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姉は暴君  作者:
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子供の頃から姉は暴君

 私はキャリック伯爵家の次女、ジュリア。長女サマンサ、三女クロエとの三人姉妹である。


 三歳違いの三姉妹、華やかでいいわねぇ、などと言われることは多い。


 だけど私は姉妹なんてどこがいいのよ、と思っていた。


 なぜなら、うちには暴君がいたからだ。


 大人と子供の生活場所がきちんと分けられているこの屋敷の子供部屋で、私は社会の縮図というものを体感していた。支配する側とされる側。それは決して覆ることはない。


 小さいうちは体も知能も完全に上の存在、それが長女。姉は私と妹というちっぽけな存在を好き放題に支配する暴君だ。


 まず、遊びは全て姉中心。姉の思う通りに遊ばないと癇癪を起こして怒鳴り散らし、叩いたり髪を引っ張ったり暴れ回る。見かねたメイドが止めに入ると、『叩かれた』と親に言いつけクビにした。それ以来、子供部屋で起こることはメイド達には見て見ぬ振りをされるようになった。


 私や妹が買ってもらったおもちゃやお人形は、すぐに姉に取り上げられる。私達が泣きながら親に言いに行くと、姉はシクシク泣きながらこう言う。


「ジュリアが私の持っているお人形をずっと欲しがっていたから譲ってあげたの。私がお父様に買ってもらって大事にしていたお人形だから本当は悲しかったんだけど。でもそのかわりに新しいお人形をくれるってジュリアの方から言ったのよ。私は無理やり取ったりしていないわ」


 姉のしおらしげな様子に絆された両親は、まだ状況を上手く話せない私にこう言うのだ。


「あなたが先にサマンサの物を欲しいって言ったのなら、交換してくれた優しいサマンサに感謝しなければいけませんよ。人の物を欲しがることは、貴族の子女として良くないことです」


 お喋りな姉は親とコミュニケーションを取るのが上手く、きっと私達が普段からワガママだと吹き込んでいたんだろう。


 ドレスに関してもいろいろあった。


 姉が着たドレスをお下がりで私が着る。それに関して文句は無い。よそのおうちでもやっている事だ。


 ただ、姉の場合は、ドレスに飽きてくるとわざと飲み物をこぼしたりかぎ裂きを作ったりして新しいドレスを作ってもらう事が多かった。そして、そのドレスはシミ抜きをしたり繕ったりして私達が着ることになる。


「サマンサは大きいから私達と出掛ける事もあるのです。外出するのに繕った服ではみっともないですからね。あなた達はまだ小さくて家から出ないのだから、その服でもいいでしょう。お出掛け用のドレスはちゃんと準備してありますからね」


 そのお出掛け用のドレスを仕立てる時には、謎のルールがある。いつも、同じデザインで色違いのドレスを作るのだが、色は姉が決めるのだ。私達に選ぶ権利は無い。


「私はピンクがいいわ。この淡いピンクはまるで妖精みたいで素敵」


 仕立て屋を呼んで色取り取りの布地から色を選んでいた姉が言った。


「私もピンクがいいな」


 私がポツリとそう言うと、姉はキッと睨みつけて


「ダメよ!」


 と言う。


「ピンクは私の色なの。絶対あんた達は着てはダメ! どうせ似合わないんだから」


 そしてデザイン画をあれこれ見ている母のところへ行き、


「お母様、ジュリアは茶色、クロエは緑色がいいんですって」


「まあ。もう少し可愛らしい色の方がいいんじゃないかしら。水色とかクリーム色とか」


「私もそう言ったんだけど、どうしてもその色がいいんだって」


「そうなの? 本人が着たい色が一番だから、その色で作りましょうか」


 違うと言いたいけど、情け無いことに姉に睨まれると何も言えなくなってしまうのだ。


「ピンクはどうせ私のお下がりで着られるでしょう。いろんな色で作った方が楽しめるじゃない」


 姉はそう言うのだが、姉のお下がりはお出掛け着ですら食べこぼしなどでひどい状態だ。これをあと何年もお下がりとして着なければならない私とクロエはいつも切ない思いをしていた。


 しばらくして姉が学校に通い始めた時は、平穏な日々を手に入れられたことに感動した。


 姉は子供部屋から独立して自分の部屋を与えられたのだ。暴君は子供部屋からいなくなった!


 それからは私と妹は仲良く好きな事をして遊んだ。お絵描きしていて上からぐちゃぐちゃと落書きされることもない。積み木でお城を作っていて蹴り飛ばされることも、絵本を読んでいて取り上げられることもない。二人でお人形遊びをする時も、ヒロインはちゃんと交代で演じる。『お姫様をやるのは私だけよ!』なんて言われることはない。


 おやつを取られることも、お昼寝中に起こされることもない。なんて自由で穏やかな毎日なんだろう。私は自分が学校に通い始めるまでの三年間を満喫した。


 それから、十歳になった私は初等学校に入学した。


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