ふたつの日常
初めて小説を書きました。
拙いところだらけですが読んで頂けると嬉しいです。
他の生物にはないけど、人間にあるものとは何だろうか。
「心」だろうか?
でもそんなの他の動物にだってある。
「圧倒的な知能」だろうか。
確かに人間の脳は他の動物にはないものだ。
しかし酷似している動物も存在する。
ならば何なのか?
…それは多種多様の感情をもつことではないだろうか。
人間は今自分の考えること、感じることを理解して、それを表現することが出来る。
ここまで物事に繊細になれるのは人間だけじゃないか?
人々は物事物事に対してその時その時感情を抱き、目的や意思が混ざり合いながらも協力することで文明を築い ていったのではないか?
しかし感情がもたらしたのは人間にとって必ずしも利点になるものだけではない。
本能からは逸脱した感情による上下関係。自分と他者の違いによる差別。
今から語る世界は「人間にのみ与えられた『感情』」をコントロールすることが求められる。
地球人とは違う境遇の人類達の物語…
「フッッ!!」
木の間から光が射す森の中、男が剣を振り下ろす。
小さな鳴き声をあげながら最後の1匹が倒れた。
度々森に入った人間を襲う魔犬の群れであるだけあって統率されていた。
数も多く殲滅にかなりの時間を掛けてしまった。
最後の一体を仕留めた男、名をラサルートという。
最近大きく勢力伸ばしつつある、レンブロール王国で生まれ育った。
生まれは中々の名家であり、多くの高い能力を持った人材を輩出しているエムファルン家の長男。
ラサルートは戦闘面に高い能力を授かった。
エムファルン家に生まれ高い能力を期待され、その通りに才能を持った訳だ。
常人では決して住まうことなどできないような家に住み、
当然のように身の回りの世話は使用人がしてくれる。
朝昼晩素晴らしい料理を食べ、能力の高さが判明した後は戦闘についての英才教育を受けた。
誰もが一度は憧れる生活。典型的なおぼっちゃまだ。
12歳になると国内唯一の軍人専門学校に通い、高い成績を残し続けた。
しかし、そんな彼も今は単なる1隊長に過ぎない。
無論、隊長というのは誰でもなれる訳ではない。
高い能力があるだけではなく、統率力があり常に冷静であることが求められる。
隊員の命を預かる職だからだ。
だがラサルートに求められたのは更なる高職であった。
隊長達をまとめ上げる軍団長に最年少で就任し、ゆくゆくは軍司令官にと、そう期待されていた。
しかし今のラサルートは隊長止まり。しかも隊の中でも最小規模の5人という隊員数である。
「期待外れだ」
これが父親から受けた最期の言葉だった。
軍人専門学校を首席で卒業した天才。ラサルートの名は国中で広まっていた。
父親の言葉は国中の人々の気持ちを代弁していたのだ。
しかし当の本人は全く気にしていなかった。
どんなことを言われても何も感じてない、出世欲が皆無なのだ、と。
少なくとも世間の解釈はそうだった。
私は周りを見渡して、誰も怪我をしていないことを確認する。
私を含め5人しかいない少数の私の隊は、
誰か一人でも欠けたていたら一瞬で誰がいないか分かる。
これは少し皮肉も入っているが。
今日は早朝からの任務だったので、まだ昼間とはいっても皆疲弊していた。
「ラサさん、流石ですね!」
そう言いながら青年が笑いかけてくる。
この白髪の目立つ元気溢れる青年の名はレムラという。
剣を収めながらその笑顔に答える。
「流石という程でもないよ。君たちの成長速度に比にならないさ」
これは謙遜では無く本心だ。本当に皆の成長は目覚ましい。
「そんなこと言って、ラサさんだってまだ26じゃないですか。全然…ッ」
その時、ポンとレムラの頭が叩かれて話が遮られた。
「またそんな態度でラサルートさんに絡んではいけませんよ、レムラ」
