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明けて翌日
結局のところ、ゲーム開始時に3つのスキルを取得出来るという情報を得た俺は、公式サイトで公表されているスキル一覧を眺めていたら、いつのまにか外が明るくなり始めるような時間になっていて驚いた。
だって選べるスキルが100個以上もあるんだぞ?
スキルの効果や恩恵、派生先とか一つずつ見て行ったらそりゃ時間なんて足りなくなってしまうわけで…
とりあえず、公開されていたスキルはいちおう全て目を通すことも出来たので、あまり寝られないだろうけど少し寝る事にして俺はベッドに横になった。
それから少しして、俺はまた亜子に起こされた…
眠りの浅かった俺はばっちり亜子が部屋に侵入してきた音を拾っていた。
「お邪魔しまぁす…」
やけに小声で俺の部屋に入り込んで来ると、亜子は足音を殺しながらベッド脇まで移動して俺が寝ているか確認しているようだ。
すでに起きてはいるんだが、コイツが何をしようとしてるのか気になった俺は少しの間成り行きを見守る事にしたんだが…
「失礼しまぁす…」
律儀に?ゆっくり布団をスススっとある程度持ち上げた亜子はさも当然と言った様子でベッドに侵入して来やがった。
「おい…」
「ひゃい!?りく!?お、お、起きてたの!?」
「朝っぱらから頭沸いてんのかお前は…」
はぁ…と深い溜息を一つ吐いて時間を確認して見るとまだ7時半を少し過ぎたところだった。
ログイン出来るようになるのは今日の昼10時からとの事なので時間的には約2時間半の余裕がある訳ですな。
うぅむ…
「早過ぎるわ!!」
朝っぱらからすったもんだあったものの、とりあえず起きて朝食を食べるためにリビングに降りて来た俺達だったが、母さんは既に出掛けて行ったらしい。
「優花里さんからの伝言で、今日は泊まりのお仕事になるからご飯は適当に済ませておいて〜だって?あと私に泊まって行ってもいいわよって」
「あぁ了解。そういや取材で出掛けるとか言ってたな。最後のは聞かなかった事にするとして〜飯だ飯」
「最近りく冷たくない!?」
冷たくありません。
俺はお前の貞操観念が心配だよ…
「じゃあ俺が本気になったらお前どうすんの?」
「それはもうばっちこいですよ!!」
ふんす!っと鼻息荒く自信満々に両手を広げてアピールする亜子。
はぁ…と深い溜息をついて両手を頭に項垂れる俺…
ウチの両親も亜子の両親も昔から仲が良いせいか、俺と亜子を事あるごとにくっつけたがるんだよな…
俺んちの家族構成は両親と俺と二つ下の妹の4人家族で妹は今年受験の中学3年生だ。
亜子んちも同じく御両親、亜子とその妹の4人家族。
ウチの妹と亜子の妹の誕生日が同じという事もあり、一年おきにお互いの家で誕生日パーティーなんぞをするくらいには家族ぐるみで仲が良いんだけど、子供達が集まる中、男は俺だけなので肩身が狭い事もあり妹達が中学に上がったのを境に俺だけは参加しなくなっている。
プレゼントだけは用意して亜子に任せてたりするけどな。
母さんがいないと言う事で、必然的に朝食を作るのは俺という事になる。
俺が冷蔵庫の中身を確認しているとそわそわした様子の亜子がこちらをちらちら伺っていた。
「亜子は座ってテレビでも見てろ」
「え〜!?何か手伝うよ〜」
「お前が手伝おうとすると碌なことにならんから大人しくしてろ」
亜子は見た目や外面はいいが、家事全般がダメダメなんだ。
砂糖と塩を間違えるなんてデフォルト設定だ。
親父もそろそろ起きてくる時間だしサッと作れるもんでいいか。
俺は材料を取り出し洗っていく。
今日の朝食はトーストと付け合わせにサラダ、後は簡単にコンソメスープだ。
手際良く野菜を切り分けトーストを焼いていると親父と妹が起きてきた。
「おはよう親父、環。もうちょっとで出来るから亜子の相手して待っててくれ」
「あぁおはよう理玖。優花里は出張だったか」
「亜子姉おはよぉ〜…」
「おはようたまちゃん、お邪魔してます智さん」
少しして朝食が出来上がり配膳も終わる。
「「「いただきます」」」
俺以外の3人が声を合わせて食べ始めた。
俺は3人分の飲み物を用意して並べていく。
親父はブラックコーヒーで亜子は牛乳、環は清涼飲料水だ。
「うわ…キモ…」
「……」
環の一言に俺の口角が引き攣るも歳上の余裕というか兄の威厳的な物でグッと堪える。
おそらくこういう感じになるだろうなと思っていた俺は最初から自分の分はトレイに乗せて自分の部屋に持っていく用意をしてある。
「こら環、せっかく理玖が用意してくれてるのにそれは無いだろう」
「食べ終わったら流しに置いといてくれ。後で俺が片付けるから」
「……ふん」
親父が俺を庇おうと環を叱ろうとしてくれるのは有難いが後の展開が面倒なので遮るように言い残し、俺はトレイを持って自分の部屋へと引き上げるのだった。
