上がっています!」


一同は急いで王宮に向かった。到着すると、古代遺物研究室が炎に包まれていた。


「資料が!」マリアが絶望的な声を上げた。


しかし、さらに深刻な事態が待っていた。火事の混乱に乗じて、王宮の金庫室が襲撃されていたのだ。王国の軍資金の大部分が盗まれていた。


「これでは戦争継続が困難になる」国王が青ざめた。


その時、炎の中から一人の人影が現れた。黒いローブに身を包んだ男。ヴィクター・クロウだった。


「久しぶりだな、ダニエル」ヴィクターが冷笑した。


「ヴィクター...ついに直接出てきたか」ダニエルが身構えた。


「君たちの結束は思ったより強固だった」ヴィクターが認めた。「だが、これでどうだ?」


彼は盗んだ金貨を宙に撒いた。「資金がなければ、どんな理想も維持できない」


「金で解決できる問題ではない」セレスティアが反論した。


「そうかな?」ヴィクターが嘲笑した。「では、試してみるがいい」


彼は煙幕を放ち、その隙に姿を消した。後には炎上する研究室と、空になった金庫だけが残された。


絶望的な状況だった。資金は盗まれ、研究資料は燃え、仲間たちの間には疑念が残っている。


しかし、その時、意外な声が響いた。


「心配いらん」


振り返ると、ダンドロ提督が微笑んでいた。


「どういう意味ですか?」ダニエルが尋ねた。


「実は、ヴェネドリア共和国では、このような事態を予想していました」提督が説明した。「我々の金庫には十分な資金があります。無償で提供しましょう」


さらに、オラフも声を上げた。「俺たちも、故郷から支援を取り付けている。金の問題なら心配ない」


イザベラも意識を取り戻し、弱々しくも言った。「アルベリア王国も...必要なら支援を惜しみません」


マリア・アウグスタが涙を流しながら言った。「研究資料は失いましたが、私の記憶にはすべて残っています。再現可能です」


仲間たちが次々と支援を申し出た。金や物資だけでなく、信頼と友情も。


『皆さん』ARIAが感動した声で言った。『これこそが愛と友情の力です』


『どんな策略も、真の絆を破ることはできません』


ダニエルは仲間たちを見回した。セレスティアの信頼の言葉、オラフの豪快な支援、マリアの学術的献身、イザベラの勇気、ダンドロ提督の誠実さ。


「ありがとう、皆」ダニエルが心から言った。「君たちがいれば、どんな困難も乗り越えられる」


「当然だ」セレスティアが微笑んだ。「我々は友達だからな」


その夜、再結集した仲間たちは、これまで以上に強い絆で結ばれていた。ヴィクターの分裂工作は、逆に彼らの結束を深める結果となった。


『ダニエル』ARIAが満足そうに言った。『愛と友情は、どんな陰謀よりも強い力です』


『これで、最終決戦に向けた準備が整いました』


裏切りと混乱の試練を乗り越えて、真の仲間たちが集まった。最後の戦いが、間もなく始まろうとしていた。

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