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疑惑

書いたら意外と淡白になった気が……

 


 ソーテツにとっては、命の遣り取りと同じ位に馴染んだ追跡。単独で、しかも森林を進む対象は、当然の如く様々な痕跡を残して歩き続けている。


 下草を注視すれば進行方向に倒れ、枯れ木の枝を不注意に踏み折って新しい折れ目を残してくれる。追うことはおろか、追われることにも慣れていない相手に、ソーテツは苦笑いしてしまう。



 ……逃げるなら、ちゃんと逃げろって……これじゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その可能性もあるのか?としゃがみ込んで消えかけた足跡を暫く眺めながら、それを否定する。


 ……まぁ、例えそうだったとしても、相手は今のところ一人しか居ない。複数が潜伏していたとしても、こちらの姿を隠している限り驚異にはならない。


 ……さて、鬼が出るか蛇が出るか……?


 ソーテツは立ち上がると、先回りする為に迂回しながら速度を上げ、一陣の風の如く林の中を駆け抜けていった。



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「はぁ……はぁ……はぁ……、くっ!……こ、ここまで来れば……」


 重い足を引き摺りながら、エルゲンは(ようや)く戦闘区域から脱したろうと振り返り、追跡してくる者が居ないことを確かめてから安堵の吐息を()く。


 安堵し、歩き出そうとしたその瞬間、視界に見慣れぬ人影を目にして足が止まった。背の高い黒装束がたった一人、行く手を遮るように待ち構えていたのである。


「……だ、誰だ!?」


「……まぁまぁ落ち着けよ、誰だろうと構わないだろ?死にたくないから逃げ出して来たんだろうからさ……」


 男は飄々とした態度でエルゲンに言葉を投げ掛ける。手には武器らしき物は持っては居ない。だが、そう見えても油断するべきではない。死地から脱した今はどんなことがあるか予測出来ないのだから。


 腰に提げた片手剣を抜き、左手を肩の高さに上げて牽制しつつ、じり、と後退る。元来た方角に戻るべきか、それとも相手に斬り付けると見せ掛けて脇を抜けて進むべきか……暫し考えていた最中、相手は意外なことを言い出したのだ。



「……少しだけ、話をしないか?……こっちに害意はない」


 その黒装束は両手を肩まで挙げ、手に何も持たぬことを示しながらエルゲンに話し掛けてきたのだ。


「……話す事など何もない……どうせあんたもあいつらの仲間なんだろ?」


「……仲間……ねぇ……まぁ、そうかもしれないし、違うやもしれん。これだけははっきりさせておくとするか?……あんたの知ってる事を知りたい。……いやなに、正直に話せば……」




「……命だけは助けてやろう」



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……誰が信用するか!……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……まぁ、そういきり立つなよ……それに、俺は【エンリケ】が何をしてあんたをあそこから逃げ出すようにさせたのか、それが知りたいだけさ……それに、何で【エンリケ】の名前を知ってるんだ?……撒き餌をばら蒔いた時は奴は偽名を使って名前は伏せていた筈なんだがな」


 つい、口を滑らせたエルゲンはハッとして、己の失態に気付いて剣の切っ先を思わず下げてしまう。それを目敏く見抜いたソーテツは内心ほくそ笑みつつ、声に出ないよう気を使いつつ言葉を続けた。



「まぁ、それはともかく、聞くばかりでは交渉にならんだろう?……俺はソーテツ。縁有って彼と今は行動を共にしている。だが、知らぬ事が多いものでな。情報が欲しいんだよ」


 掌を挙げたまま、ソーテツは自分の方も少しだけでも話を繋ぐ為、手の内を晒して相手の出方を待った。


「……知らぬ事が多い……か。それは大変だな、相手があのエンリケじゃ、なぁ?……俺はエルゲン。今は盗賊紛いに身をやつしているが……元騎士だ……」


 エルゲンは一歩後ろに下がると、剣を抜いたまま話し始める。ソーテツは相手が自分の提案を受け入れたことを確認し、態度を改めることにした。それと共に、聞き慣れぬ単語を耳にし、まずはそれから確認することにした。


「……なんだそりゃ?……エンリケは、ゴルダレオス王の《二つの楯》の一人だったんだろう?」


「それは後になって民衆が付けた呼び名だ。第三王子を蹴落として王位継承権争いを始めた頃から、奴は人の皮を被って殺しまくってきたんだ……ッ!!」


 握り締めた剣を揺らしながら、言葉を続ける彼はそう言うと、苦しげに呻きつつ話す。


「……俺は、第一王子のアルグレアに仕えていた……いずれは王位を継いでこの国を統べる地位に就く器の持ち主だったことは間違いなかった……残忍な第二王子や、権力を得る為に手段を選ばなかった第三王子とは違い……知性や人を惹き付ける牽引力も兼ね備えていた。アルグレアに仕える事は……俺にとって誇らしい事だった……」


 暫し思い出に浸っていたのか、言葉を切って視線を漂わせていたエルゲンだったが、不意に感情を露にし、語気強く吐き捨てるように話し始める。



「……だが、エンリケは……ゴルダレオスは【互いに無用な争いを続けない】為、総力戦を挑んできた。それを受けて戦ったアルグレア軍は……全滅した」


「おいおいちょっと待て……ゴルダレオスに手勢なんて有ったのか?確か……【大遠征】ってのは《二つの楯》とゴルダレオスの三人だろ……ッ!?」


「……そのまさか、だったさ……勝てる筈の千人の兵隊とアルグレア王子は……その会戦で壊滅、少数の兵は戦場を脱出したが、アルグレア王子はそれきり帰ってこなかった……」


 そこまで話したエルゲンは力無く俯いたまま、ソーテツを見て告白する。


「……エンリケ、そしてツヴァイって二人は……人間じゃない。俺は見たんだ!!並みの人間の倍の背丈の怪物が、人をまるで藁人形のように千切り、握り潰す様を……間違いなく、あの場に居た奴はエンリケ、ツヴァイ、そしてゴルダレオスの三人だけだった!!」


 ソーテツは、自分が見てきた二人と、エルゲンが見たと言う怪物の姿を重ねてみようと試みたが、全く想像も付かなかった。エンリケは確かに常人離れしているが、それでも確かに人間である。ツヴァイとて神業の回避能力はあるが、ただそれだけだ。


「……あんた、見間違えてはいないよな?ゴルダレオスが鬼人(オーグ)でも連れていやしなかったか?」


「は、はは……そうだよな、あの場に居なけりゃ誰だってそうやって疑うさ……だがな、確かにあれはエンリケ、奴だった。あの帽子と、二枚の盾……そうだ、あの時は背中に青白く光る《翼》が見えてた……あれは、魔導の類いだろう、きっとな……」



 ソーテツはエルゲンの言葉を反芻しながら、彼から離れていった。驚異にはならないだろう敗残兵のエルゲンに、無駄な殺生をするつもりもない。


 代わりに彼の心を支配したのは、エンリケの本当の正体についてだけだった。




そんな訳で次回もお楽しみに!

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