夜の徒然なるお話
※このお話はヒューマンドラマです。それっぽいお話です。バトル要素皆無です。ガールズトークです。※
「ツ、ツヴァイ先生って身請けされたんですかっ!?」
思わずガタンと椅子を揺らしながら立ち上がり、興奮気味にキュビが叫ぶ。……ただ、その顔は人身売買を許さんと鼻息荒くしている……訳でもなく、どちらかと言うと期待と興奮に頬を赤らめながら……と言う感じである。どうやら《知りたいお年頃》の御様子で、少しだけハァハァと息を荒げているかもしれない……。
「違う!旦那サ……エンリケ先生、キチンと賭けに勝った!!だから、景品のツヴァイ、エンリケ先生のモノ!!」
少しだけ真顔のツヴァイはそう言うと、エンリケの腕を掴んで心底嬉しそうに笑いつつ、
「……だから、ツヴァイ、エンリケといっしょ……♪」
口許を手で隠しながら、眼を細めてそう言うので、キュビは(……はいはーい
御馳走様でーす)と思うのでした……。
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「……あああぁ……お腹一杯!……幸せだなぁ~♪」
夜着に着替えてぷっくりと膨らんだお腹を満足げに撫でながら、ベッドの上に寝転がるキュビの姿をエミュは困ったような顔をしつつ、
「……淑女たるもの、ご飯のすぐ後にごろ寝しては……でも、もうちょっとだけ……♪」
同様に薄手の夜着になって、うつ伏せになりながら枕に顔を埋めて幸せそうにゴロゴロと左右に寝返りする彼女も……やっぱりお腹一杯。
……結局五人でツヴァイの手料理を夢中で食べるうちに辺りは夕闇に包まれていて、エンリケは「うぉっ!?もうこんな時間かよっ!?」と慌てた後、まぁ、仕方がないか……、と諦めたようだった。つまり、今日は一日目の夜……流れとしてはどんなことをするのか、の説明に終わった気がする(キュビは盾を持っただけである)。
「それにしても……エミュちゃん、エンリケ先生とツヴァイ先生って幾つなんだろ……?」
「はい?……そうですわね……ゴルダレオス王が今の位に着いたのが、今から五年前で、今は【そろそろお妃候補選びを!】と言われているそうですが……【大遠征】が二十歳位で……その頃の王様と同じ年頃だと仰っていらしたから……」
ふむふむと頷くキュビと向かい合いながら、エミュはちょこんとベッドに座って指を折りながらひぃ、ふぅ、みぃ……と概ねの歳を弾き出す。
「……三十路、越えてらっしゃいますね……たぶん」
「まじッ!?……見えないねぇ……あの二人は……」
はふん……と溜め息のキュビとエミュだったが、お互いの溜め息に気付いてお互いの顔を見合いながら、
「……もしかするとぉ~エミュってエンリケさんみたいなタイプ、好きになっちゃったりするの~!?」
「えっ!?……それは有りませんが……ただ、羨ましくて……」
エミュの告白に身を乗り出していたキュビは、話の風向きが変わったことを察知して、ベッドの上に起き上がると姿勢を正しながら座り直した。
「羨ましい?あの二人がラブラブなのが?」
「いえ、そうでは無くて……私は御二人がどんな状況でも、必ず二人で行動を共にしているのが……眩しくて、つい……」
「……エミュちゃんって、幾つ?」
「……私ですか?今年で十四歳ですが……」
「ふぅおぅっ!?……そ、そうなんだぁ~! ふむぅ……」
キュビの視線は枕を手に掴みながら、へその上辺りに押し付けているエミュの鎖骨から肩、そして襟元からその下まで観察する。
身長の差は余り無いが、「中身はともかく見た目は立派な子供」と祖父に言われてはケンカをしていた自分と比べても、圧倒的な破壊力を誇る彼女の体型につい溜め息が出てしまう……。
「……どうかなさいました?」
「……いや、才能や知力って中途半端に有ると身体成長の妨げになるのかなぁ、って……思っちゃって」
「そうでしょうか?……私はキュビさんの形の良いお尻が羨ましいですが……」
「ええええぇっ!?わわわわわわた私のお尻が羨ましいですとっ!?……あの、アッーー!!て感じの意味ですか……?」
「……何ですか?それ……?」
「……そっかなぁ……たまーに、ほんのたまーに、男のヒトの視線は感じる時もあったりなかったりだけど……」
「はい!私みたいな細くて薄い形よりも、キュビさんみたいな丸くて柔らかそうな形の方が……」
