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【受賞&11月10日発売】転生のらねこ薬師さんのひみつのレシピ ~天才パパとしあわせカフェ、開店にゃ!~  作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第五章・はにーとーすと、みんなでわけあうみわくのあじ

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ビッグボスあらため、シスター・スターゲイザー視点

 ――ネモリカの冒険者酒場にて。

 カウンターに座って安酒を傾けるシスター・スターゲイザーに話しかける者はいない。

 彼女がここに訪れた当初、迫力ある美貌に惹かれて誰もが声をかけたものの、ネモリカのダンジョン荒らしとも呼ばれる実力を見せて以降、なんとなく遠巻きにされていた。


 そこに、店で最も高い蒸留酒を出されてシスター・スターゲイザーは驚く。

 隣を見ると、黒髪の胡散臭いひょろりとした男が座っていた。

 シスター・スターゲイザーはしどけない雰囲気を消し、苦虫顔で舌打ちする。


「何の用事だ、てめえ」

「娘の元の保護者の方に、ご挨拶に来ただけですよ。改めまして、クリフォードと申します」


 見かけない人間がいるというのに、酒場のごろつきどもはクリフォードを見ようともしない。

 『嵐』と名乗った小僧が宮廷魔術師だった。

 その小僧が敬意を払うような魔術師という時点で、相当の使い手なのはわかっていたが。

 おそらくこの男は元宮廷魔術師。外見年齢と能力から察するに。


「……お前、『凪』か」

「あ、わかります? よかったー、最近世代が違う子にはわかってもらえないことがありまして、いやあ、平和な時代が来るのはいいものですが、だんだん中年である事実から逃れられなくなり……まだアラサーだからお兄さんって言って貰ってもいいですよね? シスター・スターゲイザーはどう思います?」

「うっざ、好きにしろよ」


 酒に口をつけないまま、シスター・スターゲイザーは吐き捨てる。

 クリフォードは遠い目をして、バーカウンターのライトに目を向ける。


「私たちの時代は本当に苦労しましたよね。『大竜厄役』の影響で、みな生きるために必死でした。あなたも搾取される側か、する側かの弱肉強食の世界で、ご苦労されてきたことでしょう」

「『凪』なら苦労も何もなく、全部ぶっとばして悠々自適だっただろうけどなあ?」


 皮肉を込めてシスター・スターゲイザーは口にする。

 だがクリフォードは、二つ名の通りの『凪』の顔で、その言葉を軽く受け流す。


「私は全ての騒乱を『凪』にするべく働きました。そして今は喜ばしい『凪』の平和が訪れている。……ミルシェットさんには穏やかな生活を送ってもらい、才能をまっとうな方向に伸ばしてさしあげたいと思っています」

「だぁから俺はもう邪魔しねえつっただろ。釘を刺しに来たんだとしたらご苦労様だ。今はシスター・スターゲイザーとしてダンジョンで金儲けして生きるしかねえって分かってるよ」

「ミルシェットさんが、後悔しているんです」


 シスター・スターゲイザーは目を瞬かせ、クリフォードを見る。

 クリフォードは頷いた。


「あの子は優しい子です。過去のあなたのような人相手でも、きちんと育てて貰ったお礼をしたいようです。あの子が書いた招待状、受け取っていただけますか」


 バーカウンターに差し出されたのは、場に不釣り合いな子どもの手紙。


『 びっぐぼす(ロビン・スターゲイザーさま、またはシスター・スターゲイザーさま)へ

  あたらしいじんせいのきねんとして、しょくじかいにごしょうたいします。

  きてください

                     みるしぇっと』


「ミミ太郎……」

「あの子に少しでも情があったのなら、どうか来てください。美味しいハニートーストをわけっこして食べたいそうです」

「…………だが、俺は……」

「元の共犯者でしょう? お二人は」


 クリフォードは用が済んだとばかりに立ち上がる。

 魔力の光が体を淡く輝かせている。無詠唱で転移できるなど、まさに『凪』だ。


「それでは。酒には何も入っていませんので、安心してお吞みください。あなたにとっての門出を祝えることを、楽しみにしています」


 最後は声だけ残して、クリフォードは消えていった。


「……なんだよ……」


 シスター・スターゲイザーは呆然としたのち、バーカウンターに置かれたままのグラスに目を向ける。

 隣には、小さな猫のかたちのクッキーが添えられていた。


「…………あの猫め……」


 『凪』も『嵐』も、シスター・スターゲイザーをまったく脅威と思っていないのだ。

 平気で食事会などに呼ぼうとするなんて。


 ――ここでゴロツキを集めて襲撃するかもしれないのに。

 ――弱みで揺すってくるかもしれないのに。


 彼らはシスター・スターゲイザーを舐めている。

 そして同時に、信じようとしてくれている――ミルシェットの、元保護者として。


「くそが……!」


 こういうとき、どんな顔をすればいいのかわからない。

 暴力も打算もない、温かな許しを得た事なんてないから、わからない。

 それでもシスター・スターゲイザーはクッキーを割ることも、食べることすらできなかった。

 美酒を喉の奥に強引に流し込み、行きつけの宿屋までの帰路についた。


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転生のらねこ薬師さんのひみつのレシピ ~天才パパとしあわせカフェ、開店にゃ!~ 表紙
転生のらねこ薬師さんのひみつのレシピ ~天才パパとしあわせカフェ、開店にゃ!~ 表紙

新刊が出ます!

作品情報

転生のらねこ薬師さんのひみつのレシピ ~天才パパとしあわせカフェ、開店にゃ!~
著者:まえばる蒔乃
イラスト:п猫R

発売情報

発売日:2025年11月10日(日)
出版社:ドリコムメディア
レーベル:DREノベルス
定価:1,540円(本体1,400円+税)

ISBN:978-4-434-36578-2


社畜生活の末に命を落とし、プレイしていたゲーム世界の猫耳種族として転生したミルシェット。天才だけれど胡散臭い元宮廷魔術師のクリフォードに救われ、偽装親子として田舎町でカフェを経営して暮らすことに。転生知識とポーションの力でお悩み解決!幸せあふれるカフェストーリーです!


新作をお届けできることを嬉しく思います。

ぜひ書店や電子書籍ストアでチェックしてみてくださいね!

発売日:2025年11月10日(日)
みなさまどうぞよろしくお願いいたします!


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