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お縄につきますか、親子になりますか。

「……し、しりましぇん……」


 ごまかしながら私は滝のように出る汗を抑えられない。

 うさんくさいおじさんもとい、うさんくさいクリフォードさんは、私をミルシェットと呼んだ。

 本名だ。

 適当に呼ばれていたミミ太郎でもなく、ミミでもなく。


「ふふ、私さっき聞いていましたよ? あなたがマフィアに密造の話をゲロっていたのを」

「ぴえええ……」


 これはまずい相手だ。

 嘘偽りでごまかせる相手じゃない。


「わかりました……白状いたしましゅ……。が、たしかに、密造ポーション作ってまちた」

「それを知っているのは?」

「ビッグボスと一部のブラザーだけでしゅ。そもそも、本当の事を知っても、誰も信じないでしゅ」

「ふふ、私は信じてさしあげますよミルシェットさん」

「いやな信頼でしゅう」

「作り方は、どうやって知ったのですか?」

「……いきるために、みつけたんでしゅ」


 私はきゅっと、シュミーズを握りしめる。

 こういう手の人は、嘘を言えばすぐにばれる。

 だから私は本当の事を語ることにした。転生知識であること以外の全てを。


「私は娼館に捨てられた子どもでしゅ。ミルシェットという名前と、ちょっとお勉強ができることいがい、にゃにもないでしゅ。ママたちもビッグボスも優しかったけど、あやしーところに売り飛ばされそうになったことがあって……」

「売り飛ばされないために、必死に考えて見つけたと? 密造ポーションの作り方を?」


 彼の言葉に、私はこくんと頷く。


「捨てられない方法を考えて……ポーションを作れれば、捨てられずに済むって思ったんでしゅ」

「つまり、密造ポーションはあなたが生きるために編み出した知恵の結晶である、ということですね?」

「ひゃい」


 こくこくと、私は頷く。

 彼はふう、……と溜息をつき、そして肩をすくめて笑った。


「わかりました。あなたの話を信じましょう」

「ほんとでしゅか……!」

「ええ。まともな教育も受けていない捨て子のあなたが、5歳児とは思えないとんでもない知能と判断力、行動力を有しているとよぉくわかりました。確かにあなたが密造ポーションを作ったのでしょうね? ふうん、……なるほど」


 彼の瞳がギラッと光る。


「み、……みー」


 やばい。これは、対応失敗したかもしれない。

 だらだらと汗を流す私の前で、うさんくさいクリフォードさんは長い黒髪をくるくるしながらひとりごとのように言う。


「私も無職とはいえ善良なる王国民。ここであなたを警邏騎士に突き出すのが妥当な判断ではあります」

「ぴえっ」

「賢いあなたならご存じでしょうが、魔術師以外のポーション密造は最低でも懲役10年」

「にゃっ」

「その上、あなたの場合ビッグボスの資金源となり、マフィアの幹部に名を連ねていた」

「に"ゃ"」

「さらにあなたがビッグボスの懐を潤したことで大抗争に繋がったのですから、大抗争の元凶の一端を担っていると言っても過言ではない」

「か、か"ごん"で"じゅ”う”う”……!!!」

「うーん、情状酌量されてよくて、最果ての水牢で終身刑といったところでしょうかね――」

「に"ゃ”ーーーーーっ”!!!!!」


 カリカリカリカリカリカリ!

 私はドアをかきむしる。

 外に人がいるなんて構ってられない! 逃げる!今すぐ逃げる!


