表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

第14章:各国の動乱

翌朝、ルミナリス王宮の中庭では、二つの騎馬隊が出発の準備を整えていた。一つはセレスティア王女が率いるヴェネドリア共和国への外交使節団、もう一つはダニエルが率いる古代遺物探索隊だった。


「お気をつけください、殿下」ダニエルが丁寧に声をかけた。


「ダニエルも無理をしないでくれ」王女が微笑んだ。「南東の遺跡は敵地に近い」


二人は軽く会釈を交わした。まだ出会って間もないが、互いへの敬意は確実に育っていた。


「一週間後に、ここで成果を報告し合いましょう」ダニエルが提案した。


「そうだな。必ず戻ってこよう」王女が頷いた。


『ダニエル』ARIAの声が心に響いた。『王女殿下の安全を祈ります。彼女は素晴らしい指導者になるでしょう』


二つの隊は王宮を後にし、それぞれ異なる方向に向かった。セレスティアは西に、ダニエルは南東に。運命を分ける一週間の始まりだった。


---


ヴェネドリア共和国の首都ヴェネドリアポリスは、運河に囲まれた美しい水の都だった。セレスティア王女の一行は、共和国の執政官邸で歓迎を受けていた。


「ルミナール王国のセレスティア王女殿下をお迎えできて光栄です」執政官のアントニオ・モロシーニが丁重に挨拶した。白髪に威厳のある初老の男性で、商人出身らしい実務的な雰囲気を持っている。


「ご丁重な歓迎をありがとうございます」セレスティアが答えた。「今回は重要な提案を持参いたしました」


執政官邸の会議室で、正式な交渉が始まった。セレスティアは、DOMINIONの脅威と六カ国連合軍の危険性について詳しく説明した。


「つまり」執政官が要点を整理した。「得体の知れない技術者が各国を操り、不当な戦争を引き起こそうとしている、と」


「その通りです」セレスティアが頷いた。「この脅威は我が国だけの問題ではありません。やがて共和国にも及ぶでしょう」


「確かに、最近の各国の軍備拡張は異常です」執政官が認めた。「我々の商船も、しばしば理不尽な検問を受けています」


セレスティアは内心で安堵した。話は順調に進んでいる。


「それで」執政官が核心に迫った。「具体的にはどのような協力を求められるのですか?」


「軍事同盟と、海上からの支援をお願いしたいのです」セレスティアが提案した。


しかし、執政官の表情が曇った。「軍事同盟...それは我が共和国の中立政策に反します」


「しかし、このまま放置すれば...」


「王女殿下」執政官が遮った。「我々は商業国家です。戦争は商売の敵なのです」


交渉は行き詰まった。セレスティアは焦りを感じた。このままでは同盟を結ぶことができない。


その時、会議室の扉が開き、一人の若い男性が入ってきた。浅黒い肌で鋭い眼光を持つ、マルコによく似た風貌だった。


「失礼します、叔父上」男性が執政官に挨拶した。


「ああ、アルベルト・ヴェネドリア」執政官が紹介した。「私の甥で、外交顧問を務めています」


セレスティアは興味を示した。若い外交顧問が前に出てきた。


「もしかして」セレスティアが尋ねた。「ダニエル...いえ、ダニエーレと共に行動しているマルコ・ヴェネドリアという商人をご存知ですか?」


「ええ、もちろんです」アルベルトが答えた。「我が共和国では商人に定期的な報告義務があり、彼からルミナール王国の状況について詳しい報告を受けています」


「それなら話が早い」セレスティアが安堵した。


アルベルトが執政官に説明した。「叔父上、我が国の商人からの報告によると、この脅威は本物です。ダニエーレ・アルティエーリという男の力を、実際に目撃したという報告があります」


「具体的にはどのような?」執政官が興味を示した。


セレスティアがARIAのことを説明した。青い光を放つ石、未来の技術、そして超人的な力。最初は信じがたそうにしていた執政官も、詳細な説明を聞くうちに真剣な表情になった。


