表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/67

正義の心


 フーラ。


 他から隔絶されたこの国の住民は『リスポーン』という性質を持っている。死んだとしても周囲一帯の何処かで復活する性質だ。リスポーンとはrespawnのことであり、直訳すると再びこの世に復活するという意味である。


 フーラの民は死なない。槍で頭を突き刺しても、キャンプファイヤーの焚き木にしても、嫁に浮気がバレて腹に包丁を入れられても、道端で肩をぶつけたヤンキーにガムを吐き捨てられても、フーラの民が死ぬことは無い。

 例え悪事を働いたせいで警察に捕らえられ、死刑にされたとしても、同様に死ぬことは無い。死刑は無駄だからと牢屋に閉じ込めても無駄だ。舌を噛んで死ねば牢屋の外でリスポーンしてくる。


 不死の住民が暮らす国において、住民がより幸せに暮らすための法は存在しても意味を成さない。

 だから、フーラに法律は存在しない。憲法すら存在しない。自然法ぐらいはあるが、自然法に実行力は毛ほども存在しないので無いものと考えて良いだろう。

 この国は自由だ。

 どうせ死なないのだから皆で自由にすれば良い感じに国が回るんじゃないか、などという意味の分からない理屈によってこの国は回っている。


 人によっては気に入らないだろう。国という巨大な組織を運営するのにルールがないのはあまりにも不安定すぎる。

 だが、その不安定さは危ういと同時にこの国の強みとも呼べるものだ。

 物心つくまで、俺はそう思っていた。


 ◆


 フーラでは頻繁にイベントが開催されている。フェスティバルと言い換えても良い。街に住む者達が日々を楽しめるように、住民だけでなく国中から人を集めるために、と様々なイベントが企画され、開催されている。

 本日行われているイベントもそういった盛り上げるためのイベントだった。


 ……が、


 眼下に広がるイベントはまるで闇の宗教のような悲惨なものだった。『キャンプファイヤー』と銘打って行われたイベントであるにも関わらず、その催しは名称から随分と逸脱している。いや、キャンプファイヤーであるのは違いないのだが、その絵面があまりにも闇過ぎるのだ。


 イベントの参加者達はいくつかのグループに分かれ、それぞれで一つの炎を育てている。イベントの終盤にはどのグループの炎が最も勢いのある炎なのかが審査されるため、参加者たちは自分たちの炎が選ばれるように全力を尽くしているのだ。

 このイベントの正式名称は『キャンプファイヤー~皆で大きな炎を囲んで踊りませんか?~』。その名前に違わず、このイベントの趣旨は参加者によって焚かれた激しい炎の周りで踊ることを目的としている。

 ふむ、これだけの情報だけ聞くととても楽しそうなイベントだと思える。

 しかし、このイベントの真にヤバい所は別にあった。


 俺は火だるまになって踊る悲しき参加者に軽蔑の視線を向けた。


「俺達の炎が一番熱い炎に決まってるだろ!!! 他には負けねぇ!!!」

「熱い! 最高に熱い踊りに魂が(ほとばし)ってるぞ!」

「奴らには負けらんねぇ! もっと燃料を持ってこい! 他に参加希望者は居ねぇのか! 薪要員をかき集めて来い!」


 炎を更に熱く大きくするには燃料が必要になる。一般的には木材だ。だが、この場には炎の燃料となる木材は用意されていなかった。だから参加者たちは己の身体を薪として炎にくべるしかなく、参加者たちはそれを直ぐに受け入れた。

 むしろ、己の身体を使って炎を生かす方法にいたく共感し、率先して仲間たちと集まってやり始めた。身体が燃え尽きてもどうせリスポーンするから、彼らに己の身体を労わる考え方は備わっていない。

 ただその時が楽しければそれで良い。ここに居る皆と一緒に燃えて踊って騒ぐのはきっと楽しいだろうと思ったから、彼らは己を薪にすることを厭わなかった。要するに深夜テンションという奴だ。


 しかし、当然、フーラ国には彼らのようなクズ以外にも普通の住民も居て、このイベントに参加している。俺を含め、普通の参加者達は彼らの行いに戸惑いを持っていた。自分が不死であることを理解していても理性が拒絶している。彼らのように潔く自分の身体を燃やすことはできなかった。

 それは己の不死の性質を活かしきれていないという弱さであるが、俺はその弱さを大切にしたいと思っている。俺の周囲で俺と同じように立ちすくんでいる人達も同じ思いを持っているはずだ。皆が皆、炎上しながらはしゃいで踊っている参加者達を蔑むような眼で見ている。


 俺は誓った。


「変えねばならない……ッ。この国に正しい理性と倫理を取り戻さなければならない……ッ」


 手始めに俺は悪しきイベントを罰するため、予め炎の周りに設置しておいた爆弾を爆破した。

 大量の巻き添えが起きてイベントは大混乱に見舞われたが、俺の爆破のおかげで闇の宗教のようなイベントは中断された。

 俺の聖なる行いのおかげで闇のイベントが一つ消滅したのだ。炎上しながら踊っていたクズ達はどうせリスポーンするが、少しは俺達普通の人の気持ちを察してくれることだろう。


 この国に蔓延るクズ全員を殺して改心させる。

 俺は正しき心を持つ光の民であり、間違った心を持つ闇の民である彼らを正しき道へと導く義務がある。俺はそう高らかと主張した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