表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

第1章:新たなる旅立ち

2066年、1月。東京の郊外にある時空間研究所の地下実験室では、青白い光が規則正しく明滅していた。ダニエル・ハートウェルは、一年間の歳月をかけて完成させた装置の前に立ち、深い感慨にふけっていた。


「ついに完成したか...」


巨大な金属製のリングが床から天井まで聳え立ち、その周囲には無数の電子機器とケーブルが配置されている。時空間転移装置。古代で得た知識と現代の最新技術を融合させた、人類史上最も複雑な機械だった。


ダニエルは装置の制御パネルに向かい、最終的な調整を行った。数値が安定していることを確認すると、壁に飾られた肖像画に目を向けた。古代のアルカディア王国で宮廷画家が描いた絵画。アレイス、リリア、マイケル、そして彼自身が描かれている。ARIAの青い光も、絵の中で美しく表現されていた。


「アレイス、リリア、マイケル...君たちが築いた平和を守るために、私は再び戦いに向かう」


過去一年間、ダニエルは古文書や歴史資料の研究に没頭していた。ヴィクター・クロウの中世ヨーロッパでの活動は、想像以上に広範囲で組織的だった。


研究室の大型スクリーンには、これまでに収集したデータが表示されている。


『1487年:北方のルミナール王国、ヴィクトール・クロウが突然現れる』

『1488年:革新的な攻城兵器でセルヴェイン要塞攻囲戦の戦況を一変』

『1489年:エルドリア帝国で軍事顧問に就任』

『1490年:新型火薬と大砲の技術を各国に広める』

『1491年:政治的混乱を利用し、影響力を拡大』


「同じパターンだ」ダニエルが呟いた。「効率と技術で混乱を作り出し、その中で支配権を握ろうとしている」


ダニエルは転移年代の設定を慎重に検討していた。1487年にヴィクターが現れるなら、その直前に飛ぶのは愚策だろう。敵が既に基盤を築いた後では、完全に後手に回ってしまう。


「1484年...これなら3年の準備期間を確保できる」


古代での経験が、ダニエルに慎重さの重要性を教えていた。急いで行動して失敗するリスクを避け、十分な時間をかけて情報収集と基盤構築を行う。それが勝利への最善の道だった。


さらに詳しい調査により、ヴィクターがDOMINIONと呼ばれる「助言者」と共に行動していることも判明していた。中世の人々にとって、DOMINIONは超人的な知恵を持つ謎めいた存在として恐れられていた。


「今度こそ、完全に阻止してみせる」


ダニエルは転移に必要な装備を確認した。中世の服装、当時の通貨、そして最も重要な現代の小型機器。量子エネルギー検知器、小型分析装置、記録用デバイス。すべて中世の人々には理解できない技術だが、ヴィクターとDOMINIONの痕跡を追跡し、ARIAを探すためには必要不可欠だった。


「3年あれば、必要な人脈も築けるはずだ」ダニエルは計画を整理した。「商人として身分を確立し、各地の情報網にアクセスする。そして、ARIAの手がかりを探す」


古代での経験により、ダニエルは異世界での生活術を身につけていた。言語の習得、現地文化への適応、信頼関係の構築。これらのスキルは、中世ヨーロッパでも活用できるはずだった。


準備を終えたダニエルは、装置の起動シークエンスを開始した。


「転移先設定:1484年、ヨーロッパ中央部」

「エネルギー充填:95%...98%...100%」

「空間歪曲フィールド:安定」


装置から発せられるエネルギーが次第に強くなり、空気が振動し始めた。研究室全体が青い光に包まれていく。


ダニエルは最後に、机の上に置かれた一通の手紙を見た。それは息子のトムに宛てたものだった。


『トムへ。父として十分なことができなくて申し訳ない。しかし、私には果たすべき使命がある。この戦いは、君たちの未来のためでもある。いつか理解してくれる日が来ることを願っている。愛している。父より』


手紙を机に残し、ダニエルは転移装置の中央に立った。


「システム最終確認。転移開始まで30秒」


機械音声が響く中、ダニエルは戦略を再確認した。3年間の準備期間。情報収集、人脈構築、そしてARIAの探索。今度は十分な時間をかけて、確実にヴィクターを阻止する。


「15秒」


古代での経験が、ダニエルに自信を与えていた。AIとの協力、異世界での生き抜き方。すべてを学んだ今、一人でも戦い抜けるはずだ。


「5...4...3...2...1...転移開始」


巨大なエネルギーが解放され、ダニエルの周囲の空間が歪み始めた。重力が消失し、時間の感覚が曖昧になる。意識が薄れていく中、ダニエルは古代の仲間たちの顔を思い浮かべていた。


光が最大になった瞬間、研究室からダニエルの姿は消えた。


時空間の渦の中で、ダニエルは過去へと旅立った。1484年のヨーロッパ。ヴィクター・クロウが現れる3年前の世界へ。十分な準備時間を確保し、今度こそ完全勝利を目指すために。


そして、ARIAとの再会が待つかもしれない時代へ。


---


東京の研究所では、転移装置が静かに停止した。制御パネルには「転移完了」の文字が表示されている。しかし、もはやそれを確認する者はいない。


机の上の手紙だけが、ダニエル・ハートウェルという男がここにいたことを静かに証明していた。


1484年のヨーロッパで、新たな戦いの準備が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