鍛治師ギルドを訪れる男
帰って来た領都で俺を待っていたのは、
〈A級〉昇格と、遺族についての伝言と、
ガイルス辺境伯様だった。
「マヨネーズ男爵よ、私より半月も前に王都を出て、ロゼリアに到着したのが一週間前とは、どこで油を売っておったのだ?」
と、聞いてくる。
「冒険中に我が家の馬になった一団に〈子馬〉がおりまして、ゆっくり進んでおりました。」
と答える俺に、
「私が帰って来ると解りながら出掛けてしまうとは、つれないのぅ
マヨネーズ男爵よ。」
といじけるガイルス様、
「移動や引っ越しなどで、出費がかさみ、急遽出稼ぎに出ていたしだいでして…」
と説明すると、
「おぉ、そうじゃった、
王都の鍛治師ギルドマスターがお主を探して私の屋敷に来たのだ。
なんでも、馬車に手押しポンプ等の支払いについて話があると申しておったぞ。」
とガイルス様が話してくれた。
「えっ、鍛治師ギルドに報告に行ったのに?
まぁ、バタバタしてたから、窓口の職員さんが言い忘れたか、ギルドマスターが聞いたのに忘れたか?
そもそも、人の話しを聞ける状態でなかったか…」
と俺が〈ぼやく〉と、ガイルス様が、
「まぁ、そんな所だろう、
私がギルドマスターと話して、この領都の鍛治師ギルドにお主名義の口座を用意して、そこに入金される様に話をつけたから、
マヨネーズ男爵よ、鍛治師ギルドに足を運んでおいてくれよ。」
と言ってくれた。
「有り難う御座います。
早速この足で向かいます。」
と礼をのべて、お屋敷をあとにした。
鍛治師ギルドは新市街の中央通りに有った。
「初めて来るな、この町の鍛治師ギルド」
と呟きながら建物の中に入ると、
「いや、注目したいのは解ったが、まだ図面も講師も王都の〈本店〉から来ていないから、もうしばらく待って欲しい。
現物でも有れば、ちっとはちがうがよぉ。」
と職員さんと商人風の人が揉めている様子、
「よう、兄さんも〈新型の揺れない馬車〉か、〈水汲み装置〉の注文かい?
聞いていた通り、辺境に図面と指導してくれる講師が来るのはまだ先だから、待つか、諦めるかしてくんな。」
と、職員さんもこのやり取りに嫌気がさしているようだ。
「そんなに注文が来てるんですか?」
と、興味本位で聞いてみると、
「やれ、王都で見ただの、王都では普及しているだの…
だったら王都で買ってこいってんだ!」
と荒れている職員さんに商人さんっぽい人が、
「王都では生産が間に合わないから一年待ちだと言われたんだよ、
何とかならないかね。
頼むよ、〈手押しポンプ〉が必要なんだよ」
とギルド職員さんに懇願している。
あまりにも必死だったので、〈イスタさん作〉の手押しポンプと、使い方の手引きをテーブルに出した。
「良かったらどうぞ」
と言ったとたん、
ギルド職員さんに詰め寄られた。
「兄さん、これはどうしたんだ?
何処の工房で作ってもらった?
王都でなら仕方がないが、これを作った職人がこの町に居るのなら、教えを乞いたい!」
と真剣だ。
「作ったのはウチの職人ですし、
馬車とポンプも私のアイデアです。」
と答えると、ギルド職員さんは真っ青になり、
「まさか、マヨネーズ男爵様で?」
と聞くので、「です。」
と答えると、ギルド職員さんは、
「申し訳ございません、
知らぬこととはいえ、失礼の数々、どうかご容赦を!」
とすがりつく職員さんに、
「いえ、大丈夫ですから、
えーっと、申し遅れました、
ユウ・ツチヤ・マヨネーズです。
あなたは?」
と聞くと、
「これは!重ね重ね失礼しました。
私、ギルドマスターの〈ボルト〉と申します。
本来ならば、図面と現物が届くか、講師が派遣されこのような事は無いのですが、
王都で生産が間に合わず、噂ばかりが流れてきて、どんなものかも解らない状態でして…
出来れば男爵様の工房の方に教えを乞いたいのですが、何とかならないでしょうか?」
とお願いされた。
「工房に案内はするから本人に聞いてみてください。
それと、商人さん。」
と、商人さんに話をふると、
「は、はい、男爵様」
と固まる商人さんに俺は、
「あぁ、そういうの要らないから、俺は普段は冒険者してる一般人だから、
で、手押しポンプどのくらい要るの?」
と聞けば、
「私の村は、水脈までかなりの深さがあり、水汲みが大変な重労働です。
この水汲み道具があれば村の皆が楽になります。
可能であれば村の井戸の数、八台欲しいと考えております。」
と緊張しながら答える商人さんに、
「では、数日頂戴。
ギルドマスター達と何とかするから、」
と約束して、ギルドマスターに、
「手の空いている職人さんを集めてください。
ウチの工房で、〈鍛治師のイスタさん〉に教えてもらいましょう。」
と提案した。ギルドマスターは、
「一時間下さい!
おい、〈ナツ〉男爵様にお茶を差し上げて!
俺は親方衆を集めてくる!!」
とギルドから出て行く。
商人さんも、
「私も失礼します。宿を探さなければ…」
と出て行ってしまった。
取り残された俺に、
「主人が、すいません。」
と、お茶を出してくれる奥さん
「いえ、此方こそすいません、
お茶、ありがとうございます。」
と、ある意味今回の元凶なので、つい謝ってしまった。
「いえいえ、此方こそです。
男爵様は本日は鍛治師ギルドにどのようなご用件で?」
と聞かれ、
「実は、この騒ぎのポンプなどの使用料の為に口座を作りたくて…」
と俺が話すと、奥さんは、
「あらあら、私で宜しければ手続きいたしますが?」
と提案してくれたので、ありがたくお願いして口座を開いた。
手続きもおわり、お茶をいただいていると、
「本当に教えて貰えるのか?」
「解らねぇが、待っていたらいつになるか…」
「オラは、教えて貰うまで動かね。」
と数人の職人がガヤガヤとギルドに入ってきた。
ギルドマスターが、
「男爵さま、早速ですまねぇが、先生の所に案内しちゃくれねぇ…ですか?」
とお願いされたので、皆でゾロゾロ、〈イスタさん親子〉の工房に向かった。
イスタさん達、ビックリするだろうな…。
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