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傘の中

作者: 手影キツネ

「先輩って確か家庭教師のバイトをしていましたよね ?」

ある日、本を読んでいると後輩Aから声をかけられた。

「時給が良いんで、やろうと思っているんっすけど、何か心得とかあるっすか ?」

「ん〜。 心得というのかわからないけど、気をつけるべきことはあるよ」



私は昔から、いざという時は運が良い。

だからこれは「私」が家庭教師のアルバイトをしていたときの話だ。


それは初めて訪問する家庭教師のアルバイト先での事。

その日はじめじめとしていて、今にも雨が降りそうな天気だった。

地図を見ながら向かうと、アルバイト先は純日本家屋といった外観の家だった。新興住宅地といった外観の家が集まっている中で一つだけそんな見た目をしていたから、いやに目立っていたのをよく覚えている。

玄関のチャイムを鳴らすと家の奥から声がした。

「こんにちは。家庭教師の方ですね」

奥から現れたのは、ニコニコとして人の良さげな奥さんだった。

「はい。よろしくお願いします」

奥の部屋に連れられていくと、中学生ぐらいの男の子がいた。

この子に勉強を教えるらしい。


ところで、家庭教師先にはランクがある。

家庭教師先の人柄は良いか、部屋が綺麗か、空調は効いているか、飲み物は出てくるか。

さらに美味しいお菓子が出てくるようなら、凄く良い所だ。

噂で聞く、『第一志望校に合格させたら大金をくれた』なんていう所に当たったら最高ランク以上だろう。


それで言うと、そのアルバイト先はなかなかの環境だったと言える。

「どうぞ」と言って出されたのは、ジュースとケーキだった。

「有難うございます」

ジュースに手を伸ばし、少し飲む。

奥さんはニコニコしながらそれを眺め、私がほんの少しで飲むのをやめたのを見ると

「おかわりはたくさんあるんで、どんどん飲んでくださいね」と言った。

「ありがとうございます。だけど、口内炎が痛くてあまり飲めないんです。すみません」

そう言って断ると、奥さんは酷く残念そうな顔をした。


その日の家庭教師の授業が終わると辺りはもう暗くなっており雨も降っていた。

私は真っ黒な傘を差し、見送られて帰路に就いた。

大通りを真っ直ぐ進み、細い分かれ道を曲がってすぐの電柱の傍で水筒を出しうがいをした後、酷く乾いたのどを潤す。家の中では飲めなかったのだ。

出されたジュースを飲んだ時、ジュース以外の味がした。慌てて飲むのを止め口内炎だと偽ったのだった。

電柱のそばで休憩してると、ぴちゃっ。ぴちゃっ。と二つの足音が耳に届いた。

電柱の陰から覗くと、大通りを先ほど家庭教師として行った家庭の奥さんと子供が歩いていた。

「せっかくのご馳走だったのに逃しちゃったね」

「飲み物の量が少なかったのね。薬が回りきらなかったわ」

「次来た時は逃がさないようにしなきゃ」

そう言って話す2人の頭と傘の隙間からは、尖ったツノがチラリと見えた。



「家の中と言うのはその家の持ち主のテリトリーなんだ。だけど家庭教師と言うのは、そのテリトリーの中に入らなくてはいけない。

だからね。ちゃんとした場所を通して安全を確認された家じゃないと、危ないんだ」

そう言って、読んでいた本をバタンと閉じた。



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初めて投稿させていただきました。

読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字、直したほうが良いところがあればご報告お願いします。


異臭のする扉、妙に高い位置にある窓など伏線をもっとばら撒きたかったんですけど難しいですね。






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