「まあまあ。あまり傷をつけると傷跡からあなたの足がつきますよ」

「ぴゃっ」


 クリフォードさんは私の両脇に手を入れてひょいと抱きかかえ、向かいのソファに座らせ直す。


「びえ……」

「まあまあ。今すぐ突き出すとも言っておりませんよ。まあ落ち着いて話を聞いてください」


 がたがたと震える私の手を取り、クリフォードさんは今度は優しく目の高さを合わせる。

 そしてとんでもないことを、提案してきたのだ。


「……私の養女になりませんか」

「え?」

「娘です。私がパパで、あなたが愛娘。そういう設定で、時効まで潜伏しませんか?」

「にゃ、にゃにを言ってるんでしゅか……?」

「いえね。さっき言いましたが私、宮廷魔術師を辞めてきたばっかりなんですよ」


 クリフォードさんは肩をすくめ、身の上話をする。


「10代の頃から宮廷魔術師として超天才的にマーベラスな活躍をしてきたのですが、公僕として歯車やり続けるのにいーかげん飽き飽きしまして。だって宮廷魔術師なんてつまんないですよ? 毎日毎日、来る日も来る日も社交界に王侯貴族へのおべっかと冠婚葬祭のイリュージョニスト役ばっかりで。魔術学園の生徒はやる気の無い貴族子息ばっかりで後輩育成もつまらないですし、きらきらした目の子がやってきたと思いきや、結婚しましょう子作りしましょう籍を入れましょうって、なんなんですか私がいくら見目麗しい天才だとしても、種馬扱いばっかりされてしまえばヒヒーンですよもう、ヒヒーン」

「その言葉をそのまま垂れ流せばみんな消えてくんじゃないんでしゅか」

「さすがに社会性フィルター搭載したいい年のお兄さんなので、それは難しいですね」

「……で、なんでそんなおじ……お兄さんが私を養女にしたいんでしゅか」

「おっと話がずれてしまいましたね。その件ですが」


 クリフォードさんはずれた眼鏡をかけ直し、改めて私を見る。


「私は仕事を辞めて、これから第二の人生を送りたいと考えています。けれど問題がありましてね。独身男一人でのこのこと田舎に行くと、結構面倒なんですよ。身辺調査というか、色々ね。そこで養女です。どうです、悪い提案じゃないでしょう?」


 クリフォードさんは手を柔らかく握ってくる。

 振り払おうと思えば、幼女でも簡単にふりほどけるほどの強さで。

 ――けれど、私はとても振り払えなかった。


「馬車の中で長話もなんです。落ち着いて話せる場所に行きましょうか」


 ここまで身元と能力を見抜いてきたこの男から、逃げられるとはとても思えなかったのだ。



 私はそのまま、クリフォードさんにホテルに連行された。

 馬車の中でびえびえとわめいていた私も、ホテルに着いたら借りてきた猫の顔でおとなしくした。

 ここで不審に思われたらたまったものではない。

 ホテルは貴族やお金持ちの商人の人が泊まるような、ルームサービスや広いベッドがあるすごいホテルだった。


 私は部屋に入るなり、ルームサービスのお姉さんに、わしゃわしゃとお風呂で丹念に洗われた。


「あらおかわいらしい」

「汚れかとおもったら、みけちゃんなのね」


 髪を乾かしてもらって新品のお洋服で身なりを整え、姿見の前に立つ。

 みけねこ色の髪と耳としっぽ、緑の瞳に合わせたふわふわのワンピースは甘いミント色。

 襟や靴下、フリルは真っ白で、あちこちを飾るピンクのリボンの色で、いい感じに全体の調和がとられている。


「美少女でしゅ……」


 鏡を見て呟く。

 久しぶりに見た、きちんと飾り立てられた自分はやっぱり可愛い。

 生育環境最悪だったけど、よくしてもらっていた日々を思い出し、つい目が潤んでしまう。


「えーん……ママたちも元気で生きててくだしゃいね……」


 リビングルームまでぽてぽて行くと、クリフォードさんがソファに座って新聞を読んでいた。

 長い足を組んで、長い髪を肩にかけて、とってもダンディで綺麗なおじ……お兄さんだ。

 これが乙女ゲーの世界だったら確実に攻略対象だった。

 でもここはクリエイト系ゲームの世界で、その上私は幼女だ。はんざいれしゅ(戒め)。


「おふろ……ありがとうございましゅ」

「綺麗になりましたね、よかった」


 私を見て、クリフォードさんが目元を柔らかくした。


「お腹すいてますでしょう。まずは食事にしましょう」

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