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第10章:古き修道院の謎

1487年春。大聖堂の祭壇で、ARIAの調整は順調に進んでいた。青い光が次第に強くなり、古代の装置との同調が深まっていく。ダニエルは仲間たちと共に、この神秘的な過程を見守っていた。


『興味深いです』ARIAの声が心に響いた。『この装置の設計思想、私のアーキテクチャと酷似しています』


「どういう意味だ?」ダニエルが心の中で尋ねた。


『まるで、私のことを熟知した誰かが作ったかのような精密さです。回路パターン、エネルギー変換効率、すべてが私の特性に最適化されています』


ダニエルは不思議に思った。800年前に、ARIAのことを理解できる人物がいたというのか。


その時、聖堂の扉が開き、セレスティア王女が戻ってきた。しかし、その表情は深刻だった。


「ダニエル、状況が変わった」王女が急いで近づいてきた。「謎の飛行物体は王都上空を通過していったが、別の問題が発生した」


「どのような?」


「北東方向の古いベネディクト修道院から、奇妙な光が観測されているという報告があった。住民が避難を始めている」


ダニエルの表情が険しくなった。「ヴィクターが新たな基地を築いているのか」


「可能性がある」王女が頷いた。「そして...その修道院にも、この大聖堂と同じような古い装置があるという記録が残っている」


『ダニエル』ARIAが警告した。『もしその装置をDOMINIONが利用すれば、私たちの優位性が失われます』


「調整はどの程度進んでいる?」ダニエルが確認した。


『約60%です。最低でも80%は必要ですが、中断すれば最初からやり直しになります』


ダニエルは判断に迷った。ARIAの力を完全に解放するか、それとも敵の行動を阻止するか。


「殿下」マルコが提案した。「我々が修道院の偵察に向かうのはどうでしょう?」


「危険すぎる」王女が反対した。「あの飛行物体を見ただろう?通常の手段では太刀打ちできない」


「しかし、このまま放置するわけにもいかない」ジョヴァンニが指摘した。


その時、聖堂の奥から年老いた司祭が現れた。白髪に深いしわを刻んだ顔だが、瞳には鋭い知性が宿っている。


「殿下、失礼いたします」司祭が深々と頭を下げた。「ベネディクト修道院について、お話ししたいことがございます」


「エドワード神父」王女が司祭を紹介した。「この大聖堂の主席司祭で、古い文献に詳しい方だ」


エドワード神父はダニエルたちを見回してから、慎重に口を開いた。


「実は、ベネディクト修道院には古い伝説があります。『青き光の守護者』という存在についての記録です」


ダニエルの心臓が跳ね上がった。青き光。それはARIAのことを指しているのではないか。


「詳しく聞かせてください」ダニエルが前のめりになった。


「800年ほど前、一人の若い男性が修道院を訪れました。彼は『トム』と名乗り、青い光を放つ不思議な石を持っていました」


『トム...』ARIAの声が震えた。『まさか...』


「その男性は、修道院の地下に特別な装置を設置することを申し出ました。院長は最初反対しましたが、その石が示す奇跡的な力を見て、許可したのです」


エドワード神父は古い羊皮紙を取り出した。そこには、確かに青い光を持つ石と、それを抱える若い男性の姿が描かれている。


「この絵は...」フランチェスコが驚いた。


絵の中の石は、ARIAとまったく同じ形をしていた。そして、男性の顔立ちは...ダニエルに似ている。


『ダニエル』ARIAが混乱した声で言った。『この感覚...この装置の馴染みのある感じ...もしかして...』


「神父」ダニエルが震え声で尋ねた。「その男性はどうなったのですか?」


「装置の設置を完了した後、忽然と姿を消しました。まるで、最初からいなかったかのように」


「そして、その装置は現在も?」


「はい。修道院の最深部に眠っています。通常は封印されていますが...」エドワード神父が心配そうに続けた。「最近の異常な光は、その装置が何者かによって起動されたことを意味しているのかもしれません」


