ゆうなちゃんとクリスマスツリー(ゆうなちゃんシリーズX'mas特別篇
もうすぐクリスマス。ゆうなちゃんの家にもクリスマスツリーがやってきました。パパが買ってきてくれた本物の木の立派なツリーです。さっそくパパやママと一緒に飾り付け、赤・青・黄色、緑にピンク、いろんな色のまあるい玉や四角い箱をぶら下げて、金ぴかに縁取りされた真っ赤なリボンも付けました。最後にパパが金色に輝くお星さまをツリーのてっぺんに取り付けて完成です。ゆうなちゃんは思わず「わあ」と声をあげ、あんまり嬉しかったのでピョンピョンと跳ねてしまいました。
するとママが顎に手を当てていいました。
「ちょっと飾りが少なかったかしら。寂しい感じがしない?」
「そうかなあ。こんなもんじゃない?」
パパは少し後ろに下がってツリーの出来を見定めます。
ゆうなちゃんも顎に手を当て、少し首を傾げると、気取った感じでママの真似をしました。
「うん、少し寂しいかもね」
するとツリーが本当に寂し気な表情をしているように見えてきて、ゆうなちゃんは胸の辺りがちくりとしました。
お出かけから帰ってくると、ゆうなちゃんは決まってクリスマスツリーを見に行きます。この前は、ついママの真似をして寂しいなんていっちゃったけど、ほんとはとっても素敵に思っています。ゆうなちゃんはツリーがとっても大好きでした。今日もママとのお買い物から帰るなり、うがい手洗いを大急ぎで済ませ、ツリーの前に立って沢山ぶら下がっているきれいな飾りや金色のお星さまをうっとりと見上げていました。そのときです、ツリーの根元の方からカサカサ、カサカサと小さな音が聞こえてきました。『おや?なにかしら』不思議に思い見つめていると、ツリーの一番下のほうの長い枝をかき分けるように小さな、とてもちいさな人の形をしたものがひょっこりと顔を出しました。頭にはこれまた小さなとんがり帽を被っています。
「あっ!」
ゆうなちゃんが思わず声を上げると、こびとは口に人差し指を当てて小さな声でいいました。
「しーっ! 大きな声を出さないで。人に見つかったら大変だ」
ゆうなちゃんは両手で口を押さえると、こくこくとうなずきました。
「脅かしてごめんね。ぼくはアビイ、森の妖精なんだ」
「わたしはゆうな、よろしくねアビイ」
「こちらこそ、ゆうなちゃん。ところで大人の人はいない? 大丈夫かな?」
ゆうなちゃんは耳をすませました。すると、キッチンでママが買ってきたものを冷蔵庫や棚にしまっている音が聞こえます。
「うん、ママがいるけどしばらくキッチンから来ないと思う。大丈夫だよ」
「よかった、それなら安心だ」
「ねえアビイ。あなたはどうしてそんなところに隠れているの? いつからそこにいたの?」
「それがねえ、ゆうなちゃん。困ったことにぼくは連れてこられてしまったんだ」
「まあ、たいへん。どうして?」
「ぼくは森の妖精だから、森に生えている木の枝に寝転んだりぶら下がったりして暮らしているんだ。ところがある日、仲間たちとかくれんぼをして遊んでいた時のことさ、ぼくは小さなこの木の中に隠れていたんだ、すると人間の男の人がやって来て木を切り倒すと運んで行ってしまった、とうぜん中で幹にしがみついているぼくも一緒。そうしてこの家にやって来たってわけさ」
「かわいそう。それなら森に帰りたいでしょう? 帰れないの?」
「なにか乗り物があれば帰れるんだけど……」
アビイは頭を突き出して部屋のなかをきょろきょろと見回しました。そうして指を差して嬉しそうにいいました。
「ああ、あれがいい。あれならちょうど良さそうだ」
ゆうなちゃんがそちらを見ると、そこにはゆうなちゃんが描いた一枚の絵が壁に貼られていました。トナカイにひかれたそりに乗るサンタクロースの絵です。
「ねえ、ゆうなちゃん。あの絵をぼくにくれないかな。あれに乗ればあっという間に森まで飛んで帰れそうだ」
「いいけれど、どうすればいいのかしら?」
「あの絵をこの木の根元に置いておいてくれればいいよ。あとはこちらでなんとかするから」
「分かったわ。ここに置いておけばいいのね」
そのときです、廊下をこちらにやって来るママの足音が聞こえました。
「いけない、見つかっちゃう。それじゃあね、ゆうなちゃん。あとはよろしく頼んだよ。お礼はきっとするからね」
早口にそれだけいうと、アビイは姿を枝の中に引っ込めてしまいました。そして入れ替わるようにママが部屋に入って来ました
「ねえ、ママ。あの絵をとってちょうだい」
「あら外しちゃうの? よく描けてるのに」
「うん、ツリーといっしょに飾ったらもっと素敵になると思うの」
「それはいいかもね。ちょっと待っててね」
ママに取ってもらった絵をゆうなちゃんはツリーの根元に立てかけるように置きました。そのとき小声でツリーの枝の中に向かって「がんばってね」と囁くのも忘れませんでした。
次の日の朝、ゆうなちゃんがツリーを見に行くと、サンタクロースとそりの絵はそのままそこにありました。絵の中の、トナカイもそりもサンタクロースも昨日と同じままです。
『だめだったのかなあ。アビイは森へ帰れなかったのかしら』
がっかりした気持ちになって絵を手にして眺めていましたが、ふとおかしなことに気がつきました。
『あれ? なにかおかしいわ』
なんでしょう。なにがおかしいのでしょう。ゆうなちゃんはじっと絵を見つめます。すみからすみまで調べます。そうして、やっと気がつきました。
「あっ、いない!トナカイが一頭消えてるわ!」
そうです、4頭描いてあったはずのトナカイが3頭しかいないのです。『いち、にい、さん』何度数えても足りません。
「トナカイに乗って帰ったのね。よかった」
ゆうなちゃんは嬉しくてたまらなくなって、両腕で絵をぎゅっと抱えてしまいました。そして、サンタクロースとそりの絵はまたツリーの根元に飾っておくことにしました。
クリスマスイブになりました。ゆうなちゃんとママはお買い物から帰ってきたところです。今夜はごちそうですからママは両手いっぱいに荷物を抱え、ゆうなちゃんも両手でケーキを抱えてお手伝い。家に着くと、今日は早くに帰っていたパパが玄関でニコニコしながら待っていました。
「おかえり。ゆうな、ちょっと来てごらん」
「なあに?」
パパのあとをついて行ったゆうなちゃんは、クリスマスツリーを見て、目をまん丸くして驚いてしまいました。上から下までピカピカと光るライトが付いていて、おまけに金色と銀色のキラキラしているモールがグルグルと巻かれていてライトの光を受けて輝いていたからです。まるで夢のような光景にゆうなちゃんは息が止まるような思いです。胸がどきどきしています。
「すてき……これ、パパがやったの?」
「さあ? 帰ったらこうなってたんだよ。サンタさんがやってくれたのかなあ」
パパはとっておきの笑顔でゆうなちゃんの頭を撫でました。
『あ、もしかして……これってアビイの贈り物かしら』
ゆうなちゃんはうっとりとクリスマスツリーを見つめながら、パパの足にぎゅっと抱きつきました。