外伝1 アリシアの気持ち
今回は外伝という形でのヒロイン視点です。
急いで書いたので誤字脱字、何より文章が拙いかもしれませんがリアルが落ち着き次第本文を弄りたいと思いますのでご了承下さい。
また文章が思ったより長くなったので1部2部に分けました。
その人は最初から不思議な人でした。
雨の匂いを感じてから程なくしてこの大岩へと訪れた男性。
その人はこの辺りの人とは根本的に顔の造りが違う幼い、どこか女の子を思わせる中性的な顔立ちでした。
余り男性の顔に対して何かを思う事はなかった私ですが、何故かその人の顔を見た途端胸がザワつきます。
一体何故なのでしょう?
自分で自分の事が分からなくなった私ですがすぐに平静を取り戻します。
心をコントロールすることに関しては小さい頃よりしてきたことなので得意でした。
一方未だこちらに気付いていなさそうなその男性は見たところ背丈は170センチ程ありそうな感じですが、その少女を思わせるような顔のせいであまり高いという印象は受けません。
そしてその人は何を思ったのかこちらへと近寄ってきたので私から声を掛けてみる事にします。
「あら、こんな場所に何か御用でしょうか。まぁ用があろうとなかろうとこんな場所に来ている時点で人生の大半を無駄にしているごく潰しのような人であることには変わりありませんけど」
と。
先に声を掛けたのは、私があなたと言う存在に気付いていますよ、という軽い警告を兼ねたものでした。
この大岩の穴は薄暗く、外から入ってきたであろうその人は恐らく私の姿はまだ見えていないでしょう。
ですが私からはよく見えます。
なので、相手の反応を探るため敢えて声を掛けるという形を取ったのです。
一見外見は無害そうに見えますが、子供のような容姿を活かして暗殺を生業とするような人達を幾人も見てきているので安心はできません。
しかし返ってきた反応は私の予想を裏切るような自分を殴る、というものでした。
一体何なのでしょうか。
本当に良く分からない人です。
そんな訝しがっている私に対してその男性は一度気を取り直すように軽く頭を振ると口を開きました。
「えっと・・・君はなんでこんなところでそんな格好してるの・・・かな」
いきなり自分を殴るという奇行をした人にしては真っ当な疑問です。
思ったより普通の人なのかもしれません。
今一人物像を良く掴めないので少し、挑発してみる事にします。
「むしろ私からお尋ねしたいですね変態さん。貴方はなぜこんな場所に来たんですか?暇なんですか死にますか?」
もし、害をなすような人間であるならばこれだけ無作法な物言いで言われれば恐らく行動に移すでしょう。
しかし、彼は私の暴言にも特に反応することなく普通に返してきました。
「んーと、俺がこの大岩に来た理由は雨宿りするためかな?あれ、雨宿りってこっちでも使う?合ってる?」
・・・やっぱりこの男性は良く分かりません。
先の私の物言いに本来なら逆上するなり、引くなりするのが普通だと思うのですが気にした様子もなく普通に返答してきた・・・と思いきや当たり前の事を聞いてきたのです。
・・・ちなみに決して、こんな刺々しい物言いが素なわけではないのですよ?本当ですよ?いえ、少しは本当ですけど。
そして。
それから暫くの間、彼がどういった人間なのかを図るため極めて実のないような会話をしていた私ですが不意にこの穴の入口の方に気配を感じます。
気配は3つ。魔力の質的人ではないですね。
そこまで瞬時に理解した私はその事を彼に言おうと口を開きます。
しかし、私が言葉を発するよりも早く3匹の来客の方が挨拶が早かったみたいです。
未だにその存在に気付いていない彼は一人喋っていましたがそんな彼の言葉に被せる様にその珍客が声を上げたのです。
「グルルッ・・・!」
それはベアウルフによるものでした。
ベアウルフがこんな穴の中に入ってくるのは非常に珍しい事でしょう。