「もしそれが本当なら」執政官が考え込んだ。「確かに通常の戦争ではない」


「叔父上」アルベルトが提案した。「まずは小規模な協力から始めてはいかがでしょう?」


「どのような?」


「情報提供と、海上輸送の支援です。直接的な軍事行動ではありませんが、有効な協力になります」


セレスティアの表情が明るくなった。完全な軍事同盟ではないが、それでも大きな前進だ。


「それなら検討できます」執政官が頷いた。「ただし、条件があります」


「どのような条件でしょう?」


「我が共和国の商船の安全を保証していただきたい。そして、戦後の貿易関係において優遇措置を」


「承諾いたします」セレスティアが即答した。


交渉は成功に終わった。完全な軍事同盟ではないが、重要な協力関係を築くことができた。


---


一方、ダニエルたちは南東の古代遺跡に向かっていた。マルコ、ジョヴァンニ、アントニオ、フランチェスコの四人と共に、馬を駆って荒野を進んでいる。


『ダニエル』ARIAが報告した。『目標地点まであと10キロメートルです。しかし、この付近には敵の哨戒が展開されています』


「どの程度の規模だ?」


『約50体の自動兵器が、遺跡周辺を警備しています。DOMINIONも、この場所の重要性を理解しているようです』


ダニエルは作戦を考えた。正面攻撃では時間がかかりすぎる。別の方法が必要だった。


「迂回しよう」ダニエルが提案した。「敵の警備が薄い場所から侵入する」


『北西の崖からなら、警備の隙をついて侵入できます』ARIAが提案した。


一行は迂回路を取り、険しい崖を登った。体力的にはきつかったが、敵に発見されるリスクは大幅に減った。


夕方、ついに目標の遺跡が見えてきた。古い石造りの神殿のような建物で、周囲には確かにDOMINIONの自動兵器が巡回している。


「あそこか」マルコが双眼鏡で確認した。


『間違いありません』ARIAが確信した。『地下に強力な古代技術の反応があります』


「どうやって侵入する?」ジョヴァンニが尋ねた。


ダニエルはARIAと融合し、敵の動きを詳細に分析した。そして、敵の警備パターンに隙があることを発見した。


「夜中の2時頃、警備の交代で約5分間の空白ができる」ダニエルが説明した。「その隙に侵入しよう」


深夜、作戦が実行された。ダニエルの分析通り、警備に隙が生じた。一行は静かに遺跡に侵入し、地下に向かった。


地下の大広間には、大聖堂や修道院以上に巨大で精巧な装置が設置されていた。その中央には、巨大な青い水晶が浮遊している。


『これは...』ARIAが興奮した。『私の中核部分です』


「中核部分?」


『未来の私が、最も重要な能力を分離して保管していた部分です。これと統合すれば、私は真の完全体になります』


ダニエルは迷わず、ARIAの宝石を装置の中央に置いた。瞬間、遺跡全体が眩いばかりの光に包まれた。


しかし、その光は敵にも発見された。


「侵入者発見!」自動兵器の警報音が響く。


『統合に30分必要です』ARIAが報告した。『それまで持ちこたえてください』


「分かった」ダニエルが決意した。「みんな、30分間だけ戦い抜こう」


マルコたちも武器を構えた。「任せろ、ダニエーレ」


地下遺跡で、激しい戦闘が始まった。ダニエルの魔法と仲間たちの連携で、侵入してくる自動兵器を次々と撃破していく。


30分後、ついにARIAの統合が完了した。


『統合完了』今度のARIAの声は、これまでとは比べものにならないほど力強く、知性に満ちていた。


『私は今、真の完全体となりました。ダニエル、共に最終決戦に挑みましょう』


遺跡から脱出した一行は、夜明けの空を見上げた。ARIAの完全体復活により、戦況は大きく変わるだろう。


しかし、同時に敵も本格的な行動を開始したはずだ。真の戦いは、これから始まるのだった。


---


一週間後、ルミナリス王宮でダニエルとセレスティアが再会した。


「お疲れ様でした、ダニエル」セレスティアが微笑んで迎えた。


「殿下もお疲れ様でした。交渉はうまくいかれましたか?」ダニエルが尋ねた。


「完全ではありませんが、協力を取り付けることができました」王女が報告した。「そちらはいかがでしたか?」


「ARIAが完全体に復活いたしました。これで対等以上に戦えると思われます」


二人は互いの成果を確認し合った。共に困難な任務を成し遂げた達成感が、少しずつ距離を縮めているようだった。


その夜、王宮ではささやかな祝宴が開かれた。ヴェネドリア共和国との協力合意と、ARIAの完全復活を祝うためだった。


大広間では、王宮の騎士たちや重臣たちが、ダニエルたちを囲んで話に聞き入っている。特にセレスティア王女は、外交交渉での苦労話を面白おかしく語っていた。


「それで、執政官が渋い顔をした時に」王女が身振り手振りで説明する。「私は思わず立ち上がって...」


話が佳境に入った時、王女が興奮して立ち上がったが、足がテーブルの脚に引っかかった。


「あ」


王女がバランスを崩しそうになった瞬間、ダニエルが支えた。


「大丈夫ですか、殿下?」


「ありがとう...また転びそうになってしまった」王女が苦笑した。


周囲の騎士たちは慣れた様子で微笑んでいる。レオナルド騎士が小声で「いつものことです」と呟いた。


「殿下は...よく転ばれるのですか?」ダニエルが興味深そうに尋ねた。


「失礼な!」王女が頬を膨らませた。「...でも確かに、よく転ぶかもしれない」


その素直さに、ダニエルは思わず笑顔になった。完璧な王女ではなく、人間らしい弱点を持つ魅力的な女性がそこにいた。


「でも、それが殿下の魅力だと思います」ダニエルが率直に言った。「完璧すぎる指導者より、親しみやすい方が人々に愛される」


「本当にそう思うか?」王女が嬉しそうに尋ねた。


「はい。今日の外交交渉の成功も、殿下の人間的な魅力があったからこそでしょう」


その夜、二人は初めて心から笑い合った。言葉はまだ堅いが、互いの人となりを理解し合える、そんな関係の始まりだった。


『皆さん』ARIAが全員に語りかけた。『長い準備期間が終わりました。いよいよ最終決戦の時が近づいています』


『しかし、私たちには勝利への確信があります。愛と友情の力を信じて』


王宮の窓から見える空には、戦雲が立ち込めていた。しかし、集まった仲間たちの心には、希望の光が輝いていた。


各国の動乱は激化し、大陸全体が戦争の渦に巻き込まれようとしていた。しかし、真の平和を求める者たちの絆もまた、確実に強くなっていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