後日譚 「少しだけ大胆になって」
付録
凪沙の父親は帰ってきてすぐに、またどこかへ行ってしまった。
だからその夜も少女は、春香の家に泊めてもらった。
「ハルくん……起きてる?」
深夜、ノックもせずに、春香の部屋へそっと入り込む。
電気は消えていて、物音ひとつしない。
部屋の中央には布団が敷かれていて、そこには少年が横になっている。
窓から月明かりが差していて、少年の顔が照らされている。凪沙はそっと近づいて、その寝顔を見つめていた。
「ハルくん」
空気を読んで告白しようとしても、大切なときに限って邪魔が入る。
先日は化け物に襲われたり、クラスメイトに見られていた。
つい数時間前に二人っきりになったタイミングでは、告白しようとしたらマナーモードにしてなかった携帯電話が、大きな音で鳴ってしまった。
(添い寝するくらいなら……)
凪沙は少年を起さないように、布団の中へ潜り込む。
(朝起きて、ハルくんが私に気付いたら、少しくらいドキドキしてくれるかな?)
背中に手を当てて、寄り添うように横になる。
「暖かい……」
そう呟いてすぐに、凪沙は安心感に包まれながら、眠りに落ちていた。
(柔らかい……?)
春香が目を覚ますと、腕に軟らかいモノが巻きついている感覚がした。
「え?」
ふわりと良い香りがして、その方向に顔を向けると、近くに目を閉じている凪沙がいた。
「ん……」
すこし開いた唇が、春香が動くのに合わせて微かに、色っぽい声をあげる。
寝息を立てながら、春香の腕にしがみついて離れない凪沙を見て、胸が締め付けられるような、甘酸っぱい気持ちが湧き上がってくる。
(どうすればいいんだ?)
それでも、緊張してしまって春香は動けなくなった。
しばらく寝顔を見つめていると、設定してあったアラームが鳴り、その音で凪沙が目を覚ましてしまう。
「んぅ……ハルくん……おはよう……」
のそのそ起き上がる凪沙は、目を擦りながら体を起す。
「……」
春香が反応できずにいると、少しぼーっとした顔で部屋を出ていき、混乱した春香を取り残して一日を始めていく。
「これ、どういう状況……?」
朝起きたら、布団の中に女の子がいた。
そんな羨ましい状況にも関わらず、春香は思考が停止してしまい、しばらく動けないでいた。