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何も成し遂げた事がない男

また、書き始めようと思います。


今回は不定期で期間も決めずにのんびり書く予定です。


さて、今日はオークの集落を集団で一掃する大型クエストがあり、参加した冒険者達は臨時収入で浮かれて酒場でどんちゃん騒ぎをしている。


俺も参加して、討伐依頼料金に合わせて、討伐したオークの買い取りで宿屋に3ヶ月泊まれる位の収入が有ったが、酒を飲んで大騒ぎなどよりも俺はもっとやりたい事…


いや、味わいたい物があり、わざとオーク肉を一部売らずに宿まで持ち帰ってきた。


「オヤジさん、キッチン借りるよ。」


俺は宿屋のオヤジに何時もの様にキッチンを借りて晩飯を作る。


宿屋の晩飯が済んだ後で、オヤジさんの晩酌に付き合う条件でキッチンを借りているのだが、


今日はどうしてもトンカツが食べたく成ってオークの討伐依頼まで受けて来たのだ。


オーク肉に小麦粉をはたき卵液に潜らせパン粉を纏わせ、


オークのラードでじっくり揚げていく。


最近はオヤジさんだけでなく女将さんも、看板娘と跡取り息子の姉弟まで俺の晩飯を狙って、当たり前かの様に皿を持って出来上がりを待っている。


まぁ、この宿屋のオヤジさんは料理の腕とセンスが良く、一度俺が作って見せれば直ぐにモノにして旨い晩飯になり宿屋の名物として評判になる、


おかげで俺の常宿は予約がなかなか取れない貴族まで飯を目当てに泊まりに来る宿に成ってしまった。


宿屋の家族分のトンカツが揚がり姉弟はサクサクとニコニコしながら揚げ物を頬張っている。


ソースが有ればもっと旨いだろうが、贅沢ばかりも言っていられない。


俺のトンカツが出来上がりようやく朝から待ちに待ったサクサク食感とのご対面である。


胡椒とハーブで味付けしたトンカツを頬張ると甘い油の香りと幸せな味がジワリと溢れだす。


「これこれ!」と心のなかで頷く俺をみて宿屋のオヤジさんは、


「ユウ、コイツはオーク肉だけの調理法か?」


と聞いてくる。


「流石オヤジさん、これは、鳥でも魚でも使える調理法だよ。


魚は小骨をしっかり取るのを勧めるよ。


甘酸っぱいソースを付けてパンに挟めば手軽な弁当にもなるから研究してみて。」


と教えておく、


オヤジさんはこれだけのヒントで十分旨い物を作り出すから驚きだ。


「ふーっ」と満足そうな声をだしてオヤジさんが酒を片手に俺の作ったトンカツを真似してハムを揚げようとしたが、衣が上手く付かない様なので、バッター液を作ってハムカツを作って見せた。


オヤジさんが「ほう。」と感心して見ていた。


俺は、「玉ねぎとか揚げても美味しいよ。」と言ってオヤジさんにキッチンを返した。


あとは、オヤジさんが晩酌をしながら色々試して自分の料理として新しい調理を覚える時間だ。


俺は食いたかったトンカツを堪能し、満足して自分の部屋に戻る事にした。






俺はこの世界来て三年になる。


C級冒険者の〈ユウ〉として日銭を稼ぎ暮らしている…


元は冴えない独り暮らしの会社員で有った俺だったのだが、

ある日、少し思い立ち慣れない事をしたせいで、

方々に迷惑を掛けた結果として、この名前もよく知らない異世界に来る事に成ってしまったのだが…


そう、慣れない事をしたせいで…。




子供の頃から〈成し遂げた!〉物がコレと言って見当たらない人生だった。


打ち込める趣味や競い会うライバル何てモノのない面白みの無い人生を過ごしている。


このままでは、老後寝たきりに成ってしまった場合に、思い出す物も、振り返る事も無い〈虚無〉地獄が待っているのでは?


そんなのは嫌だ!


