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第13章:戦争の予兆

ルミナリス王宮の謁見の間は、勝利の祝宴で賑わっていた。修道院での戦闘から三日が経ち、ダニエルたちは国王から正式な感謝と褒賞を受けることになっていた。しかし、ダニエルの心は複雑だった。確かに戦術的勝利は収めたが、ヴィクターとDOMINIONは逃走している。真の平和はまだ遠い。


「ダニエル・ハートウェル殿」国王が威厳ある声で呼んだ。「貴殿の勇気と力により、我が国は未曾有の脅威から救われた」


謁見の間には、王宮の重臣や騎士団長たちが居並んでいる。その中でセレスティア王女も、いつもの親しみやすい表情ではなく、公式の場にふさわしい厳かな表情を浮かべていた。


「恐縮です、陛下」ダニエルが深々と頭を下げた。「しかし、戦いはまだ終わっておりません」


「承知している」国王が頷いた。「だからこそ、貴殿にはさらなる力を得ていただきたい」


国王は宰相に合図した。白髭の老人が前に出て、古い鍵を取り出す。


「これは王宮地下の古代遺物研究室の鍵です」宰相が説明した。「代々の王に受け継がれてきた、最も秘匿性の高い場所です」


「どのような研究を?」ダニエルが尋ねた。


「我が王家の始祖以来、この地で発見される不可思議な遺物の研究です」国王が答えた。「貴殿のお持ちの石のような、古代の神秘的な技術についての調査を続けてきました」


『ダニエル』ARIAの声が心に響いた。『興味深いですね。この地域には他にも古代技術の痕跡があるのかもしれません』


「ありがたく拝受いたします」ダニエルが鍵を受け取った。


謁見が終わると、セレスティア王女がダニエルたちを研究室に案内した。王宮の地下深くにある石造りの部屋は、外見こそ質素だったが、内部には驚くべきものが収蔵されていた。