……そんな話で盛り上がりながら、ついつい夜遅くまで語り合ってしまうのは、若さ故なんでしょう。さて……そんなガールズトークで盛り上がる学校から幾つかの山や平原を越えた城下町。当然ながらその中心にあるお城の居室で、今夜もゴルダレオスは仕事に追われていました。
「……あと少し……あと少しで終わるぞ……へ、へへへ……ブラックだよ……ブラック王政だよ、ホント……」
意味不明な言葉を口にしながらゴルダレオスが積み上げた書類の山を、よいしょと持ち上げながらレミが【認証済み】の箱に納めて紐で縛り、
「おうさま!まぁそれなりにいつも通り遅くまで掛かりましたが終わりは近いですよ?」
「うん、何故か俺のやる気が軽く萎れる理由が、君なんだと今気付いたよ……」
そんな掛け合いも終わりになり、扉の外に待機していた従士達に箱を持ち出してもらう。手を振りながら彼らを見送ったレミは、居室に戻ると机の上にに倒れ込む死体(王)の脚を靴の先で突っつきながら、
「……おうさま?この優秀な美少女のレミが甲斐甲斐しく世話を焼き、発破を掛けているからこそ、貴方様の公務が日付を跨がずに終わるんですからね?」
……まるで王と小姓ではなく、仲の良い仲間のような口振りで話し掛ける。当然ながら他の誰かが居る時はこんな不遜な口調は控えているが、二人だけの時は【大遠征】の頃と変わらぬ態度で接しているのである。
「……知ってますー、優秀な美少女のレミ様がいらっしゃるから俺はゴルダレオスとしてー、公務を全う出来るんですー、有り難いですー」
「まーたそうやって拗ねる……昔から全然変わりませんね、おうさまは……」
言いながら侍女にお願いしていた湯編みの一式を手にすると、馴れた手付きで準備しながら彼の肩を叩き、
「ほら!汗かいてそのまま寝たら愚鈍なおうさまが、臭くて愚鈍なおうさまになっちゃいますよ!?……さっさと上、脱いでください!!」
「あーもう!一人で出来るから~!!……はいはい判りましたよ……」
渋る王だったが、レミの(手間掛けさせるんじゃねーよ、このノロマ!)的な視線に堪えきれず、仕方なく上半身を晒す。
その背中には特徴的な魔導の紋様が、羽根のように一対の形を成し、肩の際辺りまで刻印されていた。
ぎゅっ、と固く絞った綿布を広げながら、しかし優しくその背中を拭き上げていくレミの手は、ゆっくりと紋様に沿って動いていき、
「……これ、消えないの?おうさま……」
「……ん?ああ、【同胞の証し】かい?……消せるけど、肉まで削がないと消えないからなぁ……痛いの嫌いだし」
「……おうさま、私もこれ、欲しいよ……」
「……ダメだって、これはそんな良いモノじゃないよ……俺を燃料にして、エンリケとツヴァイの二人を外道に叩き落とす、最低人間の証拠なんだからさ……」
彼の言葉に手を停めたレミは、その紋様に額を押し付けて肩に手を置きながらもたれ掛かり、寂しげに呟く。
「おうさまのバカ……いつも《お前は俺の家族だ》って、言ってくれてたじゃんか……嘘つき……!」
「……ダメなものはダメだよ……【同胞の証し】は、術者の魔力を媒介にして離れた場所の仲間に強力な《付与魔導》を与える代わりに……その代償として、魂を共有する為に誰か一人が命を落とせば全員死ぬ……一歩間違えば共倒れなんだぞ?……お前は絶対にダメだ……」
「……知ってるよ、そんなの……でも、欲しいじゃん……《家族》なんだから……」
そんな押し問答をしながら、ゴルダレオスは俯いたまま、繰り返す。
「……絶対にダメだよ、君は俺が命に換えても守る、大切な家族なんだから……」
そう言いながら上着を纏うと、レミの頭を撫でながら、遅くなったが夕食にするぞ?と言って彼女の持つ湯編み道具を手に取ると、それを扉の外に待機していた侍女に手渡しながら扉の外へと彼女を促した。
「……おうさま、一人にしないでね?……約束だよ?」
手で目元を拭いながら、レミは気持ちを切り替える為にゴルダレオスのお尻を軽く蹴り上げた。
「イテッ!!……家族の王様の尻を蹴るとか信じられないんですけどッ!?」
「んふ♪こーゆーほうがおうさまは好きかな~、って思ったから!!」
いつも通りに戻った彼女の態度にホッとしつつ、ゴルダレオスはレミを従えながら廊下を進み、階段に向かって歩いていった。
ノリノリで書いてる俺って……そんな感じでゆっくりとお話は進みます。