その頃のビッグボス3
ビッグボスこと、ロビン・スターゲイザーの元にやってきた幼い魔術師。
あの少年が探している男の足取りは、ビッグボスの情報網ですぐに判明した。
貴族然とした男、しかも長髪の男がうろうろしていれば、どんなに足取りを消したとしても覚えがあるヤツはいる。スラムの子どもから変態聖職者までがビッグボスの耳であり目であった。
幼い魔術師は情報を得るなり、ビッグボスにピアスを渡した。
赤いぎらぎらとした魔石が輝くピアスを手のひらにのせられ、ひゅっと喉が鳴る。
国家予算レベルの金を差し出しても手に入らない、古代魔術のピアスだった。
「あなたにこれをやろう、ロビン・スターゲイザー。換金もできなければ僕が使えばすぐにバレる。持て余していた宝だが、今のあなたには必要なものだと思う」
「裏で売り飛ばして金にしろって意味か?」
「違う」
幼い魔術師は、年に似つかわしくない薄ら笑いを浮かべる。
「追っ手を撒きたいのだろう? それをつければ、ロビン・スターゲイザーは追っ手を撒ける。堂々と表を歩けるし、たとえ親兄弟に会おうが、お前がお前だと気付かないだろう」
「一度つけたら外せない、呪いのアイテムじゃねえだろうな?」
「取れるさ、安心しろ。疑うなら売ればいい。ただそれだけだ」
そう言って、幼い魔術師は姿を消した。
闇カジノで稼いだ金は全て持ち帰らず、忽然と消えたので結局だれも彼を追わなかった。
一人になり、ロビンは手のひらの中の小さなピアスを見つめた。
魔力に反応して色が変わるブレスレットをしているが、見事にブレスレットは黒く濁っている。まがまがしいまでの魔力が備わったピアスであることには間違いない。
それからしばらく、ロビンはピアスをどう使うか悩んだ。
しかし突然闇カジノが警邏隊に摘発され、ロビンの居場所は失われることになった。
――闇カジノとしてバレたのではなく、闇の全裸パーティ会場だと思われていたのが不思議だったが。どうやらどこかで警邏騎士に捕まった幹部の一部が誤解を生んでいるようだった。
居場所を失い、闇カジノの元締めだった知人には絶縁され、ロビンは絶対絶命だった。
このまま一介のチンピラに落ちぶれるには、もはやロビンの顔は裏社会に知られすぎていた。
雨の路地裏、ロビンはついに覚悟を決める。
「一か八か、ピアスに頼ってみるか……!」
ロビンは耳につけていた毒々しい竜のピアスを外し、ピアスホールにピアスをぶち込む。
つぎの瞬間、耳からかっと体が燃えた。燃えたと錯覚するほどの熱が、ロビンを包んだ。
「ぎゃあああああああああ……っ!!」
雨の路地裏、ロビンは絶叫して倒れた。
雷に打ち消され、その絶叫は誰にも聞かれない。ロビンの体からは煙がしゅうしゅうと湧き上がる。
――倒れたロビンの体は、纏っていた大きなロングコートの中で、消えた。




