第20話 バクはピンク
「あたしもよく覚えてないんだ。傘で何も見えなかったし」
「ほう、じゃ、何かが落ちて来て、それにボクがシューズバックごと飛び出してぶつかったと」
「そう。それであたしには当たらず、バクに当たっちゃったのよ」
「それで、あの傷ができたのか、シューズバックに」
「みたいね」
「悪いことしたな。アイリのバックなのに」
「とんでもないよ。命助けてもらったかも知れないんだから。あたし、ずーっとむくれてたし」
「いや、むくれて当然だ…」
アイリに『人じゃない』って言われたことは覚えている。勿論、俺はこの星の人ではないが、あれはそう言う意味じゃない。本質だ。俺は軍人なんだから命令には従わねばならない。命令に正しさの担保なんてついていない。だから無情であろうと命令には従うだろう。
しかし… バクは考え込んだ。
あの日の俺の失敗、友軍への攻撃。あれが命令だったら、俺は実行していたのだろうか。そりゃ実行していただろう。軍人だからな…
そう、あの日のその後の戦況は噂で聞いていた。γ飛行隊の同僚たちも捕獲戦車を撃った。ミスをしようがしまいが結果は同じ事だったのだ。つまりテイパー中尉が取った行動は結果的には正しかったのだが、テイパーが射撃した時点では捕獲戦車に敵性は認められてなかったということで判決は撤回されなかったのだ。
だが、俺のミスで良かったかもしれない。命令で友軍を撃つのではなく、自分のミスで撃ってしまった…こっちの方が良かったのかも知れない。結果、こんな羽目になっているけど、全て自分だけで背負い込むことができる。まだ人のままでいられる、そんな気がする。
「バク、ごめん。バクのミッションのこと、あたしがとやかく言うことじゃなかった」
「アイリ、結論は出すな。アイリは間違っちゃいない」
「だって…」
「結論を出せない事はたくさんあるし、出すべきじゃないこともたくさんある」
「うん…」
「目的地が解らない旅に出てるようなものなんだよ、生きるってのは」
「そうね、バクが来て益々解んなくなった」
「そりゃ悪かった。でも今日、アイリの心の多面体の一面がきれいに磨かれたんだよ。虹色に輝いてる」
「何よ、照れちゃうよ…」
「羨ましくもある。ボクなんて磨いても磨いても曇ってるさ」
「そんなことないと思う。あたし、知ってるもん」
「何を?」
「ヒミツよ」
「教えろよ」
「やだよ」
アイリはツバメの子のことを思い出した。帰り道の件があったお蔭か、幾分気持ちは和らいでいる。
ツバメちゃん、嫌にならないでまた生まれておいでね。今度は落ちないよう気をつけて。キミはバクに助けてもらう訳にいかないからね。でもさ、そのバクってさ、他人の悲しみ食べて時々泣いてるんだよ。ちょっと可笑しいでしょ。それがいいとこなんだけどね。アイリはバクの頭をそっと撫でた。
バクのマインドカラーはピンクに染まり続けている。