俺と妹の環は仲が悪い。
というか俺自身は別にどうとも思ってはいないんだが、中学に上がってからはやたらと俺に対する当たりが強くなった感じだ。
思春期の女の子の気持ちは分からんので俺はほとぼりが冷めるまでは環と距離を置くことにした。
そう決めてからかれこれ2年ちょっと経つ。
俺から何かしたわけでも無いので謝ったりするつもりもないし、向こうもそんな気は無いだろう。
プライドだけはやたらと高いやつだからなぁ…
しばらくして亜子が俺の部屋に戻って来た。
「ご飯食べ終わったよ〜…」
「了解。ちょっと片付けてくるわ」
とっくに食べ終わった朝食を乗せたトレイを持ち部屋を出ようとする俺に亜子が声を掛けてくる。
「ねぇりく…」
バツが悪そうにしている亜子だったが、こいつが何を言おうとしてるのかはおおよその検討がついてる。
たぶん環のことだろう。
「気にすんな。今に始まったことじゃないから」
「でも…」
「心配してくれるなら亜子があいつの相手してくれればそれでいいさ」
そう言って俺は階段を降りていった。
親父はもう出掛けたらしく、リビングでは環が一人テレビを見ているところだった。
その様子を横目で見ながら俺は食器を洗って片付けていく。
すると家のインターホンが鳴り来客を知らせる。
今は少しが手が離せなかったので仕方なく、仕方なく環に声をかける。
「環、悪いが出てくれるか〜?」
「…………」
無視ですかそうですか…
えぇ分かっていましたともさ…
お客さんには悪いが少しだけ待っていただこう。
急いで手の水気を拭き取って玄関へ急ぐと、もう一度インターホンを押されてしまうが俺はそのまま玄関を開けてお客さんを確認する。
「すいませんお待たせしてしまって…って、誰かと思えば凛ちゃんだったか」
「あ、理玖兄おはよう。たまちゃんいますか?」
「あぁ、リビングでテレビ見てるよ。適当にあがってくれ」
「じゃあお邪魔します」
そう言ってちゃんと靴を揃えて家に上がる礼儀正しい女の子は亜子の妹の凛ちゃんだ。
ゲーマーの亜子に引き摺られてかは知らないが、凛ちゃんもそこそこ名の知られている有名人である。
よく一緒に遊んでいるうちの妹も以下同文…
凛ちゃんは姉があの亜子という事もあり、年齢の割にはしっかりとしていて見た目も美人で清楚な感じの大和撫子という印象が似合うとても出来た女の子だ。
うちの妹の環も見た目は美人に入るんだろうが、どちらかというと高飛車とまでは言わないが上から目線というか鼻に付く印象があって近寄り難い感じだな。
凛ちゃんの爪の垢を呑ませてやりたいぜ…
どうせ妹の事だから気を使って飲み物を用意したりはしないだろうからそれだけでもしようかと思ったが、二人共すぐに出掛けるらしく連れ立ってリビングから出てくるところだった。
「悪いね何も用意出来なくて」
「いえいえ、気にしないでください〜。じゃあたまちゃんちょっとお借りしますね?」
「こちらこそよろしくな」
そう言ってつい昔からの癖で凛ちゃんの頭を撫でてしまったが、思春期の女の子の頭を撫でるのは不味かったかと思い、すぐに手を離す。
「すまん、昔からの癖でつい…」
「いえ…大丈夫でしゅ…」
凛ちゃんはほんのり顔を赤くして取り繕い、俺が撫でたところを抑える。
うむ。
今日も可愛いな
「うっざ…こんなのほっといて早く行こ」
「もうたまちゃんそれは酷いよ〜!じゃあ理玖兄、お邪魔しました」
そう言ってパタパタと小さく手を振って凛ちゃんは出て行き、環は偉そうに出て行った。
二人を見送ったタイミングで2階から亜子も降りて来た。
「今来たのって凛?」
「ん?おう。環と一緒に出掛けたぞ」
「じゃあ私もキャラメイクとかあるから戻ろうかな」
「そうか。またな」
「素っ気無い…ちゃんと向こうで会おうね?フレンド登録は事前に終わってるから後で連絡するからね?」
「はいはい分かったよ。後でな」
「絶対だからね!?」
やたらと念を押してようやく亜子も出て行った。
これでようやく落ち着けるな。
あらかた家事も済ませていたら丁度いい時間になったため、俺は自室に戻りログインの準備を始める。
VRハードのヘッドセットを頭に乗せてベッドに横になり起動する。
朝からちょっと嫌な事もあったけど、気分転換には丁度いいかなどと思いながら、音声入力でゲームを立ち上げる。
「ダイブイン」
俺の声を認識したVRハードがゲームを起動し始めると、意識が暗転したと思ったら文字が浮かび上がってくる。
『welcome to Earthgulds Online』
文字が光の粒子になって消えると画面が眩く光り、『名前を入力して下さい』と表示されていた。
ようやくログインです。
リアル妹はいますがウチは特に仲悪くないですよ?
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