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TIME!

作者: 尾無猫

「ちょっと!タイムタイム!」

授業中の体育館にクラスメイトの声が響く。


「時津さん、ちょっと抜けてて!」

 バスケットボールの授業中。あまりにも下手くそすぎる私はコートから除外される。


時津さや 高校2年生

 運動音痴で内向的。50m走なんて走りきるのがやっとだ。持久走なんてもってのほか。

 読書が趣味で休憩時間中はずっと読書、または机に突っ伏して眠る(フリ)


 しかし、その正体は容姿端麗、頭脳明晰、人望激アツ……というわけではない。普通(だと思いたい)だし、どちらかといえば頭は悪いし、友達いないし。


あぁぁ!

失敗だ!私は失敗したのだ!

高校デビューという名のオーディションに!

入学する前の休みを使ってありとあらゆるオシャレ!メイク!流行りのスウィーツに、イケメン俳優を調べ上げた私は完璧超人のはずだった!だったのに!


「古くなぁ〜い?」(笑)


 時間とは否が応でも進みゆくものだ。

それは流行も同じだった。最新の流行のチェックを怠った私は序盤はかなり快調な滑り出しだったものの、中盤から終盤にかけて徐々に劣勢を強いられ結果、今に至る。


この間入学からたった3ヶ月のことである。


ッハァーン!?陽キャだぁぁ?全然!ぜーんぜん羨ましくないもんねーーー!!!バーカバーカ!あんなやつらメディアに踊らされてるだけだもん!どーせくっだらねー流行に踊らされてるだけだもん!クタバの新作(はぁと)とかフンスタにあげてんだろ!誰も見てねーよ!オマエの投稿なんか!


なぁーんて思ってない思ってない。今の生活で満足だもんね。

登校中、誰も話しかけとかないから安全を心がけられるし。

休憩中、誰も話しかけてこないから休憩に集中できるし。

下校中、誰も話しかけてこないからよりたいお店にもよれるし!!!!


 ってのが一年前。2年生になった私はもはや完璧陰人。陰の住人といえばカッコよく思えるだろう。ドヤ。


 ……とまぁ強がってみるものの、自分には唯一誇れるものがある。それは「成績優秀」ということ!こんな私でも入学してから今に至るまで学年2位をキープ!学生の本分は勉強!ぷらぷら遊んでばっかりの陽キャなんかよりもよっぽど学生を全うしているのだ。


 え?どちらかといえば頭は悪い方なんじゃないかって?そう。私が学年2位であるのには種と仕掛けしかないのだ。えっへん。


「タイムリーパー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。直訳すれば「時間跳躍」ようは時間を自由に行き来できる人のことをいう。

 のだが、私はまさにその「タイムリーパー」なのだ!正確にいえば戻ることしかできないのだけれど。

あとはもう言わずとも、私がテストの内容を暗記し、前日に戻ってそこを集中的に勉強して高得点を叩き正しているなんてことはわかるだろう。

この力を得た経緯についてはまぁいろいろあったのだけれど、端折って説明すれば頭上に亀が降ってきて気絶したのち、気がつくとこの能力をゲットしていた。って感じだろう。

 それならなぜ高校デビューに失敗したのかって?100通りの選択肢を試した結果、全部現在と同じような結果に至ったからだよ。言わせんな。


 というわけで友達がいなかろうが、忘れ物を授業中に気付こうが、なーんにも私にダメージはないのだ。


とまぁそんなテンションでぶつくさ言ってると授業終了のチャイムが鳴る。

はぁ〜、やっとお昼だぁ。

 私はいつも学校の屋上で昼食をとる。なぜって、誰もいねーからだよ。冬は寒いし、夏は暑い。それを耐えてこそ諸行無常のボッチ飯だろうが。


 ガチャリ、扉を開く。いつもと変わらぬ学校の屋上。少し丘になっているところに学校があるため景色は最高だ。そのかわり登校は永遠の坂道地獄だけれど。山と海に囲まれていて、海の手前には街もある。この景色を独り占めできるのだからボッチは辞められない。


 が、その日は違った。中肉中背の、なかなか、いやかなりイケメンの…って、ゲッ……あいつ同級生の。そしていつも私を差し置いて学年1位に君臨する…風間くん…。

 彼もまた私と同じ陰の者ではあるのだけれど、私と違って好き好んでその道にいるというか…

彼はかなり「モテる」。のだが告白をOKされたというレディはいないとか。


 そんな彼は澄んだ目で、だけどもどこか悲しげな瞳で街の景色を眺めているようだった。

あの甘いフェイスとどこか悲しげでミステリアスな雰囲気、しかして学年一位という頭脳明晰さが、校内の女子を虜にするんだろうなぁ。


 なんて思いながらお母さん特性麻婆パンを味わう。一見、変な組み合わせではあるが麻婆の辛さをパンが中和してくれて食えるには食える。


 あれ、そういえば何か違和感を感じる。風間の顔ばかり見ていたから気がつかなかったけれど、腰ほどの高さのフェンスが……

風間よりも…手前……?

