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視線

ラサルートと別れたセツ達は宿を探して、王都を歩いていた。

城壁に囲まれた王都は世界的にも圧倒的な防御を誇る。

レンブロール王国の広大な領地、その中心に存在するのがこの王都なのだ。

王都に入るためには東西南北4つのどれかの城門を通る必要がある。

この辺の旅人は、安全なレンブロール王都で疲れを癒す。



セツ達としては本当は帰りたかったところなのだが、既に夜になってしまっていた。

疲労が溜まっている今、城壁外に出るのは危険だ。

本当だったら軍本部には軍人であれば好きに寝泊まりできる設備があるが、

セツ達がそれを()()()()()()()()()()()

だから旅人がよく利用する、低価格で泊まれる宿が並ぶ通りにやってきたのだ。

この時間帯は多くの客がやってくるので、どの宿も前で呼び込みしている。

「お疲れの旅人の方々〜、うちで癒していきませんか?温泉もご用意しておりますよ〜」

温泉か。セツは頭の中で考える。今日は早朝からの任務。汗を流したかった。

ただ…

セツ達が宿前を通ろうとすると呼び込みの声はピッタリと止むのだった。

鋭い視線がセツ達を襲った。

「あの、副隊長」

先程から静かに周りを見ていたリーカが言った。

「ここに私達が泊まれるところ、無いみたいです」

「うん…」



人目につかないよう目立たない路地裏にやってきたセツ達は今後について話し始めた。

「もう危険承知で帰った方が楽なのでは?」

「俺もそれがいいと思うぜ」

レムラも同意見らしい。

「4人でなら問題ないだろ」

今まで4人だけで王都から帰ったことは無い。

ラサルートの領地つまりセツ達の家までは、南門を出て森を抜けなければたどり着けない。

森には人間に明確な敵意を持つ獣が出やすく、夜に出歩くのは危険である。

ただこの4人ならばいくら夜だといっても森を抜けるなど容易いだろう。

しかし相手が人間だった場合どうだろうか。ラサルートをよく思わない者はこの国に大勢いる。

セツ達が襲われて負ける可能性は低いにしても問題はそこでは無い。

王国内で人間同士戦闘することが問題なのだ。

ラサルートを下げたい者達がどう吹っ掛けてくるかなんて分かったものではない。

向こうは幾らでも揉み消すことができてしまうのだ。

今国民から色々言われているラサルートへの疑惑が一つでも確信に変わった時が、今の生活の終わりを意味する。

自分たちの存在で、これ以上ラサルートを困らせることはしたくないというのがセツの思いなのだ。

「でも軍の人達は隊長をわざわざ軍に留まらせた。いつもは少し居ただけでも追い出そうとするのに…」

セツは思ってたことを口にする。リーカもこれに頷いた。

「それは確かに。間違いなく私達とラサルートさんを引き離そうとしてましたね」

軍本部(あそこ)で僕達がゴネることなんて出来ないこと分かってるんですよ、軍の人達。それに宿も泊まれないことも」

ルルクは苦しそうな顔だ。家に帰ってしまうのが一番楽ではあるが、軍の動きの怪しさもあって思うようにはいかなそうだった。

「まあこうなったら明日の朝一番で帰るしかないんじゃねえか?」

「でもそれだと隊長とどうやって合流する?」

「そんなの、取り決めがあるじゃないですか」

リーカの言葉でやっとセツは思い出した。

“もし自分の目から外れるようなことがあったら出来るだけ家を目指せ。だが常に集団行動する事に努めろ”

