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かわいーものだいすきファルカお姉さん

 身長はクリフォードさんほどではないけど170センチは優に超える高さ。

 シャツから覗く健康的なナイスバディは、ひょろひょろっとしたクリフォードさんより強そうにすら見える。おっきな胸の下でぎゅっとシャツを縛って、健康的に引き締まったおへそを出して、男物のワークパンツをだぼっとはいて腰でぎゅっとベルトを締めている。

 オシャレにまとめた髪や細い首や腰、おへその少し下にあるほくろが健康的に色っぽくて素敵だ。

 文系って感じのメガネっ子イーグルさんとは対照的に、すごく体育会系でしゅ。


「旦那にお嬢さん、はじめまして。港まで商談に行ってたもんで、挨拶が遅れてすまないね」

「クリフォードです。わざわざお越しいただき恐縮です」

「はじめまちて、ミルシェットでしゅ」

「ああ。今後ともよろしくな!」


 ファルカさんは肩に小麦粉の袋を担いだまま白い歯を見せて笑う。


「ところで力持ちでしゅね……」

「ああ。こう見えても商会の主として男どもとやり合ってるもんでね、元気だけは負けないよ」


 むきっ! 漲る上腕二頭筋。逞しい。強い女性って感じでしゅ。

 そんなファルカさんは私をじーっと見て、ぽっと頬を染めて呟く。


「かわいいね…………」

「えっ」

「あ、ああごめん。あたし可愛いものがだいすきでさ。ミルシェットちゃんほんとにかわいいね」

「ありがとうございましゅ」


 ファルカさんの隣で、イーグルさんが呆れた顔で言う。


「姉さん、美人なんだし好きなら、自分でも女らしいの着りゃあいいのに」

「だぁからいつも言ってるだろ? 可愛いが好きなのと、可愛いになりたいのは別の衝動なのさ。あたしは可愛いものを守れるくらい強くありたいの。可愛いのは愛おしいからね」

「はいはい」

「さっ、仕事するよっ!」


 ぱちんと叩いて気合いを入れて、二人は仕入れたものを、裏口からどんどん入れてくれる。


「次割れ物だよっ」

「っす!」

「次、果物だから注意な!」

「っす!」

「あと三つ、入る?」

「っす!」


 働く二人の様子は姉弟というよりも、先輩と後輩のようなキビキビとした様子に見えた。

 搬入が終わったところで、汗を拭く二人にクリフォードさんが声をかけた。

 ちょうどお客様が捌けたタイミングだ。


「お疲れ様でした。よかったらアイスコーヒーをのまれませんか?」

「いいのかい? 氷は貴重品だろうに」

「ご遠慮なさらずに。お二人が暑さに参ってしまわれてはいけませんからね」


 クリフォードさんはカウンターの中で、こっそり後ろ手に魔法で氷を出している。

 こういう経費がかからない部分が多いのだ、この店は。調味料も――だし。


 席に案内すると、ファルカさんは頬を染めてあちこちを見る。


「ありがとう。……あっ、かわいいテーブルだ。レースのカーテンもかわいい。いいねえ、かわいいねえ、人形遊びのおうちみたいだ。かわいいねえ」

「姉さん、あちこち見過ぎ」

「そ、そう言われても、可愛いんだから」

「もー」

 

 そんなやりとりをしている二人の元に、てちてちと私はお給仕に行く。


「おしぼりとおひやでしゅ」

「かわいいがかわいい空間でかわいいあんよでかわいいおみずを持ってきた……かわいいね」

「みー」

「姉さん姉さん、不審者っす。出禁になるっす」


 続いて、私はクリフォードさんが入れたコーヒーを持って行く。

 ドリップ後に魔術の氷でひえひえにしていたアイスコーヒー。

 ねこちゃん型の小さな小瓶に、シロップとミルクを入れて添えている。

 その横には小皿に朝焼きたての猫ちゃんクッキーを添えて。


「おまたしぇしました! アイスコーヒーと、おまけのくっきーでしゅ!」

「かわいい……」

「姉さん、ちょっと目が危ない、危ないから」

「えへへ、たくさん褒めてもらえて嬉しいでしゅ」


 せっかくだ。

 私はファルカさんににぱーっと笑顔の愛嬌を振りまく。


「う"!!!!!!!!」


 ファルカさんがぐっと胸を押さえて硬直する。そして震える手を伸ばしてきた。


「も、もうたまんない……あ、あの……撫でても……」

「姉さん! だめっすよ! セクハラ出禁っすよ!」

「お姉さんならいいでしゅよ。ラメル商会にお世話になってるお礼でしゅ」


 三毛のお耳をぺとーっと寝かせて頭を差し出すと、ファルカさんが手をごしごしと拭いた上でおそるおそる撫でてきた。


「みー」

「あ"……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"……っ!!!!!!」

「ねーさん! キュートアグレションが出かけてる! でかけてるっす!」

「ありがとう……あ、あたしの右手が暴れる前に……逃げてくれ……っ!」

「ぴえっ! で、ではごゆっくり! でしゅー」


 右手を左手で押さえながらふうふうと肩で息をするファルカさんと、それを押しとどめるイーグルさん

 たいへんだにゃあ、なんて思いながら離れると、ファルカさんは冷静さを取り戻した。


「ふう……ねこちゃんは禁断症状がでる……ねこも可愛いしちったいおんなのこもかわいいし、おようふくふりふりもかわいいし、一生懸命がんばってるのかわいいよう……あたしもがんばる……」