ってことは風間くんは……


「ちょっと!ちょっと!ちょっとォ!!」

危ない!そういって手を伸ばし風間の腕に触れ……


間に合わなかった。

 そのまま風間くんの身体は地面に吸い込まれるかのように地面へ。自然の法則に従って、重力に引き寄せられて。


 水風船を落としたような音が響く。

間違いなく即死だろう。


が、大丈夫。私は目を閉じる。



屋上の扉を開いたところまで!!


 目を開くと、私は扉の前まで戻っていた。

腕時計を確認すると、風間が落下する15分前に戻っていた。これが私の能力なのだ。


私は慌てて扉の蹴破る。


「早まるなァァァ!!」

バタァーン!!!


 驚いた様子でこちらを振り向く風間と目があった。風間は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。


 一瞬、瞬間、刹那、私はフェンスの前で落下する風間と目があった。風間はニッと笑ったあと再びいろいろまき散らしながら地面の激突した。


まさか!まさかまさかまさか!また扉の前に戻る。バッタァーン!!再び扉を荒々しく蹴破る

と豆が鳩鉄砲、間違えた鳩が豆鉄砲食らったような顔をする風間と目が合う。

やいなや、再び私はフェンスの前で風間の亡骸を見つめていた。


まさかまさかまさかまさか!!!!

再々、私は扉の前まで時間を巻き戻す!

ウォォォォォォ!!!!!バッタァーーン!!


問いただすのに一言も二言もいらない。


「「亀」」


「・・・」


「・・・」


「「お前もかァァァァァァァァァァ!!」」




「私が止めようとしてんだから死のうとしてんじゃねーよ!!せっかくこんな便利な能力持ってるのに!!」


「うるせぇ!!誰だオメー!」


何気ない一言が、時津さやの心を傷つける!!


「んだァァァァ!オラァァァァァ!」


「オァァァァァァ!!」


私が地面を蹴る。

風間も同様一歩踏み出す。


落下する風間がケラケラと嘲笑う。


「ハハハ!!バーカバーk!!」

と言い終わる前に地面と激突する。


 再々々度、扉の前まで時間を戻す。

バッカーン、扉の金具が壊れる音がする。

そんなこと気にもとめず、


「ッシャオラァァァ!」


「待て待て!」

風間がこの勢いを中断させる。


 しかし、運動音痴の私は一度走り出したら急には止まれない。


「なんで止めんだよ!ほっとけ!」


 その問いかけに答える間も無く、私はフェンスに対して前回りのような形で「ぐるん」とそのまま回転しながらクルクルとそのまま落下した。


「好きだからだよぉぉぉぉ……///」


 私も彼の魅力に惹かれた一人だった。

告白はおろか話しかけようなんて思いもしなかったけれど。

 言っちゃった。人生初の告白が学校の屋上から落下しながらなんて!もうお嫁に行k…!


そのまま花壇へ激突。好きな人に内臓を晒してしまった〜///


パッチリ。目を開くと気まずそうな顔で風間が私を見ていた。フェンスの奥で。


「あ、その」


「あ、アハハ。わ、忘れて忘れて〜アハハ」


「は、はぁ。そ、それじゃ僕はこれで。」

と言い残して風間は飛び降りる。


「はぁ〜い…///……って」

違う!止めないと!

と気づいた頃には風間は肉塊に。


 巻き戻して巻き戻されて。かれこれ5時間は経っているはずなのだけれど、無論日は落ちないどころか昼休憩はまだまだ続く。


 パチリ。目を開くと、クラスメイトの女の子が口を開く瞬間だった。



「ちょっと!タイm……!」


「ウォァァァァァァァァ!!」

「キャァァァァァァァァァ!」


 やりやがった!ここまで巻き戻すのはルール違反だろうが!いやルールなんてないけど!


「ちょ、ちょっと時津さん!どうし…っ」


 地面を蹴っ飛ばす。シューズがキュ!っと地面の擦れる音は不快だったけど、音より速く走る!!


体育館と校舎はグラウンドを挟んで対角にある。


「おおおおおおおおおお!!」

風間が落下するのが見える。


間に合う!受け止められる!!

手を広げ、風間の体を受け止めっ……


しまった!私は走り出すと止まれな……!!


 ゴチン。風間と私の頭が激突する。

ドクドクと血が流れる感覚がわかる。

というか落下する人間を受け止められるわけがないと気付いたのは死を確信してからだった。


薄眼を開けると、彼の寝顔…ではなく死に顔が見られてドキドキする。ドキドキしながら頭からドクドクと血が溢れる。


 二人とも死んでしまっては、もう巻き戻せない。これで、この無限ループは、円環は終わる。告白の答えが聞きたかった。勝機はないけどお互いの全てを、もとい内臓を見せ合った仲なわけだし。


意識が消える。


薄れゆく意識の中で声を聞く


「ちょっと!タイムタイム!」と


時間は踊る。捻れて、よれて、しかして伸びて。まだまだ踊る。時間がなくなるまで。

仲間を増やしながら。


私は私たちは再び目を、開く。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつもと違った感じで楽しかったです! どちらが諦めるのか、気になりますね……
2019/08/10 00:13 退会済み
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