レムラとは対照的な長い黒髪が揺れる。落ち着いた声がレムラを咎めた。
「いったいなあ、別にいいだろリーカ」
レムラが少し大袈裟に頭を押さえる。そんなに強く叩いてはいなかったが…
「いいわけないです。ラサルートさんは隊長なんですよ、そもそもラサさんと省略する自体…」
リーカの説教にレムラは手で耳を塞いでいる。
このままでは喧嘩が起きそうなので慌てて止めておく。
「別にいいよ、リーカ。親しみを感じれて私は好きだしね。
それにラサルートってなんか呼びにくいから」
するとレムラは得意げな顔をした。
「な、ラサさんだって大丈夫って言ってるだろ?それに俺は強いからな」
「強いって…さっき私が軽く叩いただけであんな痛がってたのに?」
リーカが小馬鹿にするような顔をした。
「はぁ?さっきのは違うだろ?」
「何が違うんです?」
逆効果だった様である。結局喧嘩が起きてしまった。
まあ側から見たら喧嘩とは到底思えない様子だが。
他の隊員達も微笑ましそうに見ている。
リーカはいつも落ち着いているが、レムラと話す時は性格が変わるのだ。
この二人も普段はこんな関係だが、戦闘になると息の合った連携を見せてくれる。
入隊してきた時はどちらが多く戦果を挙げられるかよく争っていたものだが、二人ともよく成長したと思う。
これからは普段でも落ち着いてもらいたいものだ。
そんな二人に足音を全く立てず、人影が近付いた。
「二人とも、静かに。隊長、出発できないで困ってる」
まだ少女としか思えない身長の女の子。私の隊員だ。
名前をセツという。身長に相応しくレムラとリーカにくらべ4歳下である。本当に少女なのだ。
レムラ”と”リーカといったが、それは二人は同い年であり、18歳であることを意味する。
「あ、ごめんなさい…」
「すまん…」
二人がたじろぎながらも言い合いをやめた。これがセツの凄いところだ。
不思議な雰囲気を纏いながらも物怖じせずに堂々と発言する。
私が上下関係に厳しくないこともあるが、
最年少のセツがこんな態度で許されるには理由がある。
一つは恐らく私を除いて隊の中で一番戦闘能力が高いことだ。
ただ強さだけでは人はついていきにくい。
セツの本当の凄さは周りをよく見ていることだ。
それは戦闘中でも同様で、少しでも劣勢の仲間がいれば颯爽と助けに行く。
仲間思いなのだ。だからこそ私は彼女を副隊長に任命したのだ。
「ありがとう、セツ」
私は頭を撫でてやりながら改めてセツの凄さを感じていた。
「えヘヘ、うん…」
セツが優しく笑いながら私を見上げてくる。
「なんか、私達との態度と違いますよね?」
「ラサさんっていつもあんなだろ」
「私は副隊長のこと言っているのですけど…?」
「あーそういうことか、まあでもラサさんは強いしな!」
「……」
リーカはレムラと話しても何も始まらない、そう思った。
レムラは相手の技量を戦闘能力の高さで決めるところがある。
頭があれというよりはまだ子供っぽいのだ。
ただ決して弱者を見下すことはしない。
ただ一つ、リーカには釈然としないことがある。
(自分だってレムラより強いのに…)
「いやーでもみんな凄いやあ、僕もがんばらないとな」
素振りをしていた4人目の隊員であり16歳のルルクが感心しきった声で言った。
ルルクは他の三人に比べ、少し劣っている。
ただそれは1人の時のことであって、ルルクは他の人のミスをカバーするのが上手い。
必要不可欠な存在なのだ。
「どうだルルク、また何か分かったんじゃないのか?」
ルルクは任務が終わるとその時の状況分析をしながら素振りを行う。
よく私も気付かないようなことにも気付くので、
私は決まって分析を聞くことにしていた。
「はい、隊長!」
ルルク自身も自分がラサルートの役に立っていることが実感出来る、