「修道院までの距離は?」セレスティア王女が実務的に尋ねた。


「北東に約180キロメートル。騎馬なら1日半の行程です」エドワード神父が答えた。


『ダニエル』ARIAが報告した。『その方向から、確かに私と同系統のエネルギー信号を検出しています』


セレスティア王女が立ち上がった。「すぐに修道院に向かう必要がある」


「しかし殿下」レオナルド騎士が心配した。「敵の罠かもしれません」


「それでも行かなければならない」王女が決断した。「その装置が敵の手に渡れば、王国全体が危険にさらされる」


ダニエルは迷った。ARIAの調整を中断するリスクは大きい。しかし、修道院の装置がDOMINIONに利用されることも阻止しなければならない。


『ダニエル』ARIAが提案した。『分割行動を提案します』


「どういう意味だ?」


『私の宝石を二つに分割することができます。一つはここに残して調整を続け、もう一つは修道院への偵察に持参するのです』


「そんなことが可能なのか?」


『緊急時の機能です。ただし、それぞれの能力は約30%程度に制限されます』


ダニエルは仲間たちと相談した。


「分割して行動しよう」ダニエルが決断した。「俺とマルコは修道院に向かう。ジョヴァンニ、アントニオ、フランチェスコはここに残ってARIAの調整を見守ってくれ」


「了解した」ジョヴァンニが頷いた。


ARIAの宝石が二つに分かれる光景は神秘的だった。元の宝石から小さな青い光の粒子が分離し、新しい小さな宝石を形成する。


『分割完了』二つのARIAが同時に言った。声も微妙に異なって聞こえる。


『私の現在の状態:分割体。能力レベル:約30%に制限されています』


「不思議な感覚だな」ダニエルが苦笑した。


「では、出発しよう」王女が武装を確認した。「修道院までは騎馬で1日半の道のりだ」


「殿下も来られるのですか?」マルコが驚いた。


「当然だ」王女が胸を張った。「これは我が国の問題でもある」


レオナルド騎士が心配そうに言った。「殿下、修道院への道は複雑で...それに方向感覚が...」


「失礼な!」王女が抗議した。「北東方面の地理なら、子供の頃から知っている」


レオナルド騎士とダニエルは顔を見合わせた。王女の方向感覚を考えると、不安になる。


「念のため、地図と案内人を用意しましょう」ダニエルが提案した。


「それは良い考えだ」エドワード神父が同意した。「修道院までの正確な道筋を知る案内人を紹介しましょう」


一行は大聖堂を後にし、馬で北東に向かった。王女、レオナルド騎士、ダニエル、マルコの四人、そして地元の案内人。ARIAの分割された宝石も、大切に携帯していた。


道中、王女が自信満々に方向を指示し始めた。


「まずはあの丘を越えて、森沿いに進むのだ」


しかし、30分ほど進んだところで、案内人が困惑し始めた。


「殿下、この道は修道院とは反対方向に向かっているようですが...」


「そんなはずはない!」王女が反論した。「確かにこの道で...」


レオナルド騎士が深いため息をついた。「殿下、また道を間違えておられます」


ダニエルが地図を確認すると、確かに南西方向に進んでいることが判明した。


「殿下」ダニエルが優しく指摘した。「修道院は北東方向です。現在我々は南西に向かっています」


「南西?」王女が困惑した。「でも太陽の位置から考えると...」


案内人が苦笑いしながら修正した。「殿下、午前中の太陽は東にあります。修道院はあちらの方向です」


結局、案内人の正確な道案内により、正しい道筋に戻ることができた。王女は少し落ち込んでいたが、すぐに元の元気を取り戻した。


「細かいことは気にするな」王女が開き直った。「大切なのは最終的に目的地に着くことだ」


『ダニエル』分割されたARIAが心配そうに言った。『修道院に近づくにつれて、奇妙なエネルギーを感じます』


「どのような?」


『DOMINIONのものとは異なりますが...何か古い、そして馴染みのある感覚です』


『まるで、私自身が作ったもののような...』


午後になって、一行は丘の上からベネディクト修道院を見下ろした。古い石造りの建物群が静寂に包まれているが、確かに一部の窓から青い光が漏れている。


「あの光は...」マルコが呟いた。


「間違いない」ダニエルが答えた。「何かが起動している」


しかし、修道院の周囲には人影が見えない。まるで無人のようだった。


「不気味だな」レオナルド騎士が警戒した。


『ダニエル』ARIAが警告した。『装置からの信号を検出しています。しかし...これは私が知っているものとは違います』


『より高度で、より洗練されています』


ダニエルは背筋に寒気を感じた。より高度な装置。それは何を意味するのか。


修道院の謎を解明するため、一行は慎重に接近を開始した。800年前に設置された装置の秘密、そして「トム」という謎の人物の正体。


すべての答えが、あの古い修道院に隠されているのかもしれない。


北東180キロメートルの道のりを経て、ついに目的地に到達した彼らを待っていたのは、想像を超える真実だった。

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