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ひねり~消えた殺人鬼~  作者: 愚童不持斎
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3 『首盗り鬼』の再来

 放課後、私達は再び聞きこみを進めるべく部室に集結した。

 打ち合わせの結果、今度はムツ先輩に少しでも関係ありそうな人物をリストアップしてから当たることになった。

 私達は全員で資料室に行き、ファイルから聴取すべき人物をピックアップしてメモにまとめた。

「よし、準備完了! 全軍突撃!」

 いっきのときの声と共に、私達は分担に従って捜査に出発した。

「あれ……」

 一人目の聞きこみが終わり、二人目に会おうとメモを見た時……。

「あちゃあ……次の人の名前、メモし忘れてる……」

 私は再び資料室に戻るべく走り出した。

 部室の近くまで駆けつけると、扉が開けっ放しになっているのが目に入った。

「しまった……最後に出たの私だっけ。鍵かけるの忘れてた――」

 私はあわてて部室に入り、荒らされていないか確かめる。

 ……とりあえずどこもいじられた形跡はないようだ。窓も全て錠がかかっていた。

「よかった、こっちの扉はちゃんと閉まってる」

 さいわい資料室の扉にはきちんと鍵がかけられていた。

 ――まあこれはユイさんが命より大事な情報を守るため、念入りに施錠していたからだが。

 私は鍵を取り出そうとポケットを探った。――が、そこでピタリと動きが止まってしまう。

 ――鍵がない。

 まさか落としたのかとあせったが、そういえば今日は財布も忘れていた事を思い出した。

「そうだ、今朝は財布ごと家に置き忘れてきたんだ――」

 私はいったん部室から出て、廊下側にある資料室の扉に手をかけた。――しかしそちらは元々閉鎖されている入口なので、当然びくともしなかった。

「誰かに鍵を借りに行かないと。でも――」

 わざわざみんなの捜査の邪魔をするのは悪い。……という気持ちももちろんあるが、自分の間抜けっぷりをさらすのも恥ずかしかった。

「確か職員室にも鍵が置いてあったよね。……そっちにいこっと」

 私は駆け足で職員室に向かった。

「失礼しまーす……」

 できるだけ小声で言って、忍びこむように職員室に入る。

 探偵部は先生達に目を付けられているらしいので、なんとなくここでは肩身が狭い。

 目立たないように鍵を持ち出さないと……。

 私はこっそり鍵置き場まで近付いた。

「日根野さん! 何をしてるんですか!」

「わっ!」

 私はまるで泥棒している所を見つかったように飛び上がった。

 おそるおそる後ろを見ると、そこには腕組みした柴皮先生が立っていた。

「またこそこそといかがわしい事をしてるの?」

「いえ、ちょっとウチの部室の鍵を借りに……」

「とか言って、どうせ勝手に学園内のいろんな鍵を持ち出して、捜査と称して不法侵入しようとしてるんでしょ?」

「ち、違います!」

 私はぶんぶんと首を振る。

「ふうん、そう。なら私も部室まで付いていって、あなたが鍵を返すまで見張ります。やましい事が何もないならいいわよね?」

 ――やましい事はないけど、それは嫌だ。

 ……だが、当然そんなことは口には出せない。

 しかし渋った態度を見抜かれたらしく、柴皮先生は鬼の首をとったように言い放った。

「やっぱり何かたくらんでるのね!? 鍵を盗んで勝手に侵入しようなんて泥棒と同じですよ!」

 そのままくどくどとお説教が始まった。

 うう……違うのに。なんでこんな目に……。

 その後、なんとか話をさえぎって誤解を解いたものの、部室に柴皮先生が同行するという条件は受け入れるしかなかった。

「さあ、モタモタしないで早く来なさい!」

 私は足取り重く、柴皮先生と一緒に部室に向かった。

 途中には他の生徒もかなりいたため、まるで柴皮先生に連行されているような形になっていた私は好奇の視線を浴びまくった。

「日根野さん、やましい事がないならもっと胸を張りなさい!」

 ……刑場に引かれる罪人の気分なのに胸なんて張れない。『とうとう探偵部が何かしでかした』などと、聞こえよがしに噂してる人までいるし。

 ――そして私達はようやく探偵部室のある廊下にさしかかった。

 柴皮先生の背中越しに前方を見ると、さいわいここの廊下には誰もたむろしていなかった。どうやらさらし者にならずに済みそうだ。

 途中の教室にはまだ生徒が何人もいたが、いちいち私達に気をとめる者はいなかった。

「さあ、用事があるなら早く済ませ――」

 開け放たれていた部室の入口に立った柴皮先生が、室内に視線を送るやいなや絶句した。

 先生は硬直したまま全く動かなかったので、私は何気なく脇をすり抜けて部室に入った。

「え……?」

 見慣れた部室に見慣れないものがあり、それが何かわからぬまま私は声を漏らす。

 見ると、テーブルの上から首が生えていた。

 ……よく状況が飲みこめず、しばしぼんやりとそれを見つめる。

「――なっ……生首!?」

 ようやく気付いて、私は声をあげた。

 改めて見てみると、それは粘土らしきものを土台にしてテーブルの上に立てられた、切断された首だった。

 作り物かとも思ったが……その見間違えようもない、逆立った赤い髪は――。

「ムツ先輩……」

 呆然と呟く私。

 変わり果ててはいたものの、それは確かに写真で見たムツ先輩の顔だった。

 ――むき出された濁った目。いまだ苦しみ続けているかのような鬼気迫る形相。まるで絶叫しているかのように開かれた口――。

「な……なんで先輩がここに……」

 私は恐怖でムツ先輩を見続けられず、目を伏せて視線を床に落とした。

 ……すると、すぐ足下にチラシのような紙が落ちているのに気付く。

 私は震える膝を手で押さえながら、ゆっくりとしゃがんでそれを拾った。

 ――そこには、印刷物の文字を切り貼りした、ふぞろいな文章。

『早く私を捕まえろ。さもなくばまた殺す』

 だが私の思考は全く働かず、文章の意味が頭に染みこまないまま、ただ紙を眺め続けていた。

 ――と、その時私と同じく完全にほうけていた柴皮先生が突然甲高い悲鳴をあげた。

 その耳障りな声で、私も我に返る。

 ――しかし、だんだん頭が冴えてくるに従って、私はなぜか脅えを通り越して逆に冷静になっていった。

 柴皮先生の長い悲鳴が響き渡る中、私はふと『首盗り鬼』の伝説の事を思い出していた……。


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