「これは...」マルコが息を呑んだ。


部屋の棚には、青い光を放つ小さな石の欠片、精巧な金属製の装置の破片、そして現代人にしか理解できないような回路図が所狭しと並んでいる。


『信じられません』ARIAが興奮した。『これらすべて、私と同系統の技術です』


「殿下」ダニエルがセレスティアに尋ねた。「これらはいつから収集されているのですか?」


「約800年前からです」王女が答えた。「建国の祖が、この地の遺跡から発見したものが最初でした」


「800年前...」ダニエルが考え込んだ。それはトムが装置を設置した時期と一致している。


ダニエルはARIAの宝石を棚の遺物に近づけてみた。すると、いくつかの石片が共鳴するように光を放った。


『これです』ARIAが確信した。『これらは私の一部だったものです』


「どういう意味だ?」


『未来の私が過去に来た時、必要に応じて自分の一部を分離していたようです。つまり、これらを組み合わせれば...』


ARIAの宝石から青い光の糸が伸び、石片たちを包み込んだ。瞬間、部屋全体が眩いばかりの光に包まれる。


「すごい...」ジョヴァンニが感嘆した。


光が収まると、ARIAの宝石は以前より一回り大きくなっていた。そして、その光はより深く、より力強いものになっている。


『統合完了』ARIAの声も以前より明瞭になった。『私の能力が大幅に向上しました』


「どの程度まで?」ダニエルが確認した。


『推定で従来の500%です。そして...新しい能力も獲得しました』


「新しい能力?」


『時空間の監視です。広範囲にわたって、時空間の歪みや異常な技術的活動を検出できます』


セレスティア王女が興味深そうに尋ねた。「それで、敵の動きも把握できるのか?」


『はい。試してみましょう』


ARIAの光が強くなり、部屋に立体的な地図が投影された。大陸全体の地形が浮かび上がり、各地に光の点が表示される。


『これが現在の状況です』ARIAが説明した。『緑の光は平常、黄色は軽微な異常、赤は深刻な脅威を示しています』


地図を見ると、大陸の各地に黄色や赤の光点が点在している。特に北方と東方に赤い光が集中していた。


「この赤い光は...」ダニエルが指差した。


『DOMINIONの技術的活動です。複数の地点で同時に作業が行われています』


マルコが心配そうに言った。「ヴィクターは一箇所ではなく、複数の拠点を築いているということか?」


『その可能性が高いです。そして...』ARIAが警告した。『各拠点で製造されている装置のパターンから判断すると、大規模な軍事作戦の準備をしているようです』


その時、研究室の扉が開き、王宮の伝令が駆け込んできた。


「殿下!緊急の報告があります!」


「何事だ?」セレスティア王女が振り返った。


「各国から同時に戦争宣言が届きました!エルドリア帝国、ガリア王国、ノルディア諸侯連合...少なくとも六つの国が、我が国に宣戦を布告してきました!」


ダニエルの表情が険しくなった。「始まったか...」


『ダニエル』ARIAが分析した。『これは偶然ではありません。DOMINIONが各国の指導層に影響を与えた可能性があります』


「洗脳か?」


『もしくは、圧倒的な軍事技術の提供により、我が国を攻撃する利益があると判断させたのでしょう』


セレスティア王女が決然として立ち上がった。「父上に報告しなければ」


「お待ちください、殿下」ダニエルが制した。「まず、敵の戦力を正確に把握する必要があります」


『分析を続行します』ARIAが宣言した。


地図の表示がより詳細になり、各国の軍事活動が可視化された。そこには、通常の中世軍隊では考えられない規模と組織性が示されていた。


『各国の軍勢は通常の三倍から五倍の規模に膨れ上がっています』ARIAが報告した。『そして、全軍にDOMINION製の新型武器が配備されているようです』


「どのような武器だ?」


『エネルギー兵器、自動照準弩、移動要塞...中世の技術レベルを遥かに超えたものばかりです』


マルコが絶望的な表情を浮かべた。「それでは、通常の軍隊では太刀打ちできないではないか」


「いえ」ダニエルが冷静に答えた。「我々には対抗手段があります」


『そうです』ARIAが同意した。『私の新しい能力があれば、敵の技術を無効化することも可能です』


『ただし、それには条件があります』


「どのような?」


『私の力を最大限に発揮するには、より多くの協力者が必要です。一人では限界があります』


セレスティア王女が提案した。「それなら、他国にも協力を求めてはどうだろう?まだDOMINIONの影響を受けていない国があるはずだ」


『分析によると』ARIAが地図を更新した。『南方のイベリア諸国と、海洋国家のヴェネドリア共和国は、まだ中立を保っています』


「マルコの故郷だな」ダニエルがマルコを見た。


「ああ」マルコが頷いた。「ヴェネドリアなら、商業の利益を重視するから、無意味な戦争には参加しないだろう」


「では、外交使節を派遣しましょう」王女が決断した。「私が直接交渉に向かいます」


「しかし、殿下」レオナルド騎士が心配した。「戦時中の外国行きは危険すぎます」


「私も同行します」ダニエルが申し出た。「ARIAの能力があれば、安全を確保できます」


『しかし、ダニエル』ARIAが警告した。『地図を見てください。既に敵軍が国境に集結し始めています』


『我々に残された時間は、せいぜい一週間程度です』


ダニエルは戦略を考えた。一週間で同盟国を確保し、ARIAの力をさらに向上させ、来るべき大戦争に備える。困難だが、不可能ではない。


「分担しましょう」ダニエルが提案した。「セレスティア殿下にはヴェネドリア共和国との交渉を。私はARIAと共に、他の古代遺物の探索を続けます」


「それは良い考えだ」王女が同意した。


『ダニエル』ARIAが新たな情報を提供した。『南東約200キロメートルの地点で、強力な古代技術の反応を検出しました』


『そこにも、私の一部があるようです』


「では、そこを次の目標にしましょう」ダニエルが決断した。


その夜、王宮の会議室で作戦会議が開かれた。国王、王女、重臣たち、そしてダニエルたちが、来るべき戦争への対策を協議する。


「状況は厳しい」国王が重い口調で言った。「六カ国連合軍の総兵力は推定20万。我が国の軍勢は5万に過ぎない」


「しかし、陛下」ダニエルが提案した。「質で勝負することは可能です。ARIAの技術があれば、少数精鋭で大軍に対抗できます」


『その通りです』ARIAが補足した。『私の能力を兵士たちと共有することで、戦闘力を飛躍的に向上させることができます』


軍事顧問の一人が疑問を投げかけた。「しかし、それは現実的でしょうか?」


「実証してみましょう」ダニエルが立ち上がった。


彼はARIAとの融合状態になり、部屋の隅にある重い鎧を軽々と持ち上げた。そして、指先から光の刃を放ち、石の壁に精密な文字を刻んだ。


「このような力を、信頼できる兵士たちに一時的に与えることができます」ダニエルが説明した。


王宮の人々は圧倒された。この力があれば、確かに数の不利を覆せるかもしれない。


「分かった」国王が決断した。「ダニエル殿の計画に全面的に協力しよう。セレスティア、お前は明日朝一番でヴェネドリアに向かえ」


「承知いたしました、父上」王女が答えた。


会議が終わると、ダニエルは城の庭でARIAと対話していた。


「ARIA、本当に大丈夫なのか?これほど大規模な戦争に、我々だけで対抗できるのか?」


『不安になるのは当然です』ARIAが優しく答えた。『しかし、思い出してください。アレイス王とリリア王妃も、最初は一人から始まりました』


『愛と友情の力は、数の優劣を超越します。そして今、私たちには素晴らしい仲間がいます』


ダニエルは仲間たちを思い浮かべた。セレスティア王女、マルコ、ジョヴァンニ、アントニオ、フランチェスコ。そして、信頼できる国王と騎士団。


『明日から、本当の戦いが始まります』ARIAが続けた。『でも、私たちは一人ではありません』


夜空には満天の星が輝いている。嵐の前の静けさだったが、ダニエルの心には希望があった。


大陸全土を巻き込む戦争が間近に迫っていた。しかし、愛と友情の力を信じる者たちが、その嵐に立ち向かおうとしていた。


戦争の予兆は現実のものとなったが、希望の光もまた、確実に輝き始めていた。

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