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勇者は此処に居る

二年前に深夜テンションで作ったものを添削しました

優勝するつもりは殆どありません!!!



『貴方にはこの世を脅かす魔王を倒していただきたいのです。』


足元には円の内に刻まれた多重幾何学模様。

中世ヨーロッパにありがちな絢爛豪華な城内で漫画で聴き慣れた陳腐な台詞、異世界のお姫様の期待の声が僕に降り注がれた時思わず夢かと思った。

憧れの主人公僕がなれるんだ、と。

その時は叫ぶように快諾して強くなるために王宮騎士団の人々と日夜訓練に励んだ。

何故なら俺は勇者だから、理由はそれだけで充分だった。


『シュウラク様は素晴らしい才能を持っていますね。』


剣を交える度誰かにそう言われた記憶があった。

そうゆう時僕は決まって『勇者として与えられた特典のお陰なだけだよ』と皮肉混じりに呟いた。

ちやほやされるのは嬉しいがこればかりはどうしようも無い事実で自分自身に再確認するために何度も口にした。

所詮僕の力は努力して手にしたものでもなくただの借り物なんだってことは決して忘れてはならないのだから。


この日、成田秋楽は現実的で残念な「アキラ」を捨てて理想的で勇者で救世主の「シュウラク」として生きる覚悟を決めた。

まぁ……そんなものはすぐに紙屑のような薄い覚悟だと思い知らされるのだが。


―――――――――――――――――――――――


初陣。戦争を知らずに生まれてきた日本の高校生だった僕にとってそれは地獄だった。

ただひたすらに自分がちやほやされて敵を倒してハッピーエンドなんてことをやはり心の奥底で考えていたらしい。


僕の背丈を悠に超える化け物が波となって戦場に押し寄せる。

息を切らして命を奪う、ただその繰り返し。

僕の持つ聖剣で寸断し、魔術で焼き殺し、時には拳で頭を砕いた。

鼻はもう鉄の匂いに慣れてしまう。

敵も味方も戦略ゲームのようにバッタバッタと死んでいく。

逃げ惑う兵士達、泣き叫ぶ兵士、全部僕のせいで死んでいく味方なんだってことに気づいてしまった。


「…無理だ。無理だよ。この間までっ、全然普通に高校生してたような奴が……勇者なんてッ!……できるわけないだろう?!」


他人の命の責任を負うのは将の役割。

僕は正しく魔王に対するジョーカーとしてその責任を背負って生きたかった。

でもあまりに失われた命の数が多くて、一人では抱えられずに逃避したんだ。

だからふと、口から身近な目標が溢れた。


「帰りたい。」


敵を殺すことで痛む良心なんて偽善だ。

魔王を殺したら僕は元の世界に帰れる。

万を超える軍勢を一瞬で殺す力は無いが、

いつか魔王を殺すくらいの力なら持っているはずだ。


「………寄越せよ。」


だから僕は。あの戦場で。


「お前らの……経験値を寄越せよッ!」


正義の勇者になることを諦めて、魔王の群を殺す英雄に成り下がった。

表情筋は硬直したまま殺戮する。


「『大聖剣・(つるぎ)が峰』」


僕の持つ聖剣に付けられた黄金の刀身が一点の衝撃を放つ。

その奔流に呑まれた命はフードプロセッサーよろしくバラバラパズルと化して血を赤で汚す。

レベルが上がる度に剣の技も魔術の腕も体のスペックも昇華されていく。

ただこの世界を丸ごとよく思わなかった僕には全てが現世に帰る手段でしかなかった。


―――――――――――――――――――――――


前人未到の最大到達点67レベルを大きく上回る239レベル。これは魔王軍を見かけた次第に殺した結果だ。

この二年間、多くの人達に助けられた。

それももう………終わりにしよう。

悲しみもこの悪夢も。


僕の三倍以上の体躯が吠える。

紫色に光る野獣のような筋骨隆々には焔のような黒い痣がいくつも付いていて古傷も浅いものが無数にあった。


『よくぞ此処に参った!神々の最後の柱よ!貴様ら勇者を我は煩わしく思っていたが今回は別なことッ!何故なら貴様で神の権能は打ち止め……この長き戦争が終わりこの星は人間から解放される。』


