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王道ラブコメ展開スタートです!(間違い
4月某日、朝8時
俺は隣に住む幼馴染である篠崎亜子から寝込みを襲われていた。
うん。表現に間違いはないな。
起きたら俺の隣で亜子が寝てたんだよ。
「んぅ…りくぅ…むにゃむにゃ…」
むにゃむにゃとか言う奴ホントにいるんだな…
いやいや、そうではなくて…
「なんで亜子が隣で寝てんだよ…」
現状がサッパリ分からない俺はこの状況に軽く困惑する。
あぁ、亜子が「りく」と言ったのは俺の名前だ。
水嶋理玖と言うのが俺の名前で、この横で涎を垂らしながら寝ているのは幼馴染の篠崎亜子。
というか亜子さんや…
当たっちゃいけないけしからんモノが俺の胸板に当たっているのですが…?
というかガッチリホールドされているので逃げ場もない上言い逃れも出来…るか?
俺は自分のベッドで寝ていた。
これは間違いない。
つまり寝ていた俺の横に潜り込んで寝ていたのは亜子が勝手にやった事であり、俺はいっそ被害者であると言ってもいいだろう。
よし…落ち着いてきたぞ?
柔らかけしからん二つの魅惑に惑わされる事なく、俺は亜子を起こしにかかる。
「おい、亜子…」
「う〜ん…んぅぅ?」
薄っすらと瞼を開いた亜子はまだ寝惚けているのかにへらぁと微笑み
「あれぇ?りくがいりゅ〜…なんで私のベッドでりくが寝てるのぉ?」
「いや、俺んちの俺の部屋の俺のベッドだから。亜子が勝手に潜り込んで来てるんだが」
「ん〜…ん〜?あれぇ…?はっ!?」
ようやく目が覚めてくれたようだ。
「じゃあおはようのちゅうしないとだね〜?ん〜…」
前言撤回
まだ寝ぼけてやがった!!
「おいやめろ!流石に洒落にならないから!!」
「ん〜…ん〜!!」
こいつ、意外と力が強いだと!?
思いがけない亜子の力強さに必死に抗いながら頭を後ろに引く。
こんな所誰かに見られでもしたら…
「りっくん?そろそろ起きなさい?せっかく亜子ちゃんが起こしに来てくれるっていう学生イベントの中でも憧れのシチュ…あらあらまぁまぁ…今日はお赤飯かしら〜?」
とかなんとか訳の分からない事を言いながら俺の母さんがノック無しに部屋の扉を開け、俺達の様子を確認した後、鼻歌まじりで扉をゆっくりと閉めて階段を降りて行く。
「ちょっと待って、母さん!?誤解だから!!マジで助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺がようやく寝惚けた亜子から解放されたのは、それからたっぷりと女の子の柔らかさを無理矢理堪能させられた20分後の事だった。
水嶋家・リビング
「疲れた…」
朝のドキドキイベント(物理)により、本来ならスッキリと前日の疲れも無く起きていたはずが、既に体力が底をつきそうだ。
俺がテーブルに突っ伏していると、母さんが朝食を並べてくれた。
「そんなこと言って〜、亜子ちゃんの魅力に骨抜にされそうだったんじゃないのぉ?お母さん、特に用事はなかったけど、もうちょっとでお買い物に出掛けるところだったわ〜」
「マジで勘弁してくれ…」
朝からオープンでアレ過ぎる母さんの言動に頭を抱える事になるとは…
とは言っても母さんの職業柄、今朝のような出来事は美味しいシチュエーションというかネタというか…
「いっただっきまぁす!」
そこに更に起爆剤が投入されるとか…
さも当然と言ったように俺の隣に座って朝食に手をつけていく亜子がいた。
ホントコレどうしたらいいんですかねぇ!?
俺の周りがフリーダム過ぎる件について…
「今日の朝ごはんも美味しい!!」
「あらあらありがとう亜子ちゃん。おかわりもあるから遠慮しないでね?」
「はぁい!!もきゅもきゅ…」
「うふふ、ホント亜子ちゃんの食べてる姿はハムスターみたいで可愛いわねぇ」
と、ただ聞いている分にはただただ和やかな朝食風景に聞こえるんだが、実際の様子を直視すると、母さんの亜子を見つめる表情は目尻が下がり、両手を頬に添えて涎を垂らしそうになって息遣いが荒くなっている事が全てを台無しにしてくれていた…
「ホント…疲れる…」
俺はもう何を言ってもどうにもならない事を悟り大人しく自分も朝食を食べ始めたのだった…(遠い目)
朝食を食べ終えしばらくして、母さんが仕事に出掛ける時間になった。
「じゃあお母さん、編集さんと打ち合わせに行ってくるわね〜」
「優花里さんいってらっしゃい!」
「気をつけてな〜」
「亜子ちゃんちょっと…」
母さんが思い出したかのように亜子を手招きすると、亜子に何か耳打ちをしている。
「ごくっ…い、いいんですか…?」
それに対する母さんの答えはバチーンと効果音がつきそうなほどのウインクを決め、ちょっと周りには見せられないハンドサインを亜子に送っていた。
本来親指は真っ直ぐ立てられているはずのサインが人差し指と中指にはさまげふんげふん
亜子も真似しちゃいけません!