恐らく、雨が降っている事に起因しているのでしょうけど。
私は今更この程度の魔物で狼狽えたりはしませんが、彼の方は違うようでした。
それなりに動揺した様子を見せた彼は何やら一人でぶつぶつと言っています。
まぁ見た目的に戦闘なんてしたことなさそうですし、少女のようなその顔からは強さやタフさといったような言葉は全くもって似合いませんのでそれも当然ではないでしょうか。
まぁ彼がどうであれ、これは私にとっても嬉しい出来事ではありませんでした。
私が普通の状態であれば敵ではないのですが今はこんな有様です。
襲われれば抵抗する事は出来ないでしょう。
なので一応彼に聞いてみる事にします。
「ふむ、ベアウルフですか・・・。こんなところにまで来るのは珍しいですね。・・・さてごく潰しの変態さん、唐突に聞くのはマナ―違反だとは思いますがそれでもお尋ねします。あなたのレベルは幾つくらいですか?」
それは万が一、万が一彼がこのベアウルフを倒せる・・・もしくは追い払えるだけのレベルがあればと思ってした質問でしたが返ってきたのは案の定―――
「えっと、1です・・・」
という、いえ、むしろ予想よりも低いレベルでした。
彼の格好が珍しかったのであわよくば特殊なクラスにでもついていてくれればとも思ったのですがどうも上手くいかないものです。
さて。
ともなればこれは中々にピンチな状況という事になるでしょうか?
恐らく私ここに封印していった男達も飢餓で死ぬか、こういった事態になって朽ち果てるかを狙ってやったのだとは思いますがまさかこんなに早く魔物が来てしまうとは。
そんな場面に出くわした彼も相当に運がないと言っても過言ではないでしょう。
・・・ふむ。
この時、私は実に私らしくない決断をしました。
それは。
「ふぅ・・・。恐らくそこにいる魔物はベアウルフという魔物です。こんな草原にいるくらいですからレベルは大したことないのでしょうがそれでもレベル1のあなたがどうにかできるような相手ではありません。ひじょーーーーに気は進みませんが、私が一瞬だけ奴らの気を引いてあげますからその隙に変態さんは逃げなさい」
今さっき会ったばかりのこの男性の事を守るような発言をしたのです。
それはあまり深く考えての発言ではありませんでした。
ですが、言葉はスラスラと出てきます。嫌味付きで。
言った後に私自身が驚きました。
何故私はこの男性を守ろうとしているのだろう、と。
でも不思議と嫌な気分ではありませんでした。
そんな私に対して何事かを考える様に俯いた彼は不意に私の方へと視線を向けました。
そして事もあろうかこんなことを言い始めたのです。
「でも、俺が逃げた後君はどうなるんだ?」
と。
レベル1で、恐らく魔物と戦闘もした事のないような彼がこんな状況にも関わらず真っ先に心配したのは私の事でした。
私の知っている人間というのは我が身が一番可愛いと思っている醜い生き物の筈です。
それは仕方のない事であり、そして事実であり、幾度も見てきた光景でした。
なので思わず彼の言葉に驚いてしまいます。
ですがすぐに感情を隠すよう無表情に戻ると私の事を心配してくれた彼を尚更死なせたくないと大きくなった思いに従い口を開きます。
「ふぅ。まさかレベル1の変態さんに私の心配をされるとは思いませんでした。ですがまぁ私は貴方よりも全然レベルが高いのでご心配なく。そんなことよりもあなたは自分が助かる事だけを考えなさい。いいですね?」
これは嘘でした。
確かに私はこのベアウルフ達よりも遥かにレベルは高いでしょう。
ですが、かといって攻撃されて少しもダメージを貰わないといえば噓になります。
少しのダメージも積もれば大きなダメージとなります。
一切抵抗のできない私は反撃することはできませんし、そのまま攻撃され続けられれば私という命は容易く奪われるでしょう。
ですが、いいのです。
物心ついてから今までひたすら人を殺めてきた私ですからこんな最後になるのは当然でしょう。