自分たちの軍入隊時にした大切な約束だった。

「ごめん、忘れてた…」

なぜ忘れていたのだろう。大事な約束だった筈なのに。自分は副隊長なのに。案を出すこともせずに。

セツは俯きながら自分の無能さを強く感じた。

「副隊長、失礼ですが…」

リーカはそう言うと軽くセツの頭を叩いた。セツは驚き顔を上げリーカを見る。

「え、なに…?」

その反応にリーカは優しく笑う。

「今はあなたの姉として言いますね、セツ。大丈夫、みんな居ます。隊長を含んでも5人の少数ですけど、絆は随一の部隊でしょう?」

見上げてきた潤むセツの瞳を認め、その肩に手を当てながらリーカは続けた。

「あなたは凄いんですよ、セツ。私もルルクもセツが頑張っていることを知っています」

セツはゆっくりと頷いた。自分を年齢に関係無く扱ってくれることが何よりの証拠なのだ。

抑えていた涙が溢れてきた。

「セツごめんね。僕も意見出すべきだったよ」

ルルクは申し訳なさそうに言った。慌てたようにレムラも続けた。

「セツの強さは俺も分かってるぞ。セツはこの中なら最強だからな。お前の活躍見てると更に強くなろうと思うぜ?」

「…ん…ふふっ」

レムラらしいフォローにセツは涙混じりに笑みがこぼれた。

自分を想ってくれる皆の役に立ちたい。セツは涙を拭った。

「今まで隊長が居ない時に王都を歩くことなんて無くて、少し動揺してた。でももう大丈夫」


「ただどうしましょうか、このまま隊長の帰りを待つか、それとも…」

リーカ言いかけた時セツがちょっと待ってというように手で止めた。

「さっきあんな露骨に隊長と離したのは何かあると思う。もしかすると城門を張られているかも」

「そうなるとやっぱり王都内で夜を明かすべきなんだろうけど」

ルルクは先程居た宿街の方見た。街路の方が何やら騒がしい。

「なにかあったのかな…」

セツがそう言った瞬間、明るい街路から路地裏に複数の人影が伸びてきた。

「あぁ、ここに居たのかよぉ。お前らはいつも南門使うって張ってたつーのに来ねえから、探せって言うんだぜ。

今日は非番だってのにふざけんなって話だよな」

大柄な男がダルそうに言った。後ろには武装した男が二人立っている。

「どうしたんですか?何か用があるみたいですが」

リーカは少し後退りした。

「用が無えんだったらお前らなんか関わりたくもねえよ、本当に頭弱えみてえだな」

大男の言葉に後ろの男たちは馬鹿にしたように笑った。

「あ?んだと?」

レムラが怒鳴った。それを見たルルクが慌てて止めた。

「レムラ兄さん落ち着いて。この人たち多分軍関係者」

そう言われて男たちをよく見たレムラは納得した。

「ああ、そういうことかよ」

「まあそう簡単に手は出してはくれないか」

大柄な男の声が急に落ち着いた知性を感じるものになった。どうやらこれが素らしい。

「君らは有名人だからな、いくら広い王都といったって一瞬だよ」

「どうする気?」

警戒しながらセツが尋ねる。

「君らへのこの国中の偏見、俺は嫌いなんだ。俺自身、大柄な体型と自分の性格の相違でよく馬鹿にされてきたしね。だから…」

「王都内での戦闘禁止という厳守の規律を破らせたかったのでしょうが、そうはいきませんよ」

「でもリーカ姉、もう逃げ場は無い…やらないと」

「セツ、あなた…」

「副隊長として私がこじ開ける」

人が3人並んだら通れなくなる狭さの裏路地。行き止まりな以上、男達を退かすしか道はない。

「わかった。お前たち、離れていろ」

「承知致しました」

後ろの二人が下がった。

「軍学校に通っても居ないにも関わらず、その若さで高い能力を持つらしいな。惜しい」

「なにが?」

「本部に出入りできれば位入りもあったかもな」

位とは軍が正式に作った王国への貢献度の高さを、独自の基準で判定された、隊長を除いた上位10人のことである。

「そんなの興味ない」

「そうだろうな。お前達は」

見透かしたような目がなんだか気持ち悪い。

「長い。どうせやるんだから、早く」

男はその言葉に首を振った。

「分かっているが、まずは名乗らせてくれよ。それがお前達への俺が出来る最大限の礼儀だ」

最初はあそこまで馬鹿にしてきたのに礼儀を語り出したこの男に、セツは怒りを越して呆れて始めた。

「最初と今の態度の違いに戸惑っているのか。先程にも言ったが俺の体格は誤解されやすい。大柄な奴の口が悪ければそいつは大雑把だとね。誤解されるのは腹が立つが、それで自分の性格を欺けてきた」

男は続けた。

「お前達はそれでも警戒してきたがな。そこまで注意深い相手にはもう偽る必要などない。滑稽なだけだ。自分の名はジグタル。ジグタル・ワクスだ」

「私はセツ・エムファルート。あなた達にはさっさと退いてもらう」























































































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