懐かれた男
冒険者は危険と隣り合わせの商売である。
いつも通りにしていても、いつもと違う事が起こり、その少しの変化で命の危機が訪れることがある。
今、俺の目の前に困った状態が広がっている。
俺の仕掛けた罠にかかった鹿の魔物をゴブリンの集団がこん棒で殴り殺して持ち帰ろうとしているのだ、
そして、もっと面倒臭い事に、
駆け出しのテイマーらしい小汚ない子供が、若い狼と共にゴブリンの集団に喧嘩を売ろうとしている。
「それはガルが先に見つけた獲物だ!」
と言っているのだが…
もう一度言う、俺が仕掛けた罠にかかった鹿の魔物だ。
ゴブリンには勿論、狼と飼い主のガキにも鹿の所有権は無い!!
正直もうボコボコに殴られた鹿の魔物には俺が求める肉質は望めない、
腹いせにゴブリンの巣を焼き払うくらいしかやりようがないが、
狼とガキのコンビはお構い無しで、ゴブリンの集団に襲いかかる。
若い狼は数匹のゴブリンを倒したが十匹ほどいるゴブリンに取り囲まれタコ殴りにあう。
あのガキには特に思い入れが有るわけではないが、このまま放置をしても、あの駆け出しの冒険者のガキがゴブリンにお持ち帰りされるだけだ…
「仕方がないから助けてやるか…」
アイテムボックスから弓と矢を取り出しゴブリンに射かける。
十匹全て倒す必要はない、ガキと狼を助けて逃げる時間が取れれば十分だ。
急に仲間が射殺されたゴブリンはパニックをおこし逃げまどう。
ガキを回収したのちに、狼の元に向かう。
タコ殴りに有った狼は虫の息だが生きていたので、少し勿体ないが、お高めのポーションを使ってやった。
みすみす見捨てるのも気が悪い、
ただそれだかけの理由だった。
ガキが弱りきった相棒を見て、半べそをかいているが、ゴブリン達が仲間を連れて帰ってきても馬鹿らしいので、ガキを肩に担ぎ上げ、狼は反対の小脇に抱えて町へと急いだ。
町へ帰り冒険者ギルドにガキと狼を渡して、ゴブリン達が集団行動しており、集落を形成している可能性があるので調査と討伐の要請をギルドに出して、俺は今日の仕事はケチがついたので止めにした。
市場に寄り食材を買い、
宿に戻りキッチンの端を間借りして、ロールキャベツを仕込み始める。
オヤジさんが夕食の仕込みをしながら興味津々で俺の手元を覗き込んでいる。
手の込んだコンソメスープなどは時間的に無理なので、
先日見つけたナンプラーの様な調味料を使い塩ちゃんこ風の味付けにする。
鶏ガラと屑野菜でスープを初めて作った時にはオヤジさんも顔をしかめていたが、今ではこの宿の旨い飯の秘密の一つで、オヤジさんの鶏ガラスープは領主様のお屋敷の料理長が弟子にしてくれと頼む程の腕前なのだが、まさかその料理を教えているのが宿に泊まっている冒険者とは思っていないであろう。
「よし、あとは味が染み込めば完成だな。」
と料理が一段落した時に、
「ガル、ここから兄貴の匂いがするのか?
兄貴!兄貴はいますか?」
さっきの駆け出し冒険者のガキと狼が宿屋の前で騒いでいる。
困り顔の女将さんとオヤジさんに、
「俺の客みたいだ。」
と伝えて外に出る俺を見つけるなり狼が尻尾を振りながら飛びついつてきた。
女将さんは「ひっ!」と声を上げたが、俺が襲われたのでは無いと解れば、安心して宿屋の仕事に戻っていった。
「おー、よしよし、怪我はもう大丈夫なのか?」
と、狼の頭を撫でてやったが、
尻尾が千切れそうなほど喜ぶ、野生を忘れたワンちゃんが目の前にいた。
そして、同じくらいキラキラした目で俺を見つめる小汚ない駆け出し冒険者のガキがいる。
「で、何か俺に用か?」
と俺が聞けば、
「アタイとガルは恩人の兄貴に付いていくと決めました。
弟子にしてください。」
と、面倒臭い事を言い出した。
「そういうのヤってないから。」
と、言って宿屋に帰ろうとした時、
「ぐぅーーーっ」と腹の虫の大合唱がガキと、狼から聞こえてきた。
オヤジさんが見るに見かねて、
「ユウの部屋でしばらく面倒見てやんな。
おい、そこのユウの弟子候補!
小綺麗にするなら入って良いぞ。」
と招き入れてしまった。
オヤジさんは看板娘の姉に体拭きの用意と、跡取り息子には狼用の寝床を俺の部屋に運ばせた。
確かに俺の部屋にベッドは二つ有るにはあるが、
〈弟子など取る気がない〉俺の意見は誰も聞いてくれない様子だ。
小汚ないガキの体拭きに何故か看板娘の姉が一緒に俺の部屋に入って行った。
「あのー、アイシャちゃん?」
と、看板娘に声を掛けたら、
「ユウさんのエッチ!
ユウさんはワンちゃんを井戸で洗って来て!!」
と狼を渡された。
いったいどこら辺に〈エッチ〉要素が有ったのだろうか?
と思いながらも、
宿屋の井戸でワシャワシャと今日知り合ったばかりのえらくフレンドリーな狼を丸洗いしている俺…
変な奴らに懐かれてしまったモノだな
と、半分呆れて、半分は諦めて
「どうしよう?」
と自分に聞いてみたが、
狼の「はぁ、はぁ」という息づかいだけが井戸端にこだまするのみだった。
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