狼のような面をして人間語を淡々を話す姿はただただ僕を苛つかせる。

足を一本前に踏み出す。好戦的な笑みを貼り付ける。

魔王のレベルは伝承によると300、僕が正面から戦って勝てるような数字ではなかった。


「ごちゃごちゃうるさいな。勇者と魔王の目と目とがあったらどうなるか分かるよな?………リアルファイトだよ。」


魔王は言った。これは戦争だと。

ならばその期待に応えてやろう。

四天王全員と七大魔龍を全員殺しても尚足りなかった差を埋めるために僕が考えた秘策を。

戦争とは準備時間によって九割決まるのだから。


「『大聖剣・諸刃の剣』ッ!」


聖剣が光を収集して肥大化する。巨人が使うような剣は魔王城の天井を掠めて今尚巨大化を辞めない。

この大聖剣スキルはこの世で唯一残された魔王軍に属するような魔物に特攻効果が付与されるのでレベル差があろうともこの攻撃は当然警戒する。


本来この技は通常の剣技とは比べ物にならないほど強力な威力となるがその分『反動』というダメージを受ける呪いが発生するという文字通りの諸刃の剣だ。

魔王が巨躯を重そうな槍を右手に難波歩きで「撃ってこい」と言わんばかりに少しずつ距離を詰めてくる。

この最初から全身全霊の攻撃を僕は……。


「頼むぞ………………みんな。」


前口上も挑発も一切気にせず待機させ続けた。

迫るのは物語の人狼と同じようなもの、この世界に筋肉と実際の筋力は一概に比例するわけではないがその姿で見下ろされると迫力がそこらの創作物とは違う。


『憐れなものだ最後にして一番我を前にしたレベルが高き柱にして何を躊躇っている?』

「違うさ。………これは!」


魔王城の硝子が割れる。入ってきたのは煉獄、炎属性魔術が四方八方の背景を塗り替える。


『勇者の……魔術だとッ?!』


その驚きに僕はいやらしい笑みで肯定する。

この世界の法則で魔術は使用者を害することができない。

ならばと僕は自身の魔力を何度も何度も蓄積させることで戦略兵器をこの日のために用意していた。

レベルがこれ以上上がる気もしないなら単純に僕という味方を増やすことだ。

厳密に言うなら今まで戦ってきた戦友達に向けて場所を指定して発動してもらった。

このレベルの魔法ともなると超精密な魔道具を使い捨てで撃ち込まなければならないが被弾してもノーダメージな僕には関係の無い話だ。

今や対魔王戦では役に立たないだろうと引き下がった彼等だが僕にとっては大切な仲間だ。

苦しかった時に彼等が励ましてくれた。

挫けそうな時に彼等が支えてくれた。

だからこそ……僕が……いや……。


「『俺が!』此処にいる!俺こそがッ……勇者だ!」


視界には全て紅。僅かに見える人影に語りかける。

魔王とて永遠の命を持っただけの生物だ。

総数800の最高位魔術を受け続ければ当然苦しみの声が一つだろうと上がるものだ。


ここまでの道のりで戦火に向かった勇気ある者達は一人とて死んでいいわけがなかった。

僕は開き直った。『全部お前のせいだ』と。


第六感が囁いた。魔王はこのままこの場所で決闘をしようとしていると。

この攻撃は確かに少なからずダメージを与え続けているのだから僕にとってもそれが最善だ。

魔王が動いた瞬間に無数の光の集合体となった聖剣を振り下ろし左腕を切り落とした感覚があった。


視界に残る人影は壁を跳躍し、翻弄する。

僕は諸刃の剣の跳ね返りで少し吐血した。


「僕がどれだけの経験値を、命を奪ってきたか教えて欲しいか?」

「ッ!?」

「お前の村も焼いてきた!」


紅の世界で無上の剣戟が繰り広げられる。

僕の頬を槍先が掠めようとも剣を振るった。

大聖剣スキルは隙が多くて使えない、今回ばかりは近接戦で互いの武芸に頼る他無い。

距離を詰める、槍の独壇場に上がれば僕はその瞬間に負けが確定するので必死に食らいついて無我夢中に剣を振るい続けた。


―――一体どれだけの時が経っただろう。


魔物である魔王の抉れた左腕が勝手に止血するくらいというあてにならない時間指標しか目に映りはしない。


互いに満身創痍、諸刃の剣も使えないくらいだが僕の方が僅かに余力を残した状態。

とうに魔術の炎などただの火事に成り果てた空間で僕は最後の技を使う。


「『大聖剣・日輪月虹』」

『……それは……『何だ』……その光は。』


風が騒ぎ出す。長い夜が明ける。

眩い光だが見ずにはいられない、月と太陽の双極が交わる。

この一撃は魔王が避けられない時にだけ使うつもりだった。

それを警戒されるとトドメが刺せなくなるから。


ーーー僕はこの時を待っていた。僕の勝ちだ。


横薙ぎに剣を振るいながら奔り、魔王の心臓を断面が通過するように全力で腕と脚に最後の力を振り絞った。


「これ……で、ッ!終わりだあぁァァァァ!!」


バターのように魔王の体を真っ二つに刀身は滑る。

僕はこの戦争で最後の心臓を破壊した。

そして何度目かのシステム通知の機械音が頭に叫び込む。


『黄昏の魔王を倒しました』

『魔弾の射手スキルを獲得しました』

『大魔剣スキルを獲得しました』

『超耐性スキルを獲得しました』

『レベルが上昇しました』


霞んだ目で僕は独り現実を見つめた。

「まだだ、僕ぁ帰るんだ。