大好きな時間なのだ。
「まず、今日のリーカ姉さんは...」
ルルクの分析を聞き終わった私はセツに合図を出した。
それを見たセツは少し大きな声で言った。
「じゃ皆、帰還しよう」
『了解!』
皆が揃って返事をした。
それを聞くとセツは帰る方向に向き直った。
そこにはもう撫でられた時の優しい笑顔は無く、隊員達を第一に考える副隊長の目になっていた。
森を抜けると畑が見えてきた。今日も誰一人欠けること無く、帰還することができたことを意味する。
ここからが私達の住むレンブロール王国の領地だ。
正確には私達が出てきた森も領地ではあるのだが、危険であるため人間が住んではいない。
日もそろそろ落ちる時間だというのに、土地開発は凄まじい速度で行われている。
作業している人々は皆、まるでその動きをするためだけに生まれてきたかのようにも見えた。
明らかに異常な光景。ただこれがこの国の日常だ。
私はそれを見て唇を噛む。あまりにも強く噛んでいたので血が出てきた。
しかし悔しさで痛みは感じない。
これが今日の私の隊、最初の怪我となってしまった。
「…隊長、大丈夫?」
側に立っていたセツがそう言いつつハンカチを手渡してくれた。
「ありがとう、でもこれはずっと欲しがってて一昨日やっと買えたものだろう?
私の血で汚す訳にはいかないよ」
嬉しそうに見せてくれたことを思い出しながら言う。
「ならいいけど…」
セツが心配した顔で見てくる。振り返ると皆同じような顔をしていた。
皆の目にも切なさが浮かんでいる。
「すまない、皆。隊長という私が感情をコントロールできないなんて話にならないね。
でも、この風景を見るとどうしてもこうなってしまうんだ」
そう言い、私は歩き始めた。
皆何か言おうとしてたみたいだが、黙って歩き出した。
レンブロール王国の王都サヴァスルトは5m程の城壁によって囲まれている。
王都に入るには東西南北にある4つの城門を潜る必要がある。
城門を潜り、軍本部である建物な前に着いた。
だが入ろうとすると扉の横に立つ、衛兵に呼び止められた。
「おい、没落貴公子。あんた後ろにいる奴らも本部に入れるつもりか?」
後ろの奴らは隊の皆のことだろう。没落貴公子とは、私のことらしい。
貴公子と呼ばれる年では無いと思うのだが。
「すまない、今回の任務は朝からだったんだ。中の椅子に座らせてあげたい」
気がつけば空も赤くなっていた。かなりの時間動いていたことになる。
しかし兵は首を縦には振るわなかった。それのみならず、私達にこう言い放った。
「許可出来ない。
お前らのような『従属』以下に本部の敷地を歩かすなどユムジェ司令官が認める訳が無かろう。
隊長であるお前は報告のため、仕方なく立ち入りを許すが、他の者は別だ。立ち退いてもらう」
それを聞いたセツは一瞬兵を睨みつけたが、すぐに諦めた顔になり隊の皆に指示を出した。
「仕方ない、皆帰ろう」
そう言うと皆で歩き始めた。しかし私なしで帰らせたくない。
このままでは街にどのような扱いを受けるか想像出来るからだ。
「待て…」
皆を止めようとするとリーカだけ振り向いて言った。
「私達も子供じゃないから、大丈夫ですよ」
薄く笑っていた。私を心配させない為である。
そして向き直り、また歩き出した。
森の中のセツとはまた違った頼もしさを感じる。しかし今度は喜べない。
私の弱さによるためだ。
他の隊とは真反対の扱いを受ける彼女たちに無駄な心遣いなどさせてはならないのに。
「フンッ」
衛兵が鼻を鳴らした。早く行けと言う事だろう。
私は自分の弱さに対する怒りを抑えながら、本部の扉を開けた。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ評価して頂けると嬉しいです。