プロローグ 怖がりな私と、強気な彼女
「裏野ドリームランド」って、知ってるかしら?
とある県の都市から少し外れた場所にあるテーマランドなのだけれど、ここは有名地なの。
アトラクションが凄いから? 素敵な期間限定イベントをしているから? 景色が良いから? 人気な漫画とかとコラボしてるから?
……答えは全部ノーよ。
その「裏野ドリームランド」は、マニアに人気なの。『廃墟マニア』と呼ばれる者達に。
わざわざ忍び込んでは、栄えていた場所が衰退した雰囲気を楽しむんですって。そこに、儚さや美しさを感じるそうよ。
私には、全くもってわからない趣向だわ!
儚さを感じたいなら、夏らしい打ちあがる花火を見上げればいいの。四季折々《しきおりおり》の咲き誇った花を見れば、美しさを愛でることなんて充分。
だけど、好みは人それぞれ。私が何を言ったって、廃墟マニアの人は「裏野ドリームランド」に意義を見出すみたい。
物好きとしか、言えないわ。
…………そして、そんな物好きの仲間入りを、私もこの度果たすことになるみたい。
✤✤✤
「ねぇ、瑞季。本気でここに入るつもり?」
「当ったり前! ここまで来たんだから、行くしかないでしょ!」
横を見れば、鼻息を荒くして宣言する幼なじみが一人。
私の十年来の友人の松岡瑞季が握りこぶしを掲げてそう意気込みを言ってるわ。……元気なのは彼女の取り柄だけれど、今回ばかりは勘弁してほしいのに。
思えば小学生時代に彼女と友人になってから、振り回されてばかりね。
「アタリ棒のガリガリ君が見たい」と言い出しては大量買いしたアイスの消費に付き合わされたり(この後見事二人とも腹を壊したわ)。ホタルがいたらしいから、山に行こうと誘われたり(遭難しかけた時は命の危機を感じたものよ)。
……今思い返しても、ロクなことがないわね。
今挙げた二つなんて、序の口。彼女に巻き込まれて、他にも色々な事を体験したわ。
走馬燈のように鮮やかに思い出せるけど、差し迫ってじゃない限りはその記憶を掘り起こしたくはないから置いておくことにしようかしら。
そしていっつも、言い出しっぺの彼女はケロッとしてて最後に倒れるのは私のほう。納得できないわよ。
最近だと、彼女の家族も「私がついてるから平気ね」なんて諦めが入っているわ。なんでも、私がいない時のほうが、彼女の暴走が激しいみたい。ナニソレ怖いわよ!
でも、何が悲しくて高校生にもなって夜の廃園になった遊園地に侵入する羽目になってるのかしら。
わけを聞いても瑞季ってば、はぐらかして教えてくれないし。
暗闇の中で携えた特大の懐中電灯を振り回して、瑞季は気合十分みたい。って、ちょっとやめてちょうだい。
夏に夜に明かりをむやみに振りまいたら、蛾が寄ってくるじゃない。虫よけスプレーはしてるけど、奴らには効果なんてないのよ。もしも顔面に飛んで来たりなんかしたら、悲鳴を上げるわよ!?
「なに? 薫ちゃん。怖いの?」
「いえ、この状況で怖くない人なんていないわよね?」
あ、いたわね。奇特な廃墟マニアの方々が。
でも私と彼女は、その趣味を持つ人間にはあてはまらないはずよ。
……むしろ、何故あなたはちっとも怖がっていないのかしら。そのほうが不思議よね。
能天気だから、恐怖なんて感情持ち合わせていないの?
持ち前の明るさは美徳だけれど、こんなところに来てまで本領を発揮しなくてもいいんじゃないかしら。二人で家に帰りましょうよ。
でも、それは無理よねぇ。瑞季ってば、昔っから頑固で一度決めたら絶対にゆずらないんだもの。
私の心労なんて知りもしない彼女は、得意満面の笑顔で懐中電灯を握ってない方の手でドンと自身の胸を叩いてる。
女の子なんだから、そんな所作はやめなさい。身長の代わりに栄養が行き届いてる胸が揺れて、目に毒よ。
「だいじょーぶ! 薫ちゃんは私が守るから。幽霊でもお化けでも、どんと来ーい!」
「……頼もしいことね」
そしてわかっているかしら。幽霊もお化けも同じよ。
ため息を吐き出しながら相槌を打ったら、「でしょ!」なんて満足そうに頷いてる。嫌味が通じないっていうのもわかってるけど、言わなきゃやっていられないわ。本当に困った子よね。
「さ、行こ! 薫ちゃん」
「はいはい」
鼻息混じりに足を進める彼女の後についていくのは、目を離すと心配だから。すっっっごく、行きたくないけれどね!
私達が通った入り口のゲート上には、「裏野ドリームランド」なんて文字がある。
こうして私と瑞季は、寂れた遊園地「裏野ドリームランド」に入園することになったの。
紹介が遅れたわね。
私の名前は薫。田中薫よ。苗字については「平凡すぎてつまらない」なんて突っ込まないでちょうだい。
趣味は手芸に料理。最近だと、タルティングレース作りとマカロン作りにハマっているわ。
――花も恥じらう17歳の高校生男子よ。
どうも、ごきげんよう。梅津です。
「怖いけど怖くないホラー」が始まりました。
今小説は「夏のホラー2017」に参加予定の物です。他の参加者の皆さんが真面目にホラーを書かれているのに、この小説の異色な方向性ときたら。
企画最終日まで終わりまで書けるかは自信がないですが、失踪だけはしませんのでご安心を。連載は完結させます。
次回は31日(月)1時に投稿予定です。今回は説明導入のみでしたが、次からはホラー要素が入ってきます。……壊されますけどね!
それでは次回も。よろしくお願いします!