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2・騎士への訴え

前後色々変えました。1・26


「お願いですから調べてみて貰えませんか!」


 溜まっていた仕事も終わり、久し振りの休日であるけれど、オルデリオは一人、日課である見回りをしていた。

 その時、どこからか聞こえてきた声に足を止めた。

 基本的に穏やかな性格を持つ人々が大いこの国で、あれ程まで声を上げる事は珍しい。

 それに、声色もさる事ながら内容も穏やかでは無さそうだ。

 そう感じたオルデリオは声が聞こえてきた方向へと足を進めた。


「お願いします!」


 フェロニカの声が辺りに響き渡る。

 周囲の人々は何事かと一瞬足を止めるも、聞き耳を立てるような真似は美しくないと、通り過ぎて行く。


「そうは言ってもな、あいつは自分から希望して行ったんだし、上の妹達が行方不明になったのは悲しいけど只の偶然が重なっただけだ。それなのに相手の屋敷を調べるなんて彼に失礼じゃないか」

「でも!もう一週間も経つのに一度も連絡が来ないんですよ?着いたら直ぐに手紙を書くってモニカは言ってたのに!」

「それも、きっと単に忙しくて出せてないだけろうよ。何せ相手は大棚の主なんだ。色々とやらなきゃいけない事があるんだろうさ」


 誰に相談しても相手にしてもらえなかった。

 自分でも荒唐無稽な話だとは思うけれど、噂とあまりにも合致し過ぎている現状にいてもたってもいられなかった。

 だから、警邏(けいら)隊に属していて事件に対しても偏見の無さそうな、モニカの兄の一人であるレングンに会いに来たのに。

 ここでもダメなのかとフェロニカは歯を食い縛る。


「けど!」

「どうした」


 それでも尚、諦められず声を上げた時、フェロニカの背後からオルデリオが声を掛けた。

 誰しもが遠目に見るだけだった中、声を掛けられて驚いたフェロニカが反射的に振り返って相手を見て首を傾げた。


「(誰?)」


 警邏隊の制服を着てはいないものの、砕けた口調で話掛けて来たので、レングンの同僚だろうと当たりを付けたフェロニカだったけれど、レングンの言葉で顔を青褪めた。


「ら、ラスオーン少将!?」

「いい。今日は私用で来ているしな」


 その姿を見止めたレングンがバッと手を米神に当てて敬礼をしたのを片手で制す。

 この国で七人だけが着る事を許された騎士服を来ていなかった為、一瞬気付けなかったのだ。

 パレードには行ったことは無いフェロニカだけれど、その名前と姿は知っていた。

 それに、よくよく見てみれば、さらりと揺れる黒髪に赤褐色の瞳は巷に出回っている絵姿と瓜二つである。

 国民なら誰しもが知っている人に対して「誰?」と声に出して言わなくて良かった。

 そう安堵していたフェロニカだったけれど、オルデリオはその事に気付いて驚いていた。俺の(こと)を知らなかったのか、と。

 どこかの誰かのように、自分の顔が国民全ての人間に知られている筈だと言う程、恥知らずではないつもりだけれど、無自覚の内にその中の一人になっていたらしい。まだまだだな。と改めて気を引き締めた。


「それで、一体何の騒ぎなんだ?」

「いえ、その、ラスオーン少将のお手を煩わせるような事では」

「それは聞いてから俺が判断する。概要を話せ」


 その場に立ち止まったまま腕を組み、梃子でも動かなさそうなオルデリオにレングンは渋々口を開いた。


「その、自分の妹が先日嫁いだんです。ですが、それきり連絡がない事を心配した妹の友達が、不安がっているだけなんですよ」

「だって、十日も前に出発したのに、一度も連絡が来ないんですよ?そんなの絶対におかしいんです」

「だから、それは向こうで忙しくしているからだって何度も言ってるだろう?いい加減納得してくれないか」

「でも、モニカが嫁ぐ事が決まる前に、同じ人相手にお姉さん達が婚約してたけど、二人とも事故で亡くなるなんて不自然だし。それに私、噂で似たような事件があったとも聞いたんです!もしお姉さん達の時も同じで、事故じゃなくて故意だったら?モニカもそうなったらどうするんですか!?」

