私ときっかけ
「あきもそれ欲しいー」
「かんなもー」
うわあああんと大声で泣く秋人と環菜。まだ幼稚園児だった双子は、私の買ってもらったキラキラのシールセットを見つけてねだった。
「これは駄目!」
だって、これは私がママのお手伝いをして買ってもらったものなのに。2つしか入ってない、大きいキラキラシール。これが欲しくて頑張ったのに。
「ねえ、うるさいんだけど!」
おねえが怒って部屋から出てきた。この頃、おねえは中学受験を控えていてピリピリしていた。おねえの学年は荒れていたから私立を目指したかったんだ。
「何?シール?」
私がおねえに説明する。私が頑張ったご褒美のシールだからあげられないんだ、と。
でも
「シールならまた買ってもらってよ。あげないと泣き止まないんだから」
私は泣いて嫌がった。違うの、これがいいの。同じシールでも、それは私が頑張ったご褒美のシールじゃないの。嫌だ。やめて。
でも、それはハサミで2つに割られて、秋人と環菜の手に渡ってしまった。
「お姉ちゃんなんだから我慢してよ」
今度は私が大泣きしたために、この件はすぐにママの知るところになり、3人は怒られていた。特におねえは物凄く叱られたらしい。どうやら個別でお説教されたようで「あんたもお姉ちゃんなのに、眞菜にばかりそれを求めるのはおかしい」と言われたと、私が落ち着いた頃に謝りに来たときに教えてもらった。
ママからも謝られたけど、代わりのシールは断った。
解決した筈のその件が、とても根が深かったと判明したのは私の誕生日だった。
友達からもらったアイロンビーズで作られたコースターを、夕飯の時に使ったところ秋人と環菜が欲しがった。そして、私はあっさりと「いいよ」と答えた。
「それ、友達からのプレゼントじゃないの?」
そう聞くおねえに対し、私はこれまたあっさりと
「私はお姉ちゃんだから」
と答えたのだった。
その瞬間、おねえは真っ青になった後に泣きながら「ごめん」と繰り返し、弟妹は人のものをねだるなと叱られ、私はママと人から貰ったもの、大事なものは譲ってはいけないと約束した。
コースターをくれた瑛子と芽依にはどうやら説明つきでおねえが謝罪をしにいったらしく、弟妹の誕生日にはコースターを作ってプレゼントしてくれた。
あれから、二人は無闇にねだってくることは無くなった。しかし、薄れてしまった執着心はものだけでなく人間関係にまで及び、そんな私を見ておねえは申し訳なさそうな顔を少しするようになったのだった。