何も終わっちゃいない……ここから、始まるんだ。」


握り拳を作るには、血溜まりが痛すぎる。


―――――――――――――――――――――――


魔王を討伐した影響で勇者召喚以外でも世界間移動の魔術が使えるようになり、地球に変えることができてから一日が経った。

周りからは部屋で二時間寝坊した程度の時間のズレしかなく家族からは「今日なんかテンション高くない?」って言われたのをよく覚えている。


「姉貴!僕の歯ブラシ洗面台に落としたら戻しとけよ!」

「は?うっさい。私アンタみたいに暇じゃないから。」


これが世の理不尽だ。あれほど異世界で帰りたいと嘆いていたのは所詮戦争よりはマシな日常だったからに過ぎないってことだ。


幸い戻ってきたのが日曜日だったうえ、まだ高校一年の入学式が終わっただけだったのでクラスメイトに「会いたかったよー!」と号泣することも無かった。

家族の前で少し泣いてしまったのは存分に笑いの種にされているが、どうやらこの歳で悪夢に泣きじゃくったと思われているようだ。


まだ四回くらいしか通った事はないがいつもの通学路、歩いて十五分という近所の偏差値は中央値に限りなく近い高校。

こうしてみると僕はやっぱり普通の高校生する予定の奴だってことが身に染みて分かる。

ちなみに姉貴も同じ高校で立派な受験生だ。

そのせいで僕は散々にいびられている、これは受験生でなくてもだいたいそんな感じだ。


人工毛の歯ブラシという文明の利器に僅かな感謝を覚えながら柔らかな口触りで歯磨きを終える。


「ほら秋楽(あきら)早くして。」

「先に言ってればいいだろ……。」


すると姉貴は嫌味ったらしく笑みを溢す。

これは揶揄えるネタが有ればいつでもやる、あいも変わらず弟には人権というものが欠落している。

日本政府は何やってんだか。


「だって、秋楽(あきら)一人だと迷子になって泣いちゃうかもしれないし。」

「は?喧嘩か?トイチで買ってやるよ。」


一瞬の沈黙


昨日のことを馬鹿にされていたのだと気付いて途端に反射で買い言葉を叩き込み終えた。

そこで僕は異世界に行く前はそこまで口の悪い少年じゃなかったことを思い出した。

姉貴は少しギョっとした顔で驚きキッチンにいた母に向かって大声で語りかけた。


「お母さーん!秋楽(あきら)がなんかすごい荒れてるんだど。オラついててうざーい。」

「鈴華よしなさい。アンタが小間使いみたいに扱うから反抗期になったのよ。」

「はぁ?私のせい?」

「うっせ!黙れ。両方黙れ!うっせえ!」


飛騨秋楽、地球の時間軸で三日前から高校生。

過酷な異世界で二年半の歳月生き抜くために彼のメンタルにはスキルボートに決して表示されない『怒号』と『挑発』という喧嘩慣れした口調を活用した経験が確かに残っていた。

それに彼は苦労した続けるだろう。

例えば、今羞恥で顔を真っ赤にしているように。


―――――――――――――――――――――――


僕の中にはこんな言葉がある。

如何に聖剣を持っていようと無用の長物となることもある。

今作った。有り体にいって現実逃避だ。

ここで聖剣なんて顕現させてみろ、翌日のニュースに『刃渡90cmのロングソードを持った高校生が暴れる』とかそうゆう字面になってしまう。


そうだった。僕は異世界じゃそれなりに強い自信があるが…………コミュ力は最弱だった。

そりゃあそうだ。アニメとライトノベル大好きなオタクには不可能だろう、異世界にそんなものは無かったが。

正直あっちではやるせない怒りを常に燃料にして喋っていたので何も怒ることもない今ではどうしようもない。


大丈夫だ。この日のために流行の曲だって話題のドラマだってSNSの面白動画だって調べたんだ………。


全部忘れたああああぁぁぁぁぁ!!!


二年以上前ですよ?!覚えてるわけねぇだろボケが!

何処の天才が二年の戦時中に前見たドラマの続きとか思い出せる?!

流行りの音楽とか思い出せる?無理だよね?!ホント無理全部吹っ飛んだよ。だって、興味ないんだもん!


教室の辺りを見渡す。

中学の同級生はいたが特に仲良くも無い。

………ックソ。詰んだじゃないか。

七大魔龍が三体同時に来たくらい活路が残っていない。


もういいや、今日は友達作りに向いてない日だったんだ。

そうだ。そうに違いない……確か異世界に連れてかれる前にもそんなこと言った気がするけど、絶対そうだ!


「おはよう成田君。」

「お、おはよぅ……???」


誰だコイツ?そういや入学式でちょっと話したことある気がする。

見た目通りのオタク仲間なんだよな。

………駄目だ。カタカナの名前しか浮かばない。

名前覚えるのがややこし過ぎて頭の中で兵士Aとか兵士Bとかで区分してたのがバレた時は最悪だったなぁ。


「昨日の『キャプテンアロー』と『メルボルン』の戦闘シーンの作画見た?!」

「あーーー。ごめん、昨日のは見てぇない、かなぁ?」


ごめん。どいつとどいつの戦闘だと?

お前にとっての昨日が僕にとっての昨日だと思わないでくださいね。

はい論破。


はぁ………一人で何やってんだろ、僕。

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