「君は、前から思ってたけど少し疑り深すぎやしないか?人の心はもっと美しいものだよ。こう言っちゃあなんだけど、君は、」

「済まないが、その話を詳しく聞かせてもらえないか」


 レングンが苦言を提そうとすると、オルデリオがそれを遮った。


「けれど、これは彼女の想像で」

「俺が話を聞きたいだけだ。彼女の事は俺が預かる。お前は持ち場に戻ると良い」

「しかし」

「気にするな。幸い今日は休日だからな、時間はある」


 彼らの休日が如何に貴重なものか、警邏隊であるレングンには噂程度でしか聞いた事がない。

 けれど、その噂によれば、一月に数度あれば良い方だと聞く。

 そんな貴重な休日を、妹の友達に付き合わす訳にはいかない。

 そうは思うものの、これ以上何か意見が出来るほど階級も高くないし、親しくもない。

 どうしたものかとレングンは悩んでいるけれど、オルデリオにとってこれは決定事項であった。

 フェロニカの発言にはいくつか気になる点があった。

 それに何より、盲目的と言える程に人を疑わないこの国の民ばかりの中でフェロニカのような存在は珍しく、話を聞いてみたいと思わせた。

 ──普通なら、嫁いだという妹の兄であるこの男に時系列を話させた方が詳細を知れるのだろうが、それは後でも構わないだろう。

 レングンが結論を出せずにいると、オルデリオはフェロニカに目配せし「では、失礼する」と告げて警邏隊詰所に背を向け歩き始めた。

 ──あの目配せは多分、着いて来いっていう合図なんだろうけど。

 話をしに来たのはレングンにで、何だかんだ言いつつもフェロニカの話にここまで付き合ってくれたのも彼の方だ。

 だから、このままオルデリオの方へ着いて行くのは申し訳ない。けれど。

 悩んだのは一瞬で、フェロニカはレングンに頭を下げてからオルデリオの後を追った。

 もっと上の階級の人なら、もう事件についても何か知ってるかも知れないし、と。


「あの、話を聞いて下さるって」

「ああ、そうなんだが」


 有無を言わせずあの場から連れ出したにしては何故か今更言い淀むオルデリオにフェロニカは首を傾げた。


「どうかなさったんですか?」

「いや、話を聞くのは良いんだが、どこで聞いたものかな、と。警邏の詰所は先程のあれで戻り辛いし、下手な店の中では誰に聞かれているか分からない。一番安全なのは騎士団の詰所か執務室なんだが」

「嫌です」


 即答してみせたフェロニカにオルデリオは苦笑した。


「君ならそう言う気がしていたよ。なら、どこか良い場所を知らないかな」


 ここからなら自宅も遠くは無いけれど、初対面の少女を連れて行くのは流石に不味いだろう。

 そんなオルデリオの考えを知る由もないフェロニカは素直に場所について考えていた。

 騎士に訴えなかったのは、レングン以上に取り合って貰えないと思ったからだ。

 けれど、そうでは無いのかも知れない。隣を歩くオルデリオへチラッと見て思う。

 まだ行く先が決まっていない為か、その足取りはゆったりしている。

 急かす訳でもないその様子は好感が持てた。

 けれど、だからこそ他の騎士も居る場所には行きたくなかった。

 騎士に対して偏見を持っていたのが少し後ろめたかった。

 それに対して、少し冷静になった今は後悔もしている。

 けれど、何もしていないのに謝られたって困るだけだろうしね。

 それに、モニカの事だって、こんなにも上の人が聞いてくれるなら、きちんと調べてくれるだろうから問題ないだろう。

 だって、この国の人は何だかんだ言いつつも優しいから、困っている人が居たら赤の他人だって助けてくれるのだ。

 なら、国民を守る立場に居る騎士が助けてくれない筈がないのだ。

 レングンは身内になるかも知れない人間を疑いたくないっていう思いが強くて渋っていただけだし。

 そんな訳で、騎士団の詰所とかにも行きたくない。

 なら何処へ行くかという最初の問いに戻る訳だけれど。

 確かに、そこらの店ではプライベート空間なんて無いし、個室のある店でも余ほどの高級店じゃない限り防音設備なんてある訳がない。

 そんな高級店にはとてもじゃないけど入る気にはなれない。と言うか、入れない。

 後、フェロニカが知っている中で何とか条件を満たせそうな所は一つしかなかった。

 仕方ない。背に腹は変えられないか。

 フェロニカは決意して口を開いた。


「でしたら――」





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