「姉さん、コーヒー飲むっすよ、ほら」


 そして、興奮が一段落した二人はアイスコーヒーを口にして、おいしそうに目を輝かせる。


「おいしいっすね! 苦すぎねえっす!」

「ああ。冷えるねえ、……染み渡る……」

「癒やされるっすよね、なんか……世間の喧噪を忘れるっつーか……」


 いつしか、二人は静かに空間を味わってくれていた。

 窓の外は快晴で綺麗。

 ゆっくりと落ち着く二人はまさに、社会人という戦士の休息といった感じだ。

 こういうのっていいなあ……とおもいつつチラとクリフォードさんを見る。

 クリフォードさんはドリッパーを洗いながら、私を見て目で頷いた。同じ事を考えている。



「ごちそうさま。お客さんにもてなして貰って、悪いね」

「お互い様ではありませんか。また是非プライベートでもお越しください」

「ああ、実は一緒に来たい人がいるんだ」


 ファルカさんは頬を染めたままもごもごとする。


「もう、姉さん、僕が言うっすよ?」

「あ、あたしが言うってば。せかさないでくれよ」


 そうしてファルカさんはためらいがちに言った。


「あたし、実はもうすぐ結婚するんだ。幼なじみの男でさ、アントニー・オウマって言うの」

「おや。それはおめでとうございます」

「あいつ今、王都で騎士団に入っててさ。今度長期休暇取ったから帰ってくるんだ。だから一緒にそのさ、で、デートに来たいなっておもって」


 はにかんで花がほころぶように微笑むファルカさん。


「へへ……あいつも可愛いやつなんだあ……」

「おしゅきなんですね」

「ああ、大好きさ」


 先ほどまでの豪胆なムードもかっこよかったけれど、本当に彼が好きなんだなと分かる笑顔だった。


「あいつも騎士団で揉まれて疲れてるだろうし、こっちにいるときくらいゆっくりしてほしくてさ。明日午後に来ると思うから、その時はよろしく頼むよ」

「それはそれは。私もミルシェットも楽しみにお待ちしております」

「デート楽しみでしゅね!」


 にこっと笑うファルカさん。

 私は二人を見送った後に考えた。

 せっかくだから特別なものを、ファルカさんのデートにお出ししてあげたいなって。



「とゆーわけで、やるでしゅ」


 ――夕方。

 そして翌日のために、私はちょっと作ってみたかったクッキーを作ってみることにした。

 四角く折り紙のように切ったクッキー生地を、生焼けくらいの固さまで焼く。

 そしてあらかじめ魔石ポーションで色をつけておいた、付箋サイズのおみくじをそっと中に入れる。


「あっ結構ぺたぺたして入れにくいでしゅ」

「……あっあっ、固くてぺきぺきでしゅ」

「おみくじ落ちたにゃーっ」


 なんとか包み終わり、ぺたっと▽に折って封をして、更に開かないようにくの字に折り曲げる。

 すぐにまたオーブンで焼くと、フォーチュンクッキー試作一が完成だ!


「うん、失敗にゃ!」


 焼き加減が悪くてこげこげだったり、上手くつつめなかったりして大失敗だ。

 二度ほど試してみたけれど、やっぱり上手くいかない。


「みー、どうやったらいいんでしゅかねえ」


 その時、片付けや明日の準備を終えたクリフォードさんがやってきた。

 そして失敗作のクッキーを一つかじりながらぽつりと言う。


「……私、あまりお菓子作りに詳しくないんですが、一つ気付いたこと言っていいですか?」

「どうぞでしゅ」

「色んなクズ魔石ポーションの力をランダムにしみこませている分、イフリートが加減を分からなくなってるんじゃないですかね。クズ魔石ってただでさえ、力にむらがありますし」

「にゃにゃっ!」


 オーブンからのそのそ出てきたイフリートくんを見てみる。

 もちろん魔術で呼び出したイフリートくんに意思疎通できるほどの力はない。だから彼が何を考えているのかはわからない(多分かんがえたりはしてないと思うにゃ)

 でも確かに、魔術的な力がランダムに籠もってると焼きにくいのは理屈として分かる。

 素材がバラバラなら火が通りにくいのは当たり前。それと同じ事なのだ。


「焼くのは全部まとめてではなく、色によって分けてみるのはいかがでしょう?」

「名案ですにゃ!」

「私も手があきましたし、一緒に並べましょう」

「助かりましゅにゃー」


 踏み台をつかってよいしょよいしょとやる私より、クリフォードさんのほうが大人だし何倍も早い。

 手早くオーブンに入れて焼いての試行錯誤を何度か繰り返し、無事にお店に出せそうな及第点・フォーチュンクッキーが完成した!


「やったにゃー!」

「がんばりましたね」


 二人で手のひらをぺちーとたたき合い、早速一つ開いてみる。

 中から、湯気のようなキラキラとした光が一瞬出てきて消えた気がした。

 クッキーはちゃんと冷やしているはずなのに。


「……ポーションのちから、でしゅかね……」

「多分そうでしょうねえ」


 クリフォードさんは失敗分のクッキーをかじりながら、光が出たクッキーを眺めて頷いた。

 何かまた、考え事をしている様子だった。


 ――そんなこんなで明日の準備を終え、夜を迎えて朝になった。


「『ねこねこカフェ』開店でしゅ!」


 開店のお店のベルを鳴らすと、待ちかねたようにおじいさんたちが入ってくる。

 約束のお昼、そして夕方になってもファルカさんは来なかった。


「何かあったんでしゅかね……」


 その時、イーグルさんが真面目面持ちで、一人でご来店した。


「姉さんが……婚約破棄、されたんだ」

「にゃっ……」


 私はクリフォードさんを振り返る。

 クリフォードさんは頷いた。


「話は聞きましょう。……お疲れのようですので、こちらにお座りください」

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