父と子と
日影視点
あれはどこからどう見ても父上だ。
「父上、なのですか」
「ああ、大きくなったな日影」
彼は表情一つ変えずに言う。
俺は正直動揺している。なぜ父上が生きてここにいるのか。
ここにいるのが父上ということは、ニュクスのリーダーは父上ということなのか。
俺の頭の中では様々なことが浮かんできて、混乱してしまう。
「炎真皇成殿、でよろしいですね。なぜあなたがここにおられるのでしょうか」
「むろん、私がニュクスを治めているからだ。それともなぜ生きているのかという問いだったかな。まあ死んでないから生きているということだ」
師匠の問いに対して父上は答える。
やはり父上は……。だけどなぜ。
「それにしても日影、なぜお前はそんなにも弱くなってしまった。そこの師のせいか、それともそちらのお嬢さんのせいか。せっかく覚醒しかけていたというのに」
覚醒?なんのことだ。父上は何を言っている。
「まさか、炎真皇成……お主、炎真の村を焼いたのか!?」
師匠は怒りから声を荒げている。
父上が炎真の村を焼いただって?師匠は何を言っているんだ。
「ほう、察しがいいな。あまり察しが良すぎると死ぬぞ」
父上のすべてを焼き尽くすようなそんな目が、師匠に向けられる。
「とはいえ、事実は認めざるおえまい。私は確かに自分の村を焼いた。日影、お前のためにな」
「俺の……ため?」
父上は続ける。
「お前は、生まれつき炎の才に恵まれていた。私か、もはやそれ以上の才能だったかもしれない。だがあんなところでのうのうと生きているだけでは、その才は潰れてしまうのだよ」
「それで村を焼き、日影に深い闇の感情を持たせようとしたのか!?」
「ああ、その通りだ。まるで見てきたようだな」
師匠は辛そうな顔で言う。
「私はあの日そこにいたからな。お前のせいで日影はあのような姿になっていたのか……お前のせいで」
「ほう、貴様もあの姿を見たのか。あの暗くそれでいて美しいあの姿を。日影は闇の炎の使い手として覚醒するのだよ。そのために生まれてきたと言ってもいい」
何だ。何なんだこれは。
村を焼いたのは父上、理由は俺を闇に堕とすため、俺のせいで皆は死んだ。
「日影!しっかりして!日影のせいじゃない、あなたはこんなところで潰れちゃだめ!」
咲のその言葉にハッとする。
そうだ、今の俺にできるのは、せめて俺と同じ思いを他の誰にも味あわせないことだ。
「やはりお嬢さんでしたか、日影をダメにしたのは。悪いが消えてもらうことにしよう。インフェルノ」
父上は炎系統最上級能力インフェルノで咲を焼こうとする。だがそんなこと俺がさせない。俺は咲の前に出て、右手を突き出し、インフェルノを受け止める。
「今のを素手のみで止めてみせるか。さすがだな」
そんなことを父上、いや皇成は言っている。
「師匠、咲を連れてここから離れてください。」
「日影?何を言ってるの。私も一緒に!」
咲はそう言うが、師匠は悟っているようだ。この戦いに自分たちが手を出せないことを。自分たちではあの男に傷一つつけられないことを。
「分かった」
師匠はそれだけ言って、咲を抑える。
「いや、離して!日影と一緒に戦うわ」
それでも俺の方へ来ようとする咲。
俺はそこで、自分と皇成を囲むように大きな炎の円を形成した。
そして、俺は咲に言う。
「咲、俺はちゃんと戻ってくる。だから待っててくれ。お願いだ」
咲は俺の声を聞き、その言葉に従うしかないと分かったようだ。
「分かった。ちゃんと無事に帰ってきてね」
彼女は目に涙を浮かべながら、そう言った。
必ず、必ず咲のところに戻るよ。
そうして咲と師匠はドームの方向に向かった。
「ようやく邪魔者が消えたか。待ちくたびれたぞ。私と来るか、日影」
「いえ、父上、いや皇成。俺はあんたをここで倒す」
皇成はそこで頬を吊り上げ、笑みを浮かべる。
「そうか。ならば貴様は今より敵。ここで殺してやろう!」
そうして俺と皇成の最後の闘いが始まる。
俺たちの周りに燃え盛る炎は、まるで世界を赤く染め上げたような、そんな風に見えた。