出会い
いつもと変わらない朝だった。
私は耳元で鳴り続けている目覚まし時計を止めて、まだ重い瞼を少し開けながら、朝の日差しを浴びるためにカーテンを開けた。
軽く伸びをして、あくびをしながら、焼きたてのパンの香りがする一階へ降りようとしたその時だった。
何かに腕を掴まれるような感覚がした。
「え?」
思わず声が漏れる。と、同時に背中を一筋の冷や汗が伝っていくのが分かった。この部屋には今、自分しかいないはずなのに。後ろを振り返るのが怖かった。だが、このままずっと、立ち尽くしていても仕方がない。
――学校遅れちゃうし…
私は思いきって振り返る事にした。すると…
「……っ!!??」
私の腕をガッシリと掴んでいたのは、17、8歳の美青年だった。
――え、誰!?
心の声が出てしまいそうだった。だが、本当に誰なのか分からないため、尋ねる他なかった。
「…あの、どちら様で……?」
ぎこちない喋り方だった。知らない人が勝手に自分の部屋に上がり込んでいるんだ、仕方ないと思った。男性は暫く黙って私をじっと見ていたが、やっとゆっくりと口を開いた。そして、発した言葉が、
「ここはどこだ?お前は何者だ?」
意味が分からなかった。
「いや、質問してるのはこっちの方なんですけど」
「自分の事なんてなんでも良い。今はお前は誰だと聞いてるんだ。敵か?味方か?」
「敵とか味方とか意味わかんない事言わんでください。記憶喪失とか何かなんですか?」
「…日本語。そうか、味方か」
「はぁ!?」
意味の分からないやり取りが続いた。敵だの味方だの、この時はまだ、この男性がどういう人なのか分からなかったのだから、頭がおかしくなっちゃった人なのだな、と、1人で納得していたといっても、誰も不思議には思わないだろう。
男性は私を味方だと見たのか、決して笑顔は見せないが、初めて目を合わせた時よりも、顔つきが優しくなった。
――とりあえず学校…
壁に掛けてある時計を見て、ご飯を食べる時間はないと判断し、男性をよそに、すぐに朝の支度をして私は急いで学校へと走っていった。