「何もないから早よいけ」
「りっくんが反抗期だわ〜。お母さん悲しい(棒)」
「早よいけや!」
俺が軽く怒鳴るように言うと、きゃ〜とこれまた棒読みで笑いながら出掛けていった。
「まったく…朝からあのノリは辛いわ…」
「え〜?優花里さん面白いよぉ?」
亜子が不思議そうに首を傾げているが、俺からしたら亜子も原因の一つなんだぞ?
所変わって俺の部屋
「それで?朝から何の用だよ?」
「あっそうそう!一緒に遊ぼ!?」
亜子がガラステーブルに身を乗り出すようにして言い迫って来るんだが、こいつの今日の服装は部屋着に近い服装で、全体的に薄着なのだ。
そしてそういったポーズを取られてしまうと俺としても目のやり場に困ってしまうわけで…
亜子自身はまったく気にしていない様子ではあるが、幼馴染という身内贔屓を抜きにしても、こいつは美少女の部類に入る見た目をしている。
黒く艶やかな癖のないサラサラな肩甲骨辺りまで伸ばした長い髪と、道行く男性が思わず二度見してしまうような凛とした中にもあどけなさの残る綺麗に整った小さな顔、トドメの均整の取れた出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいると言う反則的なスタイルの持ち主。
そして外面はまぁ言わずもがな…
とある理由で一部の界隈では世界的に顔が知られている亜子は性格も良く品行方正ともっぱらの評判だ。
もっともその外面も俺から見たら「作ってる」という印象が強過ぎて見ていて気持ち悪い気もするが…
ともあれ、そんな理想の女の子像を地で行ってるのが篠崎亜子という幼馴染なのだ。
控え目に言っても美人と一言では言い表せないようなやつだ。
なんでこんな超絶ハイスペックな奴が幼馴染なんだろうな?
対する俺はと言うと…
地味メン
以上だ。
何か問題ありますかね?
亜子と並んで街なんて歩いた日にはとてもじゃないが生きた心地がしないと言えば察してくれるだろうか?
『なんであんな美少女と地味なのが一緒に?』
『いやいや、身の程を弁えろよ(笑)』
『あの子罰ゲームかな?あんな地味な男の隣を歩かせられるとか可哀想』
こんな感じだ(体験談)
いやぁ…あれは辛かったなぁ…
ははっ…死にたい…
おっといけない…ダークサイドに堕ちるところだったぜ…
話を戻そう。
「遊ぶって何してだよ?」
変わらず若干興奮気味で身を乗り出している亜子のたわわではわわでたゆんたゆんなアレに目を背けながらぶっきらぼうに聞き返す。
もっと羞恥心というものをだねぇ!!と言いたいところだが、亜子はまったく聞く素振りを見せたことが無いために言うことは諦めている俺氏である。
「コレだよ!」
俺の思いも虚しく、変わらぬ態度で話を続ける亜子は、何処からともなくパッケージを取り出してこちらに向けていた。
「今何処から…」
「んぅ?…えへへぇ…」
おい、何故そこで顔を赤らめる?
亜子は両手を頬に添えて何やらモジモジし始めた。
「何処から出したか知りたい…?」
困ったように恥じらいながら上目遣いで聞いてくるとか反則だと思います。
大抵の男共ならこれで一撃KOなんだろうが、こいつを子供の頃から知っている俺氏には通用しないんだぜ。
「ん〜?『アースガルズ・オンライン』?」
「あれぇ…?おかしいなぁ…」
「なんか言ったか?」
「な、なんでも無いよ!?それより、そう!『アースガルズ・オンライン』!これで一緒に遊ぼうよ!」
「遊ぼうって言ってもなぁ…コレって確か専用のVRハードが無きゃ遊べないやつだろ?俺持ってないって」
亜子が持っていたのはVRMMORPGと呼ばれている種類のゲームソフトだった。
これを遊ぶためには専用のハードが必要で、そのハードは発売されてから何年か経ってはいるものの、未だに売り切れ続出で次回入荷がいつになるか分からないという代物だ。
当然、俺も持っていないし、いざ購入しようと思ったらハイスペックゲーミングPCが一台買えるくらいのお値段であり、一高校生である俺ではとてもじゃないが手が出せない。
そんな俺の様子を見た亜子は、ふっふっふ…と怪しげな笑いを浮かべると
「じゃじゃ〜ん!!そんなりくにコレをあげましょう!」
亜子が徐ろに用意していたらしき紙袋から取り出したのは、今話に出ていたVRハードの本体だった。
「お前それ…よく手に入ったな?…いや、ちょっと待て、今あげるって言ったか?」
「うん!言った!」
こいつ頭でも打ったのか?
