私と昼休み
「川崎」
4時間目も終わり、弁当の準備をしていると相原が来た。
何か用かと思って続く言葉を待つけど、何も言ってこない。
「…どうしたん?」
怪訝に思って聞いたその直後、いいタイミングで瑛子が来た。
「まなー。っと、邪魔した?」
「ああ、笹木か。まあちょっとね」
「正直だねー。でも、今日はうちらに譲って?」
「譲るも何も、約束してたんだろ?」
「まあね。悪いね」
「悪いと思うなら放課後譲ってよ」
相原の最後の言葉は瑛子でなく私を見て言った。
瑛子も何も言わず私を見ている。
「いいけど」
そう答えると、相原は初めて見る表情で笑って「またな」と去っていった。瑛子もなんだか安心したような顔をしている。
「相原を優先させなくてごめんね」
瑛子の言葉の意味が理解出来なくて、「え?」と聞いたが、瑛子は首を振って言った。
「なんでもない。芽依のクラスで食べよ」
「?うん」
私は弁当を持って芽依のクラスへ瑛子と行った。
ーーーーー
「まなちゃん、そんなんでいいの?!」
昨日、おねえに話したように何故オッケーしたか伝えると芽依が突然叫んだ。
「芽依、うるさいよ」
「だって、だって、えいちゃん!」
瑛子に窘められた芽依が顔を覆って泣き真似をする。
「いつかまなちゃんが悪い男に食べ散らかされちゃう!」
「そんな私チョロくないよ」
「その考えはチョロいんだよー!」
瑛子はおいおいと泣き真似を続ける芽依を「よしよし」とあやす。
「まあ、相原がいるうちは平気でしょ」
「相原だって男じゃんー!」
「でも、相原だし」
そう言った私に瑛子は苦笑して目を逸らす。芽依はガバッと顔を上げて指を私に突きつけた。
「ね?!」
「何さ」
「あー、うん、まあ」
瑛子は何か言いにくそうな顔をしてる。こういう時は優しい瑛子が言葉を選んでくれているときだ。こういう気配り心配りも瑛子の大人っぽさの理由なんだろう。
「相原と、眞菜はスタートラインが違うから。眞菜はまず、相原のことを知らなきゃ、ね?」
「ああ、なるほど…」
芽依は今の言葉に納得したように頷くと、また難しい顔をしてブツブツと「じゃあ、暫く見ておかなきゃ…」などと呟いていた。
私も瑛子に頷く。
確かに、私は相原のことで知っていることが少なすぎるのだ。さっきの「相原だし」という言葉も上っ面のものでしかない。
考え込む私の頭がポンと優しく叩かれる。
「眞菜は、眞菜のペースでいいんだよ」
瑛子が優しく笑ってそう言ってくれた。