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春日狂想、ちんぽに関する - 2

「……えっ?」


「え?」

 わたしの口の中から不意に放たれた、恐らくは珍奇珍妙な響きを伴っているであろうそんな言葉を、先生は小さな子どもを持つ家庭で飼われている鸚鵡(オウム)のようにして繰り返した。


「げ、ゲーミングちんぽ華道部って本当に、そんな珍奇珍妙で奇怪な部活が、この女子高に──いえ、この広い世界の片隅に、そしてこの令和の世の末席に、実在しているなんてことが……本当に、あるんですか?」

「普通にあるよ?」


 えっ? 本当に?

 どうにもさっきから即答され過ぎているようにも思えるけど、このわたしの(クラス)の担任の先生たる立場の彼女が嘘を言っているようには思えないし、あと今普通(・・)()って言ったぞ? 普通じゃないだろどう考えても。ちんぽだぞ?


 もしも、このわたしが生きている世界で発生する出来事が活動写真(アニメーション)のようなものであったなら。恐らくわたしの頭上には、赤青黄緑紫色、その他さまざまの、それこそ児戯的七色(ゲーミング)発光するような(クエスチョン)マークがたくさん浮かんでいたに違いない。

 わたしは頭の片隅で、何処か他人事のような認識のもと、そんな児戯にも等しい物事を何となく考える。いや何も考えられていない。端的に言って、今のわたしは混乱している状態にあると思う。


 先生はそんなわたしの姿をちゃんと視認しているのかいないのか、恐らくはしっかりと見守ってくれているとは思うのだが、いやでもいきなり変なことを尋ねられて気を悪くしているかも知れないし──駄目だ、判断が追い付かない。

 そもそもそのはちゃめちゃにでかい混乱の種をわたしへと投げつけてきたのは外ならぬ彼女──こと、瀬々先生なのだけど、ともかく彼女は素知らぬ様子でその亜麻色のふわふわとした髪を揺らし、はてな、と言わんばかりに可愛らしく小首を傾げた。


「いや、あるよ? まあ部員数は少ないしあんまり存在感のない部活かも知れないけれど、まあゲーミングちんぽ華道って──」


「あるの!? あ、いや、あるんですか!? ちんぽですよ!? こっ、ここっ、ここ女学校ですよね!!?? いや別に男子校だったとしたってそんな変ちきりんなもんある訳ないじゃないですか!!???」

 さっきわざわざ小声で言ったのをうっかり忘れて大声でちんぽ等という言葉をのたまってしまったわたしのことを、先生は咎めるでもなく、ただただ不思議そうな表情を浮かべて見つめる。

 不思議そうな表情を浮かべたいのはこっちの方だ。というか、今のわたしはどんな顔をしているんだろうか。想像がつかない。都合よく鏡とかその辺に置いてないかな。


 再び小首を傾げるようにしながら、先生は言葉を続けた。

「女子高だけど──というか、女子高だからこそ、あるよ? 現に私、ゲーミングちんぽ華道部の顧問だし」

 その言葉はさも当然のようにして日常会話を連想させるような響きを伴っていて、事実彼女にとっては今しがた口から発したそれは日常的な行為の一環として行われる会話時のそれと同一のものであるのかも知れないが、とにかくそれは────


 は? 何?

 何だって?


 乾いた戸惑いの声すら出ない程に混乱しているわたしを他所に、彼女は言葉を続ける。


「あー……うん、まあ、ゲーミングちんぽ華道ってマイナーというか、放っておいても自然に広まるような内容の競技じゃないからね。美柚さんが知らなくても、仕方がないよ」

 競技なの? まずそのことについてわたしはよく知らないんですけど、瀬々先生。

「私としては、それにしたって知名度が無さすぎるんじゃないかなーと思ってはいるけれど。そりゃあ新入部員の数も少なくなるってもんだ、うんうん。仕方のない辺りがあるとは言えど、これは顧問としては由々しき事態。何とかしたい所だね」


 腕を組みながら可愛らしく眉根を寄せている彼女に向けて、わたしは恐る恐る、挙手をしてみせる。

「……お悩み中のところすみません、改めて質問いいですか? 何で女子高にちんぽの部活があるんですか? いや、何でこの世界にそんな代物が存在しているのかすら、わたしにとっては理解が及ばないというか、正直に言って何もわからないところなんですけど……」

 わたしのそんな長ったらしい、しかしごくごく素朴な感想に、あっひどい、なんて言いながら頬を膨らませた後、先生は改めて口を開いた。

「確かに、ゲーミングちんぽ華道っていうのは少し独特な競技──というか、知らない人からしたら変な名前をしているように思われやすいものではあるけれど、うーん、そうだなあ……」


