12
暴走回?
頭の違和感で目が覚める。
ログアウトしてそのまま寝てしまったんだった…
ヘッドギアを外して枕脇の定位置に置き、身体を起こしてひと伸びさせるとゴキゴキと凝り固まった骨が軋んだ。
時計を見ると既に夜の7時を越えたところだった様だ。
寝呆け眼を擦りながら部屋を出て扉を閉めたところで俺はギョッとした。
俺の部屋の扉が何かで叩きつけられた様に凹んでいたのだ。
しかも一箇所だけではなく複数箇所…
とりあえず、何があったのか確認しないことには何も判断出来ないと思った俺は、ひとまず時間的にもう帰ってるであろう親父達に話を聞くべくリビングに駆け下りた。
「ん!?理玖か…無事だったんだな」
「昨日徹夜でゲームしちゃってて今まで寝てたんだ…ごめん…」
俺を確認した親父がホッとした様子で話しかけてきた。
なんか不穏な事言わなかったか?
扉の凹みといい親父の奇妙な台詞といい、俺が寝てる間に一体何があった?
「何があった?」
「環の癇癪って言えば分かるか?」
「あぁ…そういう事か…」
親父も母さんもほとほと困り果てた様子だった。
まぁ俺も昨日のアイツの態度は許し難いものがあったからな。
そこで俺は考えた。
というか結構前から考えていた事ではあるんだけど、こうなってしまった以上はもう待った無しだろう。
「アイツがあぁなってからずっと考えてはいたんだけどさ…俺、家を出ようと思ってるんだよね。俺がいるからアイツもあんな状態になったんなら、俺はこの家に居ない方がいいと思うんだ」
「理玖…あんたもうそこまで…」
母さんがいきなり泣き崩れた。
どうしたんだろうか?
俺、そんな泣かせちゃうような事言ってしまっただろうか?
親父達とは割と普通に話しているようだし、アイツの当たりがキツイのは俺に対してだけだ。
俺が原因なら居ない方がアイツにとってはいいだろう。
そういった俺の考えをずっと抱くだけにとどめていたのはまだ実害が無かったからだ。
でも扉の様子を見るに、今後はそうもいかないだろう…
俺の考えを聞いた親父は難しい顔を浮かべていた。
少しして、親父は俺に問いかける。
「考えは変わらんのか?」
「まぁね…アイツの気持ちの整理がつかないうちは何を言っても聞かないだろうし、俺もアイツが話してくれるのを待ってはいたけど、アレじゃあね…俺がアイツの視界から物理的に居なくならない限り、たぶん落ち着くこともないと思うんだ」
これは俺がアイツに出来る最後の譲歩だ。
俺がこの家からいなくなる事で環が精神的に落ち着いてくれるなら安いもんだ。
今の環は本当に何をするか分からない。
俺以外の面識の無かった雪菜先輩の前ですら吠えて来たからな。
「そこで頼みがあるんだけど、学生の俺じゃどこにも引っ越せないだろ?だからどこか住めるところを探してくれないかなって…」
「学校はどうする?もうじき新学期も始まるだろう」
「もちろん今まで通り通うよ。親父達が頑張ってくれるのに、俺まで親不孝なことはしたくないからな」
これは俺の本心だ。
いつこうなってもいいように、俺は今まで布石とまでは言わないが、生活面では心配をかけないように心がけて来たつもりだ。
わがままを通すなら、それを出来ると証明出来なければ道理とは言えない。
俺は男だし、心配されるとしたら生活面がネックになると思っていた。
だからというわけではないが自分から家事をしていたわけだけど、この辺りは母さんにはお見通しだったようだ。
「だから中学に上がってから私の手伝いしてくれてたの?」
「こうなるとは思ってなかったけど、でも遅かれ早かれ高校を卒業したらどの道覚えなきゃならなかった事だし…実戦が早まっちゃっただけだよ」
「はぁ…もう…なんでこうなるかなぁ…」
母さんは呆れているが、俺も決めたら譲れない部分がある。
それを理解している親父達は揃って溜息を吐いていた。
「ちょっと待ってなさい」
しばらくして考え込んでいた母さんだったが、少しリビングを離れて何かを持ってすぐに戻ってきた。
「母さんの前の職場の部屋の鍵よ。場所は知ってるでしょ?」
「良いのか優花里?」
「仕方ないわよ。あそこなら理玖の学校からもそんなに離れてないし、それに毎日理玖がいるのなら管理も楽だし」
母さんの前の職場とは言っても、別に母さんは仕事を辞めたわけではない。
母さんの職業は漫画家だ。
単純に前の職場が手狭になったため今の職場に引っ越しただけなのだが、母さんが集めた資料が膨大な量だったため、全てを新たな職場に持っていくのが不可能だったのだ。
そこで前の職場は資料室兼倉庫として残していた。
引っ越しの手伝いや母さんに連れられて俺もその場所には何回か行った事がある。
勝手知ったる何とやらってやつだ。
「ほとんど使わなくなってはいたけど、まだ電気もガスも水道も、ライフラインは生かしてるから、必要なのは…通信回線、WiFiの工事くらいかしらね?」
なんかやたらとサービス過多じゃないか?
まさか通信回線とか言い出すとは思わなかったぞ?
俺がキョトンとしていると、その様子に気付いた母さんが苦笑を漏らす。
「理玖には私たちが至らないばかりに辛い決断をさせちゃったからね…これくらいの事はいいでしょ。ね?智さん」
「そうだな…本音を言えばお前が家を出るのは反対だ。だがお前が家にいる事で、心も身体も傷つきかねないというならそれも仕方無いのかもしれん…お前に負担を掛けさせてしまった俺達の詫びと思ってくれたらいい」
なんともまぁ…
我が親ながら、普通こんな無茶な要求聞いてくれないだろうに…
二人なりに俺のことを考えてくれたのだろうとここはありがたく思っておく。
そうと決まれば動くのは早い方がいいな。
「じゃあ早速だけど、アイツがいない今のうちに動くことにするよ」
「車を出そう。準備して来るといい」
「分かった。親父は車で待っててくれ」
そして俺はすぐ部屋に戻り手早く支度を済ませていく。
亜子から譲り受けたVRハードは悩んだ結果、いちおう持っていくことにした。
回線工事が終わるまではログイン出来ないけど、折を見てまた遊べばいいだろう。
「ごめん待たせた」
「忘れ物は無いか?じゃあ行くか」
そして俺は住み慣れた実家を後にして母さんの前の職場へと単身引っ越すことになったのだった。
割と理性的に見えますが、普通の高校生だったらこんな事考えませんよね…
所変わればって事でここは一つ大目に見てやってくださいませ!
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