それはただの一時で
息抜きに。
オニオンスープの色だ、と思った。黄金色で、透き通ってて、一口飲むと、全身がぶわっとあたたまるやつ。窓から真っ白なベッドに差し込む夕陽が、口の中にあの塩辛い味を連れてくる。
「……ひな? 起きるの?」
「んーん、もうちょっと寝る」
もこ、と布団の中の山が不満げにうごめく。私は慌てて、その隣に潜り込んだ。
ルームメイトのラムも私も、この時間は家にいる。ラムは夜、カフェ店員の私は早朝から働く。モーニングも扱っているうちの店で、早番は入れる人がなかなかいないのだ。ラムの仕事について詳しく聞いたことはないけれど、家には高そうなドレスが何着かあった。
目の前のまっしろな背中にぴたりと張り付く。あったかい。ラムはいつも、あったかい。さっきのオニオンスープみたいだな、と思ったら、少しだけお腹が鳴った。
「おなか、すいてんじゃん。起きれば?」
「ちょっと。いじわるしないでよ」
「あんたがあたしのこと起こすからでしょ」
「すぐそうやって人のせいにする……」
ごめんって、と振り返ったラムの長いまつげが目の前にばさりとかかって、私は思わず、どきどきしてしまう。しろくてやわらかい肌、長いまつげ、二重で少し切れ長の目。ぽよんと弾力のある胸が、私の肋骨の上の貧相な皮とちょっとの脂肪にバウンスする。あったかくて、きれいで、うるわしい。神様はラムにこの世の人間の理想を全部詰め込んだんじゃないか、って思う。
「ひな? もーお、機嫌直して」
「悪くなんかないよ」
「馬鹿ね、そういうときは機嫌悪いって言っておねだりするものよ」
「ラムちゃんらしいねえ」
じゃあ、キスしてよ。ちょっとだけ唇を尖らせると、ラムのぷるぷるの唇が私の唇に重なる。あーあ、寝る前にリップクリームしとけばよかったな、せっかくお揃いにしたのに。ラムははむはむと私の唇を食べると、ちょっとご機嫌そうだ。
「ねえ、ひな、私も起きちゃった」
「なんか食べる?」
「ひなが作ったもんなら食べる」
「わかったわかった」
全ての理想を詰め込まれたラムは、えへへ、と布団を抱いて笑う。夕陽にぽかぽかと照らされて。ラムがただの子羊に戻るこの瞬間が、私はとてつもなく好きだ。
カップのオニオンスープでも添えてあげようかな。今度こそ布団を抜け出すと、私はTシャツを頭からかぶった。