冒険者ギルド
冒険者ギルドの看板が掛かった木造建ての建物の一階。
受付カウンターに腰掛けてうとうとしている二十代半ばの女性が、頬杖を着いて座っていた。
「今日も平和ね」
彼女は、欠伸を噛み殺し、綺麗な青い瞳の端に大粒の涙を溜めている。
腰まで伸ばした癖のない金髪の髪が印象的な彼女は、容姿端麗だが、普段から若干やる気の無さがその美的要素に下方修正が余儀なくされた。
それも仕方がないことといえる。
このギルドに来る人間は、ほとんどいない。
この国の王都から最南部にあるギルド支部を、定期的に利用する冒険者は限りなく少ない。
もともと在中しているボポ村の人口が100人前後なので冒険者の数も少ない。
少ないというか正直一人しかいない。近辺にある他の村に住む冒険者や、通りがかる冒険者が不定期に利用する事もあるが、滅多にない。要するに暇なのだ。
そんな退屈を持て余していたとき、突然入口の扉が開き呼鈴が音を奏でた。
彼女は視線を走らせ訪れた来訪者に目を合わせると笑顔で迎える。
黒髪にトパーズ色の瞳を持つ少年だ。
「こんにちはコガネ君、二日振りね」
そこにはコガネと呼ばれる軽装の革鎧に身を包んだ少年が立っていた。
背中には弓と弓筒を背負い、腰裏には使い古されたダガーが吊るされている。
その全ての装備がお古であることを彼女は知っていた。
前の持ち主は、この村一の猟師のものだ。
それも前までの話。
その猟師は、病気で去年に他界している。
少なからず彼の事情を知っている彼女は、少年のことを気に掛けていた。
だから会う度に冒険者としてのアドバイスを口酸っぱく伝えた。駆け出しのルーキーの死亡率は、非常に高いので大事なことだと言い聞かせて。
そんな彼だが今日は一段と砂や泥であっちこっち汚れている。
よく見ると緑色の液体が付着しているところから、どうやら何かをやらかしたようだ。
外傷は見当たらないので心中で胸を撫で下ろす。
「ノノキノさん、こんにちは」
彼は、疲れた声で挨拶を返し、彼女が待つカウンターへと足を進める。
「今日はどのようなご用件ですか?」
業務文句を悪戯気に口にする彼女は、少年に優しく話しかけると彼もまたオドオドしながら手に持つズサ袋から、収穫物を取り出した。
「クエストアイテムの換金とカードの更新をお願いします」
カウンターに置かれたラビットキャットの皮をノノキノは確認して引き取る。
「クエストアイテムね。確かにラビットキャットの皮を受け取ったわ」
カウンターの引き出しから代金を取り出すとそれをコガネに渡す。
「報酬金は、張り紙にあった通り小銀貨1枚と銅貨3枚ね。はい、どうぞ」
コガネは硬貨を受け取るとそれを懐にしまって代わりにカードを取り出す。
そのカードを見て彼女は微笑む。
「じゃ、貢献ポイントを加算する為にステータスカードを更新するわね」
貢献ポイントとは、ギルドが発注しているクエストなどを完遂すると得られる評価点であり、冒険者のランクアップに必要になる。ランクが上がると様々な恩恵を受けれたり、良い仕事を回してもらえたりする。
ちなみにコガネは、一番下のFランク。駆け出しの冒険者だ。
「はい、お願いします」
そういうとコガネは、ノノキノにステータスカードを渡した。
彼女は、それを受け取るとクリスタルポーターと呼ばれる三脚台の上に水晶玉が置かれた魔法装置に近付ける。
すると水晶玉とカードが惹かれ合うようにうっすら青白く輝き、カードに書かれた数字か上書きされていく。
まじまじと彼女が更新された数値を確認してクスリと笑った。
「LVアップおめでとう、コガネ君、これであなたもLV3の冒険者ね」
コガネは、カードを返してもらうとまじまじと更新されたカードを見つめた。
「本当だLVが上がってる。やった!」
まじまじとカードを見詰める少年の瞳が、少し涙ぐんでいるのが彼らしい。
「ラビットキャット一匹じゃ上がらないでしょ? なにを他に狩ったの?」
クリスタルポーターの追加機能を使えば討伐したモンスターの詳細を知ることができるが、それは討伐クエストを達成してきた冒険者の確認時に使用する機能であり、無闇に使っていいものではない。
だからノノキノは、素直にコガネに聞いたのだ。
「それが……ゴブリンと鉢合わせしちゃって……」
コガネは小さい声で応えて引きつった笑みを浮かべた。
これはマズイと彼は悟るだろう。
単独でゴブリンとヤるには早いと釘を刺されていたからだ。
彼女は笑っていたが口角がヒクヒクしているのが見て取れた。
ああ、長いお説教タイムが始まるなと察して彼は先に口を開く。
「……ごめんなさい」