 少しだけかぶりを振るようにしてから、先生は静かに立ち上がると窓の方へ向かって歩いていく。その目は何処か、ここではない遠い場所にある世界を見ているようで──いや待って、今はわたしに対してちゃんと向き合って欲しい。切実に。

 程なくして、先生はふう、と小さく溜息のようなものをその口から可愛らしく吐きだしてから、わたしの方を振り返ってこう言った。




「……美柚さんは、ちんぽについてはどう思ってるの?」




 神秘的な雰囲気の漂う夕暮れ時の教室で、窓から差し込む夕陽にその亜麻色の髪をきらきらと煌めかせながらそう問いかけてきた彼女に、わたしは──


「セクハラですか!?」

「違うよ!!?? いや、まあ、そう受け取られても仕方がない質問だった気は、我ながらしなくもないけれど……私が尋ねたかったのはこう、あくまでもゲーミングちんぽ華道部におけるちんぽって存在についてどう思ってるのか、ってことで……」

 ばつが悪そうにしてから、先生は落ち込んだ様子を見せる──そんなことで落ち込まれても正直困る。


 ちんぽであれちんこであれちんぽこであれおちんちんであれ男性器であれ陰茎であれイチモツであれ男根であれ陽根であれ愚息であれ剛直であれ肉棒であれ肉竿であれ摩羅であれ、あるいはペニスであれコックであれディックであれカッツォであれチカプであれリンガであれ、その他諸々のこの広い世界に存在するありとあらゆる男性器の呼称を仮にすべて含めたのであれ、そして古今東西どこの場所でもどんな状況を含めようとも──いや別にわたしはちんぽに対する知啓が特別深いという訳ではないと思うけれど、そんなわたしが思うに。


 ちんぽとは、ちんぽなのではないだろうか。


 恐らくは様々な感情のこもった複雑な表情を浮かべているであろうわたしの様子には気づかないまま、先生はうーん、と可愛らしく唸り声をあげた後、改めてわたしの方へと向き直った。

「そうだ、今から時間あるかな?」

「えっ? えーっと、まあ、部活決めをどうしようか悩むくらいしか、今のところの予定はありませんけど……」

「それならちょうどよかった!」

 ぱん、と手を叩き、喜色満面といった調子で、先生は言葉を続ける。


「ちんぽっていうものがどんなものなのか──いえ! ゲーミングちんぽ華道部がどんな活動をしている部活なのか、見学しに来ない? 実際にどんな活動をしているのかがわかれば、色んな誤解が解けると思うから!」

「……えっ?」


 今日のうちだけでも何度目かになるそんな戸惑いの言葉をあげたわたしの片腕をむんずとつかみ、そしてもう片方の手ではわたしの机の横に掛けられた通学鞄を掴むと、先生はわたしの腕を引いて教室から連れ出して、そしてそのまま歩き始める。


「あ、あの、ちょっと──」

「大丈夫大丈夫! 私も昔はそうだったから美柚さんの気持ちはよぉーっく分かるけど、ちんぽとゲーミングちんぽ華道はそこまで怖いものじゃないから!」

「いや、先生、その──」


 わたしはその後何度か先生を窘めることに挑戦(チャレンジ)したが、それらすべての行為はあえなく無駄に終わった。



 ある程度恐怖を感じるような内容のものなのだったとしたら、今すぐにわたしを連れて行くのをやめて欲しい。

 後になって、わたしはそう言うべきだったのかも知れないな、と思ったりもしたけれど、今はそういった話をするのは止めよう。“もしも”の話を考え始めてしまうと、キリが無いからだ。


 いや、ひとつだけ。ただひとつだけ、もしもの話をするのであれば。

 もしも、あの日。『ゲーミングちんぽ華道部』というものの存在について誤認したまま逃げ帰っていたとしたら、わたしは──もしかすると。


 そう、もしかすると。

 わたしは人生に一生悔いのようなものを残したまま、その後の人生を生きていくことになってしまっていたかも知れないのだから。

次回、『春と修羅』編です。

ゲーミングちんぽ華道部とは一体なんなのか。我々調査隊はインターネット上の藪の中へと調査に赴き、そして危うく遭難しかけたという。



上記の話は、いまヌ名義作品の『Art and Sex in Japan - 令和時代のAIと私』に関する言及です。現時点においては、運営さんに消されたりしない限りはずっと代表作指定にしておくつもりです。

頭をバグらせてノイローゼになりたい奇特なご趣味をお持ちの方は、お暇な時にでもあの作品にて行われる狂人の所作をご覧いただければ幸いです。


概ねあのようなことがあったので、言葉は人を殺せるな、というのが肌感覚でわかった次第です。よろしくおねがいします。

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