ある日、テレビで色んな冒険を〈成し遂げた〉人達の特集を見て感じてしまった。


〈このままではイケない感〉


今にして思えば、あんな気持ちに成らなければ、

と、悔やまれるばかりだ。


しかし、その時の俺は〈何かを成し遂げてみたい〉と本心から思っていた。


かといって、テレビの人達の様に、


リヤカーで世界を旅したり、


高齢で登山を始めたり、


等いきなり凄いチャレンジに挑むハートも無い…


悩みに悩んだ末に出した答えが、


〈新しい自分に生まれ変わる第一歩として、御百度参りの完遂!〉


である。


家の近所のそこそこ大きな神社に夜も明けきらぬうちに向かい、


鳥居の前に立ち30段程の階段を見つめ少しうんざりする。


暫し階段とにらめっこしたが、〈今日は、今日こそは成し遂げる!〉と自分に誓い、一歩を踏み出す。


たかが30段の階段だがスポーツをまるでしたことの無いオッサンには過酷である。


社まで辿り着き、貯金箱からかき集めた小銭が百枚入ったウエストポーチから一枚取り出して、賽銭箱へ。


「今までの自分から新しいアクティブな人間に生まれ変わりたいです!」


と決意表明の様な願いをして下の鳥居迄戻るのを繰り返す。


何度か繰り返すうちに足が笑いだす。


日頃の運動不足を痛感するが、生まれて初めて何かを成し遂げる為に努力している高揚感で、少し楽しく成っていた。


そして、十数回目の下りの階段で、足を踏み外し約30段丸々転げ落ちた。

したたか全身を打ち付けながら落ち続けて、頭に強い衝撃が走り意識を手放した。




「痛ててててっ」


薄暗い時間に転げ落ちたと思うが、気が付けば辺りは明るく、社の前に倒れていた。


「だいぶ長い時間気を失ってたのかな?」


と、呟いてみた。


すると、


「そうでも無いのじゃよ。」


と、声を掛けてきたお爺さんがいた。


ビックリしてお爺さんを見るが、ニコニコして優しそうな見た目に俺は安心して、今の状況を確認しだす。


確かに転げ落ちたはずなのに、今現在階段の上にある社の前に居る…


「もしかして、お爺さんが助けてくれてここまで運んでくれたのですか?」


と質問した俺に、


「運んだのはワシだけど、助けてはやれなんだ、残念じゃ。」


?なんのこと?


運んだけど、助かってない?


アホな顔をして考えていた俺にお爺さんは、


「残念ながら、土屋(つちや) (ゆう)さん、貴方は先程、御百度参りをあと八十七回残した状態でお亡くなりになりました。」


とお爺さんは驚きの発表を行った。


「えっ、何?何で名前知ってるの?」


と慌てる俺にお爺さんは、


「実に困った事に、志し半ばでお亡くなりに成ったから、このまま行けば御百度参りを永遠に続ける地縛霊になるんだけど、それをされるとお客さん減るから困るのよワシ…」


と、困り顔のお爺さん、


お客さんが減ると困るって、神社の神主さんかな?

…確かに、神社で事故が有っただけでもマイナスなイメージだね。


なんか、スミマセン…


「うん、解ってくれたのなら話が早い、


普段なら神力で死なない程度にするんだけど、前回使いきった神力がまだ戻ってないから、今は何にも出来ない神様なのよね…ワシ


だから、直接は無理だけど、間接的にならお願いを叶えてあげれるけど…


どうするかのぅ?」


お願いを叶えてあげるって、神様じゃあるまいし…


「いや、神様じゃよ。」


!って、あれ?俺、声に出してた??


「いや、声に出してはおらんのぉ」


………!


「本物!!

えっ?えっ!本物の神様で…?」


やっと事態が飲み込めてきた俺に、


神様は、ため息混じりに説明してくれた。


神様は現在、神様パワーがほぼ空状態で、俺を助ける事も成仏させる事も出来ない。


このままでは俺は御百度参りを続ける地縛霊になり参拝客が怖がって来なくなる、神様にとって凄く不味い状態。


そこで、今回神様パワーを使いきった原因の別の神様にお願いして、間接的に俺の願いを叶えるからとりあえず境内で地縛霊しないで出て行って欲しい…


的な説明だった。


俺も地縛霊は望まない、

よく分からないが、迷惑に成らない形ならと快諾したのだが…




まぁ、そんなこんなでこの世界に来たのが三年前、十五歳の姿で町の側の草原で目覚めて


〈冒険者として頑張って生きて下さいね〉


とのメモだけを握りしめていたあの日からずっと冒険者をしている。







読んでいただき有り難うございます。

「面白い。」と思って頂けた方や、

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― 新着の感想 ―
[一言] 無自覚搾取され系かよ この1話目読んだだけでこの宿屋の連中はろくでもないなって思うけど、恐らくそういう風な扱いにはならず善人として扱われていくんだろうなって思えるから無理だわ
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