第14話 マリーゴールド
季節はすっかり春、アイリは4月から3年生になった。いよいよ受験生なのだが、いまいち実感が湧いて来ない。幸いクラス分けではまた奈々と一緒になった。ラッキーだよ。勉強の神様だもんな。と言っても、部活やってるうちは受験なんてまだ他人事だわ。元来が楽観的なアイリは置かれた立場をさらっと流して、咲き誇る桜の花にチリンチリンとベルで挨拶をした。ネコがだるい顔をしてこっちを向く。長閑だなあ。間もなく自転車はアイリの母校の小学校近くに差しかかった。
ん?
小学生の女の子が二人、歩道の脇でしゃがんでいる。どうしたんだろ・・・。
アイリは自転車を停止させた。黄色い帽子を被った低学年と思しき女の子が二人、歩道内の花壇を見て泣いている。
「ねえ、どうしたの? 具合でも悪い?」
アイリは時間を気にしつつも小学生に声を掛けた。ショートヘアの一人が洟を啜りながら立ち上がった。
「とられちゃったの・・・」
「ん? 何を?」
「おはな・・・」
もう一人もしゃくりあげながらアイリの方を見て言った。
「あのね、ちゅーりっぷ、うえたの。きのうつぼみで、もうさきそうだったの・・・ しろとぴんくのかわいいおはな」
見ると土のところに掘り起こした跡が見える。なるほど、チューリップが咲いてるって持ってった奴がいるんだ。
この子たちが植えて大切にしていたに違いないチューリップ。毎朝楽しみに見ていたのが、やっと咲きそうになって、そうしたら、無残にも掘り起こされた。はっきり言って、これは窃盗だ。チューリップとこの子たちの優しい心を踏みにじって盗んでいった犯罪だよ。アイリにも怒りがふつふつと湧いて来た。
その時、前カゴのシューズバックが左右に振れた。くぐもった声が聞こえる。
「開けてくれー、アイリィー」
そうだ。春なのに閉めっぱだ。アイリはシューズバックのファスナーを開ける。すかさず中からバクが顔を出した。
「あのな、暗いのは平気だが辛い」
「何よそれ。真っ暗は平気ってずっと前威張ってたじゃん」
「平気だが今は辛い。何か漂ってくるんでな」
バクは鼻をヒクヒクさせる。。
二人の女の子は不思議そうにアイリを見ている。
「あ、ごめんね、はは、バク・・・じゃなくて、バックと喋っちゃった・・・」
アイリは誤魔化した。バクが口を挟んだ。
「アイリ。やっぱり悲しみに満ちてる」
そう言うとバクは口を開けパクパクし始めた。バクの目は少し潤んでいる。純粋な悲しみだもんね。
二人の女の子はポカンとしている。
そうだ!
アイリはいい事を思い出した。クリスマスイブに子ギツネのリンから貰ったプレゼント、そのまま持ってる筈…。アイリはスポーツバックのファスナーを開けると手を突っ込んで中を引っ掻き回す。
あった…。きっとこれだ。アイリがバックから手を抜くと、そこにはマリーゴールドの種パッケージが握られていた。
「ねえ、チューリップが抜かれたところに、これ植えてみたら? マリーゴールドっていうお花だよ。丁度今頃に蒔いて、7月頃に咲くって書いてある。黄色かオレンジのほら、こんなお花」
アイリはパッケージを二人に示した。二人はまだ涙が残る目でパッケージの写真を見た。
「かわいい」
「でしょ? こんもりしたお花だよ。ほら、麦わら帽子みたいって歌、流行ってるでしょ?」
「うん。しってる。なにみょんだっけ?」
「こーはく、でたんだよ」
二人は涙目のまますっかりはしゃいでいる。
「じゃ、これあげるからさ、先生にも聞いて、ここに植えてね」
二人は一斉に頷いた。
「ありがとうございます。おねえちゃん」
おっと、時間ヤバイ。
「じゃね」
アイリは二人に手を振ると自転車をスタートさせた。
「良かったよ、種持ってるの思い出して」
「悲しみの代わりに幸せの種を蒔くんだな」
「へえ、バクってなかなか詩人だねえ」
「うるせえ」
それきりバクは黙り込んだ。これって以前にアイリが授かった占星術のお告げにあった失せ物ではないのか。そうだとすると形が変わるというのも頷ける。アイリはそこまで気づいていまいが。
バク、大人しいな。
アイリは気になったが、時間はもっと気になる。アイリはケイデンスを上げて、校門に突入した。