それに、最後の最後で守りたいと思えた人を救えるのならそんなに悪い最後ではないように思えます。
なので私に気にしないで行けという意を込めて彼を見ました。
そんな私の視線を受けた彼は、私の言葉を信じ逃げて延びてくれると・・・思ったのですが。
「嘘だな」
「いいですか?今から気を逸らさせるので走ってくださいね」と彼に言い放ち、ベアウルフ達の気を逸らすために自身の魔力を高めていた私に返ってきたのはそんな言葉でした。
私の逃げてくれという意を汲み取り真っ先に逃げ出してくれるだろうと思っていた私はそんな私の心を見透かしたような発言に再び驚愕してしまいます。
そしてその後ですぐに感情を表に出したことを後悔します。
何故なら、彼がそんな私の表情を見て確信したような様子を見せたから。
マズイです。非常にマズイです。
このまま彼に意固地になられたら私は結局何もできないまま彼の死を目にすることになるでしょう。
今まで何十人、下手をすれば何百人の死を見てきた私でしたが彼の死は見たくありませんでした。
なので私にしては珍しく感情が先に出てしまいます。
「何勝手に決めてるんですかッ。私は大丈夫だと言っているでしょう?レベル1程度の貴方が余計な事はしないでください。それに・・・貴方にとって私は今さっき出会ったばかりの他人でしょう?何故自分よりも他人を優先するんですか・・・?意味が分かりません」
そんな私を見た彼はあろうことかにこっと笑みを浮かべました。
こんな状況でなければ思わず可愛いと思ってしまうような笑みですが今はとてもそんな事は思えません。
むしろ不快ですらありました。
真剣な私を笑われたようで。
なので思わずムッとした表情を浮かべますが、彼は私が何かを言う前に口を開きました。
「優先するとか何だとかって話じゃなくてさ。俺が男で、君が女の子だから助ける!それだけだ!」
・・・意味が、分かりません。
私が今まで出会ってきた人たちと何もかもが違う。
そんな初めての出来事に私は混乱してしまいます。
ですが状況は私を待ってはくれませんでした。
私の方を向いた彼に向ってベアウルフ達が一斉に飛び掛かったのです。
それに気付いた私は「危ない!」と声を荒げようとしましたが・・・どうやら彼も気付いていたみたいです。
クルリ、とまるでダンスを思わせるような軽やかなターンを見せたと思えばそのまま振り向きざまに蹴りを放ちました。
するとその蹴りをモロに受けたベアウルフは凄まじい速度で吹っ飛んでいきます。
・・・私は夢でも見ているのでしょうか?
仮にもレベル1の・・・それも全く強者のそれを思わせないような彼が見せた今の動きはとても素人の動きには思えませんでした。
そして残りのベアウルフ達も私が唖然としている間に彼が片付けてしまいます。
全く以て信じられません。ですが、そんなあり得ないような光景に私の目は釘付けとなっていました。
―――――そうして程なくして。
信じられないような圧倒的な戦闘を終え、一息ついていた彼は何と『魔法解除』を教えてくれと私にお願いしてきました。
どうやら私に巻かれている鎖の呪術を解くつもりみたいです。
ですが話していて分かる通り彼は魔法というものを知らない全くの初心者でしょう。
そんな彼が私ですら解けないこの呪術を解けるとは思えません。
まぁ私を思って言ってくれた事に嬉しくは思いましたが。
それに加えて何故私にそこまでしてくれるのか?と尋ねた私に彼は「可愛い女の子だから」と言ってくれました。
・・・おかしいです。勝手に頬が熱くなり胸が高鳴ります。何なのでしょう、これは。
そんな体験したことのない、不可解な現象を経験した後、結局私は彼に魔法解除を教える事になります。
決して、私を思っての彼の行動が嬉しかったからというわけではありませんよ?本当ですよ?
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