呼び出されて異世界
窓が光った気がする。
高校生活ってやつは漫画やアニメのように毎日がはちゃめちゃになるわけでなく、登校して授業を受け、時間になったら帰り、また次の日になったら登校するという至極単調な毎日なんだ。
そをやな毎日に変化をもたらすのはイベント事な訳だが、今の俺はその中でも特に大きなイベントを真っ最中だ。
そう、高校生活の中でも一度しかない修学旅行というイベントだ。
修学旅行ってやつは青春の1ページを彩る上では特に欠かせない訳だが、それは何もリア充だけじゃない。
確かにリア充なら彼女といちゃいちゃしながら旅の思い出ってやつを楽しむのだろう。大いに結構。気にくわないがね。
しかし、非リアにだって楽しみ方がある訳だ。
非リア同士で集まってワイワイやるのだって修学旅行の醍醐味だ。俺には彼女はいないが話し相手くらいはいる。
なんだかんだ面倒くさいだのなんだの言いながら話す内容は、いつもとなんら変わらなくてもシチュエーションが違うだけで人間簡単に楽しめたりするもんさ。
さて、そんな修学旅行に向かうバスの中、当然ながら最後列はリア充に取られているので真ん中辺りの窓際を選んで座った訳だが、窓から見える様子がおかしい。
景色ではない、様子だ。窓から見えるのは高速道路の防音壁でもトンネルでも、ましてや青々とした山々でもなくひたすら光しか見えない。
「おい、なんか窓光ってんぞ!」
最後列に座るリア充グループの中でも特に声のでかい青木が感づくと今まで話しに夢中だった者や窓の外を見ていなかった者達も窓の外へ興味が移る。
「なんだこれ、なんも見えないじゃん!」
「意味分かんねぇぞ!」
「なんか漫画みたいだな」
バスの中で各々の見た感想を声に出すクラスメート達。もちろん、俺も何も思わなかった訳じゃない。隣の席に座る小川くんにとりあえず話しかける。
「なぁ、小川くん。この光が止んだら俺と昼飯にしないか?」
我ながら見事に決まったと思う。
「いや、意味分からないから。あと、滑ってるよ」
小川くんの冷静なツッコミが冴え渡る。面白さに自信あったんだがなぁ…おかしいなぁ…。
そんなやりとりはともかくとして、事態は深刻なことになっていた。運転手、そして担任がいないことに気づいたのだ。
涙ぐむ女子やそれを慰める者、窓からの光への興味にそれどころではない者という感じで大まかに分かれているようにみえる。
ふと周りを見てみるとリア充グループ達のところにとある人物が目に入る。
彼は確か九条くんだったか。リア充グループにいるものの物静かな雰囲気であり、あまり目立たないのだが何故かこの時はたまたま目に付いたんだ。
彼は周りの喧騒を他所にいつも通り落ち着いていた。それだけならいつもと変わらないんだな、で終わる話しなんだが、今回は違った。
彼は落ち着いてはいるがいつもは無表情なのに微かに笑顔が見えた。
そんな時、今まで何故か動いていたバスが止まり、ドアが1人でに開いた。
「ドアが開いたぞ。とりあえず出て見ないか?」
青木や九条くんも含めたリア充グループがドアから降りていく。それにつられて不安がっていた者からバスを降りていく。もちろん、俺も降りるしかなかったから降りた。……間違っても不安だからじゃないし誰かが降りるのを待っていたわけじゃない。
全員がバスを降りた時、それまで光の中でも視界は良好だったのに突然一際光が強くなり思わず目を瞑る。
光が止んだ時、俺たちは他のバスの奴らと共に見た事もないほど豪華な空間と玉座に座る恰幅のいいおじさんが見えた。