「ちょっと!こいつ頭でも打ったのか?って顔しないでよ!?」
すげぇ。寸分違わず俺が思った事を言い当てやがった。
「いや、そりゃ思うだろ?そのハードを手に入れたい人がどれだけいるんだって話だよ。それをいきなりポンっと渡される側の身にもなってみろって」
怪しげな方法で入手したとか思っちゃうじゃないか。
例えばこれを使って遊んだらログアウト出来ないデスゲームに参加させられるとか〜
「あははっ!!それこそアニメの見過ぎでしょ?大丈夫だって〜」
「じゃあどうやって手に入れたんだ?」
「この間の世界大会の優勝賞品の副賞だよ〜」
「あぁ…アレか…」
なるほど。
それなら確かに有り得るか。
こんな残念な感じの言動をしている亜子だが、その実、表向きでは世界的に有名なゲーマーなのである。
亜子が参加した事のあるゲームのジャンルは多岐に渡り、一部のゲームは世界大会が催されるような物にも手を出している。
そんな世界大会で優勝する程の腕前を持つほぼプロゲーマーとも言える亜子が、つい先日この春休みを利用してとあるゲームの世界大会に参加し、それに優勝して帰ってきたのだ。
その時の優勝賞品というのが確か賞金と副賞であるこのVRハードだったわけだ。
「私はもうこのハード持ってるし、持ってても使わないからりくにあげるよ。そうすれば一緒に遊べるじゃん?」
「いや…でもなぁ…」
プロの領域にいる亜子と一緒に遊ぶとか…
一緒にいるだけで廃人プレイ確定な気がして気が進まないんだよなぁ…
それ以前に俺個人の問題として、こと戦闘が絡むゲームとなると致命的な弱点があるのだ。
それは俺自身が格闘が絡む事がからっきしに駄目な事だ。
これはもう病気と言ってもいいレベルでセンスが無い。
いや、センス以前の問題だろう。
例えば格闘ゲームだと、まったく関係の無いところで対空技を発動してみたり、このタイミングであれば必殺技がヒットするというタイミングで防御行動を取ってみたり…
例を挙げればキリが無いが、とにかく格闘が絡むようなゲームに関しては本当にダメダメなのだ。
今回、亜子が持って来たゲームのジャンルはRPGである。
当然モンスターやプレイヤーとの戦いも待っている事だろう。
そんな中に俺みたいな奴が参加したところで足手まといもいいとこ…いや、もっとひどい事になるのは明白だ。
そんな悪癖を持っていることは亜子だって重々承知のはずなんだが…
「絶っっっっっ対に面白いから!!騙されたと思って一緒に遊ぼうよ!!」
これである…
なんか今日は妙に推してくるなぁ?
「ね…?お願い…」
今度は泣き落としかよ…
こうなった亜子は本当に厄介で、どんなにこっちが断ろうと延々と折れるまで「お願い」してくるのだ…
「はぁ…分かったよ…でも俺が面白く無いと思ったらすぐ辞めるからな?」
「うん!それでも良いよ!」
俺が仕方無く遊んでみる事を告げると、花が咲いた様に笑顔で俺の手を握りぶんぶんと手を上下させて喜ぶと、早速VRハードの初期設定を一緒に施していく。
一通りの設定が終わったが肝心のゲーム自体は明日が正式なサービス開始らしく、今出来るのはこのくらいで、あとは事前に公開されている情報を各自で調べて備えておくくらいの様だった。
ある程度の時間が過ぎ、夕方になって亜子が帰る支度をする。
「じゃあまた明日!!あっちで会おうね!!」
「おう。俺もサイト見てどうするか決めとくわ」
「分かった!えっと…それじゃあ…ん〜…」
亜子が目を閉じて両手を広げ、口を窄めて近付いて来る。
「何やってんだ…?」
「は、恥ずかしいけど、バイバイのちゅうを…」
「やらねぇよ!?」
終始亜子は亜子だった…
ようやく何事も無く亜子を帰す事に成功した俺は、早速パソコンを立ち上げて『アースガルズ・オンライン』の公式サイトを眺める。
「成り行きで始める事になったけど、まぁ仕方ないか…さてさて、どんなキャラにしようかねぇ…」
文句を言いつつも、新しいゲームと言うのはやはり楽しみなものである。
どんなキャラにしようかとサイトにある情報を読みながら、今日は終わりを迎えていくのだった。
9割方がラブコメ展開ですね
反省はしてません。
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